ダリル・ホール&トッド・ラングレンのライブに行く (11月23日)

 有明、東京ガーデンシアターでのダリル・ホール&トッド・ラングレンのライブに行ってきた。

 友人からLineでダリル・ホールとトッドが来るけどノーマークだったと連絡があったのは10月の後半だったか。しかもチケットは完売とも。二人が同時に来るというのはこっちも寝耳に水だったのだけど、まあ残念と思っていたら、最終日のチケットに余裕があるというので取ってもらった。

 東京ガーデンシアターは初めて行くところ。そもそも有明なんてまず行かない。今はタワマンが林立していて、なんとなく富裕層が住むところみたいな印象。ゆりかもめに乗るのは、昔は東京国際ブックフェアビッグサイトで毎年やっていたのでよく行ったけど、あれも確か2017年からは開催されていない。出版不況、紙媒体の凋落と呼応しているということか。

Daryl's House

 ダリル・ホールは77歳、トッド・ラングレンは75歳、年齢からすると最後の来日になる可能性もあるか。今回のライブは、ダリル・ホールのYouTube配信ライブ番組である「Live from Daryl's House」の延長線にあるものらしい。あのリラックスした雰囲気そのままのライブというコンセプトだ。あの番組は2007年から配信されていてすでに87回を数える長寿番組となっている。

Live from Daryl's House - Wikipedia (閲覧:2023年11月27日)

 自分はいつ頃からこの番組見ているか、よく覚えていないけど多分10年くらい前からではないかと思っている。このライブは有名どころをゲストに呼んだり、若手ミュージシャンを呼んだりでそのへんの取り合わせが絶妙。しかもダリル・ホールとバック・ミュージシャンの技量が半端なく凄い。番組は好評でウェビー賞も受賞している。

 この番組はニューヨーク郊外ミラートンにあるダリル・ホールの自宅でのセッションというアット・ホームな雰囲気が売りだったのだが、今ではその雰囲気をそのままにしたようなライブ・ハウスも作られて、若手・中堅ミュージシャンが連日出演している。ライブを楽しみながら美味い酒、料理に興じるということらしい。この店でのライブも何度か配信されたYouTubeで観ている。

 この店の経営にダリル・ホールがかんでいるのかどうかはわからない(多分かんでるかも)、さらにいえば彼自身はビッグ・ネームなので出演することはないのだろうが、コンセプトはまさしくダリルズ・ハウスなのだ。

 Live from Daryl's Houseにトッド・ラングレンはたぶん2度くらい出演している。一度はトッドが当時住んでいたハワイの家で演奏されたものだったと記憶している。ライブ演奏したり、みんなでバーベキューしたり、フレンドリーな感じだった。

 ダリル・ホールとトッド・ラングレンは、トッドがホール&オーツのアルバムのプロデューサーをやって以来の付き合いだ。互いにブルーアイド・ソウルを得意としているだけに多分仲もよいのだと思う。たしか1978年にロキシーでやったトッドのライブにもホール&オーツはゲスト出演していて、そのライブアルバムにも二人の演奏が記録されていた。

ライブスケジュールとコーネリアス

 さて今回のライブは以下のように3ヶ所で公演となっている。

ダリル・ホール アンド ザ・ダリルズ・ハウス・バンド ウィズ スペシャルゲスト トッド・ラングレン DARYL HALL and The Daryl’s House Band with Special Guest TODD RUNDGREN (閲覧:2023年11月27日)

 11月19日 すみだトリフォニーホール

 11月21日 Zepp Namba

 11月23日 東京ガーデンシアター

 23日のみ二人の前にコーネリアスのライブもあるという。コーネリアスって誰?と思ったら、友人曰く小山田圭吾のバンドらしい。小山田って?と聞くとオリンピックの時に過去のイジメとかでやたら叩かれたやつという。なんとなく思い出した。さらにいえば、かってフリッパーズ・ギターの中心メンバーだったと。それなら知っていることは知っているか。まあまあ息の長いミュージシャンだ。

 とはいえなんで小山田圭吾と思ったのだが、友人に言わせるとおそらくトッド・ラングレン的な音楽もやっているのだとか。おそらくトッドが以前やっていたコンピューターを駆使したような音楽と類似した指向性があるのだとか。まあいいか。

 コーネリアスは小山田を含めて4人の編成。ドラムとベース&キーボードが女性だ。小山田もすでに54歳になるのだが、メンバーもだいたい同じくらいか少し上くらい。みんなスタジオ・ミュージシャンやっている人たちみたいで技術的には高い。演奏は10曲やったみたい。

