群馬県立近代美術館で開かれている企画展「コレクションのつくりかた/つたえかた-日本と西洋の近代美術」は、今年開館50周年を迎えるということで、コレクションのなかから100点を紹介するというもの。
いつもは2階常設展示室で展示している作品を1階企画展示室で展示しているみたいな感じ。しかも今回は日本、西洋の近現代美術作品がメインで現代美術の展示はないし、日本画の展示もない。いつもの常設展の方が魅力あるような気もしないでもない。ちょっと拍子抜け。
どうせなら蔵出し的に展示作品を増やして、上下2列、3列展示とかすればいいのにとちょっと思ったりもした。以前、東京富士美術館で開催した「とことん見せます富士美コレクション」みたいなものをちょっと期待していたのだが。群馬に所縁があるという福沢一郎、山口薫にしろ、もっと沢山作品があるはずなのにと、ちょっと思ったりもした。
群馬県立近代美術館は、1962年に設立準備会が設立された。会長は郷土の実業家で芸術振興にも尽力した井上房一郎。高崎に本社があった井上工業の二代目社長。学生時代にはパリに遊学して絵を学び、帰国後は家業を継ぐほか様々な芸術家と交流し、群馬県交響楽団の設立。家業を盛り立てたほか、・高崎紙工取締役・高崎毛織社長・高崎生コンクリート会長などの要職を歴任するなど、郷土の実業家にして篤志家でもあった。また田中角栄の庇護者でもあったという。
高崎駅近くの高崎市美術館の敷地の一部は、旧井上房一郎邸が保存され観覧されている。たしかアントニン・レーモンドの自邸兼事務所を模したものだという。
井上工業は2000年には経営的に行き詰まり、2008年には破産している。さらに同年架空融資により幹部が逮捕されるなどの不祥事も起きている。井上房一郎氏には咎はないとはいえ、群馬県の様々な文化事業に貢献した功績がなんとなく棄損されているようでなんとなく微妙な思いを持つ。
群馬県立近代美術館には井上房一郎氏が収集した古美術のコレクションが寄贈されており、これは秋に公開予定だとHPにあった。
開館50周年記念 群馬からみる日本の美 戸方庵井上コレクション5つの扉 - 群馬県立近代美術館
群馬県立近代美術館は1974年に開館(設計は磯崎新)。以降、1988年にルドン《ペガサスにのるミューズ》収集、1990年モネ《ジュフォス、夕方の印象》、1994年ルノワール《読書するふたり》、1996年ピカソ《魚、瓶、コンポート皿(小さなキッチン》、《ゲルニカ(タピスリ)》などを収集している。
《読書するふたり》
小品だがルノワールの印象派時代の良さが凝縮されている。もう何度も観ているけれど、いつ観ても心地よく感じる。モデルは当時画家の恋人だったモンマルトルの踊り子マルゴことマルグリット・ルグランと画家の弟エドモン。
《ペガサスにのるミューズ》
1988年に購入。下世話な話だが購入価格は当時100万ドル。1億を超える作品は初めてだったとか。当時、1ドルは120円くらいで超円高時代。円高だからこそ、こういう名画が買えたということか。今なら1億6千万くらいとなるが、多分、今は名画の価格が天井知らずに高騰しているので、この100万ドルで購入はあり得ないだろう。
色彩感覚にあふれ、ルドンの象徴主義を際立たせるような雰囲気の作品
《足を洗う女》
これも大好きな作品。安井曾太郎というとセザンヌの影響が濃いとはよくいわれる。この作品でも構図的には背後のドア、床、足を洗う女、水を張ったたらい、水差しと多視点的だ。安井地震は、この作品についてドーミエの影響を語っているとは、美術館に設置してある解説カードにあった。ただ自分的には構図と色調はセザンヌ、人物はルノワールみたいな風に思っている。
《湯浅一郎》
湯浅一郎(1868-1931)は郷土の画家で安中の出身。山本芳翠の生巧館画塾に入り、その後は黒田清輝の天真道場に学ぶ。1896年、東京美術学校に親切された洋画科に入学、白馬会結成にも参加。1905年から渡欧してスペインでベラスケスの模写に取り組んだ。帰国後は山本新太郎とともに二科会結成に参加。