 まあ単体で聴いたらなかなかと思えるのだろうけど、どうしてもトッドとダリル・ホールが控えているだけに、あまり緊張感もなく、どこかで早く終わらないかみたいな感じだった。今回のライブでは、トッドもダリル・ホールもそれぞれ10曲以上演奏するはずなので、コーネリアスはちょっと余計かなと思えたりもする。残念だけど前座感がどうしても漂ってしまう。これはコーネリアスにとっても、聴いている我々にとってもちょっと不幸な感じだ。余計に聴けてラッキーみたいな感じにはどうしてもならない。

 あとコーネリアスのライブは、映像と演奏とのコラボみたいな感じですすむ。ステージ奥のスクリーンにCGを駆使したデジタル映像が延々流れるなかでライブ演奏が続く。なかなかユニークだし、ある種の売りなんだろうけど、これもなんとなくこれから始まるだろうトッドとダリル・ホールの音楽と少しばかりミスマッチな感じがした。なんか違うんだよな。

 トッド・ラングレンがかってコンピュータを駆使した演奏を行っていたのは知っている。20世紀末くらいだと思うが来日したときは、ステージにトッドが一人。あとはコンピュータが数台あるだけで、それを操作しながらのライブだったという。この日一緒に行った友人はそのライブも見ているのだが、けっこう面食らったとか。

 今回のトッドもそうしたテクノ系の演奏やるのならよかったけど、たぶん違う。どちらかというと、70過ぎの老ミュージシャンがやや懐メロ系の演奏で昔のヒット曲を演奏する。我々はノスタルジックな気分でそれを享受するということなんで、最先端の音楽はちょっとというか、だいぶミスマッチというのが実感だった。

 さらにいえば、このての音楽やるなら、ぜんぶ音源だけでいいような気もしないでもない。ドラムも打ち込みだけでいいように思ったり。なんかメンバーはみんな腕達者なベテランミュージシャンなのにちょっと残念というか。なんていうかライブってもっと身体的な部分で成立しているはずなのにねと思ったりして。

トッド・ラングレン

 そして第二部的にトッド・ラングレンのライブ。

 

 トッドのライブは2019年のすみだトリフォニー・ホール依頼。なんとなくそのときよりも少し痩せたかなと思えるくらいにスタイリッシュな雰囲気で若々しい感じもした。もっとも出だしでハンドマイクを持ってステージ移動する際に、たぶんコードか何かに引っかかってコケそうになってたりして、やはり年齢的な部分はあるかもしれない。

 曲はおなじみのもの中心に全部で14曲。2019年の時とさほど変わらない、きちんとしたパフォーマンス。懐かしい曲ばかりでゆったりリラックスして聴けた。バックのメンバーはダリルズハウスでお馴染みのダリル・ホールのバックをやっている連中。ホール&オーツのバックでサックスを響かせるチャーリー・デチャントも来ているのでひょっとしたらと思っていたのだが、19日のトリフォニーでのセットリストを確認すると、懐かしいミラクルズ、インプレッションズのナンバーのメドレーが入っていた。

「I'm So Proud」「Ooo Baby Baby」である。この2曲は多くの歌手がカバーしている。自分が知っているところではローラ・ニーロ山下達郎など。トッドはたしか4枚目のアルバム「A Wizard, a True Star」(1973)に収録しているのでかなり以前からやっている。ひょっとしたらこのメドレーはトッドが最初にやり始めたのかもしれない。とにかく大満足の14曲だった。

Todd Rundgren setlist

01.Real Man
02.Love of the Common Man
03.It Wouldn't Have Made Any Difference
04.We Gotta Get You a Woman
05.Buffalo Grass
06.I Saw the Light
07.Black Maria
08.Unloved Children
09.Hello It's Me(Nazz song)
10.Sometimes I Don't Know What to Feel
11.I'm So Proud(The Impressions cover)
12.Ooo Baby Baby(The Miracles cover)
13.I Want You(Marvin Gaye cover)
14.The Want of a Nail

ダリル・ホール

 ダリル・ホールを実際に観たのは2015年武道館以来。そのときはホール&オーツとして来ていたか。そういえばちょうど23日の日にダリル・ホールとジョン・オーツの訴訟沙汰のニュースが流れてきた。それもジョン・オーツにダリル・ホールへの一時的な接近禁止命令がでたというショッキングな内容。

「ホール&オーツ」ダリル・ホールがジョン・オーツに接近禁止命令を申請…米メディア報道(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース (閲覧:2023年11月27日)

 まあもろもろ確認すると、この接近禁止命令はどうも紹介した新聞等の誤訳のようで、二人の楽曲の著作権は「ホール・オーツ・エンタープライズ」という会社で管理していて、二人がこの会社の株を持っている。その持ち分については不明だが、どうもジョン・オーツが自分の持ち分の株だか、著作権を他社に売却しようとしたところ、ダリル・ホールがその差し止めを求めたものらしい。

 今回の来日ライブにしろ、「Live from Daryl's House」の配信などで、ダリル・ホールには経済面で余裕がある。それに対してジョン・オーツは金銭面で困っていて、自らの著作権の持ち分を換金化しようとした、そういうことのようだ。

ダリル・ホールがジョン・オーツに訴え~何がどうなっているのか 簡単に解説|Soul Searcher (閲覧:2023年11月27日)

 結局、バンドの解散とかそういうのは基本金なのかなと思ったりもする。昔、モンティパイソンのメンバーがビートルズのパロディ・バンドを作ってその結成から解散までをドキュメンタリー風に仕上げた映画があった。その中では著名なアーティストがたくさん、インタビューという形で出演していた。ジョージ・ハリソンミック・ジャガーなんかも。たしか最後にラットルズの解散理由を問われて、ミック・ジャガーがにべもなく「金と女」と答えるところで終わったような記憶がある。まさに金だ。

 まあ、どうでもいい話だが、友人と落ち合って最初にかわしたのが「ニュース見た」だったので、まあまあタイムリーな話題といえばそういうことだ。

 

 ダリル・ホールのセットリストも今回のライブでは全部一緒のよう。ホール&オーツの曲を中心に10曲演奏してアンコールに突入。そこでトッド・ラングレンを呼び寄せてデュオで3曲、トッドがはけてから最後に1曲で締める。まあ定番のヒット・ナンバー中心でリラックスして聴くことができた。しかしダリル・ホール、77歳とは思えないくらいに声も出るし、きちんと演奏もしている。よっぽど節制しているのかなと思ったりもした。

 

Daril Hall setlist

01.Dreamtime
02.Foolish Pride
03.Out of Touch(Daryl Hall & John Oates song)
04.Say It Isn't So(Daryl Hall & John Oates song)
05.I'm in a Philly Mood
06.Everytime You Go Away(Daryl Hall & John Oates song)
07.Babs and Babs
08.Here Comes the Rain Again(Eurythmics cover)
09.Sara Smile(Daryl Hall & John Oates song)
10.I Can't Go for That (No Can Do)  (Daryl Hall & John Oates song)

Encore:
11.Wait for Me (Daryl Hall & John Oates song) (with Todd Rundgren)
12.Can We Still Be Friends (Todd Rundgren cover) (with Todd Rundgren)
13.Didn't I (Blow Your Mind This Time) (The Delfonics cover) (with Todd Rundgren)
14.Private Eyes (Daryl Hall & John Oates song)

 やはりというかホール&オーツ時代のヒット曲が演奏されると自然と身体が揺れるような感じだ。「Out of Touch」「Say It Isn't So」「Everytime You Go Away」などなど。そして「Sara Smile」のイントロがかかると一気にテンションが上がる感じ。そのまま「I Can't Go for That (No Can Do)」である。  80年代「ベストヒットUSA」を毎週見ていた自分らにはもうたまらないという感じだ。

 周囲を見渡してもかなり平均年齢は高い。多分50代から自分らのような60代後半あたりか。あと今回は、コーネリアス、トッドの演奏の後それぞれ休憩があったのだが、ロビー等で周りを見ると、1人客がけっこう多い。それも女性の1人が多いような感じがした。なんていうか80年代にホール&オーツをよく聴いた人たちなんでしょうね。

 自分はというと、以前にも書いたかもしれないが、ホール&オーツは『Abandoned Luncheonette』から入ったクチ。どちらかというと70年代に聴き始めた感じだったか。なので80年代にヒットチャートの常連になった彼らを、あのホール&オーツがみたいな感じを持っていたような。まあいいか。どっちにしろ40年以上前の話のことだ。

 アンコールでトッドが再びステージに現れて、ホール&オーツの「Wait for Me」、トッドの「Can We Still Be Friends」が始まる頃には、なんとなく目頭が熱くなるような感じになった。この2曲は今回のツアーではアメリカでも必ず歌われるものだ。改めてダリル・ホール77歳、トッド・ラングレン75歳、二人が並ぶ姿を見るのはきっと最後になるのだろう。いや年齢的にいえば単独でも来日することはないかもしれない。そんなことを思うと自然とウルウルとしてくるのだった。