大塚国際美術館二日目
午前中、渦の道で遊んだりしたので、2日目も大塚国際美術館に着いたのは1時頃。入り口で前日同様に車椅子用の駐車場を案内されて、ぐるっと山に沿って回り搬入搬出用の入り口へ行く。考えてみればこの美術館は山をくり抜いて作ったところだ。
昨日が16回目なので、今日が通算17回目。多分、これが最後になるのだろうかな。
今回はいつも必ず寄るシスティーナ・ホールもスクロヴェーニ礼拝堂もパスして、いきなりB1のバロックから初める。そして多分、いままでも一番滞在時間の多かったはずのB2へ。ここでは古典主義、ロココから近代絵画と順に観ていく。まあ勝手しったるというか、どこになにがあるというのが全部わかっている。
近代の印象派、新印象派のあたりをざっと観てから、すぐに上階の1Fに上がりゲルニカや現代絵画とテーマ展示を観てそのまま2Fの現代絵画に。実はこのへんが一番疎かというか時間が足りなくなってしまう。たいていの場合、《ゲルニカ》と《秋のリズム》を観てあとはほとんど駆け足みたいなことが多かった。なので2Fのテーマ展示はほとんど観ていなかったかもしれない。
なので2Fのテーマ展示、レンブラントの自画像一挙14点とか「運命の女」などはきちんと観たのは初めてだったかもしれない。「運命の女」の中にはカラヴァジェスキでレイプ被害を訴え出たという女流画家アルテミジア・ジェンティレスキの《ユーディット》があるのも発見した。
それから妻と落ち合ってやや遅めの昼食をB2のジベルニーでとった(前日はさらに遅い時間にケーキセットを)。それからはほとんど妻の車椅子を押しながら、再びB1の近代絵画を観て回った。
その後オリジナル作品を観たもの
しかし、大塚国際美術館で観た複製の名画を後にオリジナルで観たものってどのくらいあるのだろう。初代館長で創設者の大塚正士氏は美術館の設立に際して「一握りの砂」という名文を残している。その最後に大塚氏はこう記している。
本館では東京大学の青柳正規副学長を長として、色々な学生に美術を教える、ということを基本に考えて古今の西洋名画の中から選んだ作品を展示してあります。これをよく見ていただいて、実際には学生の時に此処の絵を鑑賞していただいて、将来新婚旅行先の海外で実物の絵を見ていたければ我々は幸いと思っております。
「一握りの砂」
自分は学生ではないし(今は高齢者ながら通信教育の学生ではある)、将来海外で実物を見ることもまずないだろうとは思う。それでも毎年少なからずの展覧会に行っていると、様々な名画が日本に来て現物にお目にかかる僥倖がある。近代以降の作品に限って、展示作品リストにオリジナルを観たものに印をつけていくと30点を超えるくらいになる。試しに記憶を辿って羅列してみる。
《ひまわり》 ファン・ゴッホ ロンドン・ナショナル・ギャラリー
《ひまわり》 ファン・ゴッホ SOMP美術館
《戦艦テレメール》ターナー ロンドン・ナショナル・ギャラリー
《オフィーリア》 ジョン・エヴァレット・ミレイ テート・ギャラリー
《ベアタ・ベアトリクス》 ダンテ・ゲイブリル・ロセッティ テート・ギャラリー
《メエメエ子羊》 マドックス・ブラウン バーミンガム美術館
《フロエアル》 ラファエル・コラン アラス美術館
《ボール》 ヴァロットン オルセー美術館
《春》、《落穂拾い》、《羊飼いの少女》、《晩鐘》 ミレー オルセー美術館
《フォリ=ベルジェールのバー》 マネ コートールド美術研究所
《笛を吹く少年》マネ オルセー美術館
《カササギ》、《サン=ラザール駅》 クロード・モネ オルセー美術館
《桟敷席》 ルノワール コートールド美術研究所
《ぶらんこ》、《都会のダンス》、《田舎のダンス》 ルノワール オルセー美術館
《白のシンフォニー》 ホイッスラー テート・ギャラリー
《灰色と黒のアレンジメント》 ホイッスラー オルセー美術館
《松の木のあるサント=ヴィクトワール山》 セザンヌ コートールド美術館
《選ばれし者》 ホドラー ベルン美術館
《第九の波濤》 アイヴァゾフスキー ロシア美術館
もっと若い頃だったら、海外の美術館巡りなんてことをやってみることができたかもしれないが、さすがに四捨五入すれば70代という御年では難しいだろう。車椅子の妻と二人で海外というのが多分無理だと思うし、あとは語学のハードルが高過ぎる。結局海外の美術館は、27年前の新婚旅行で行ったメトロポリタン美術館だけということで終わりそうだ。それでも一度でも行っているだけ幸福かもしれないと思う。
最後なので作品を沢山撮影した
初日、二日目とデジカメを使って沢山写真も撮った。多分300枚以上になるだろうか。これまでの分をあわせると重複は沢山あるにせよ、1000枚を軽く超える陶板複製画の画像がある。けっこうな確率でピンボケだけど、まあいいか。これからそうした画像を整理したり、眺めたり、そんなことで時間を費やすことになっていくのかもしれない。
気になった作品をいくつか
《ホラティウス兄弟の誓い》
新古典主義の代表選手ダヴィッドの代表作でもある。一点透視図法と半円アーチの反復による対称性、英雄的な主題などダヴィッドの歴史画の典型的な作例。この時代、王立アカデミーとサロンを中心とした絵画の世界では歴史画・宗教画が最も高位にあるとされていたのだが、その最高峰にいたのがダヴィッドということなんだろう。
ダヴィッドに代表される新古典主義、それ以前のブッサンやシャルル・ル。・ブランらの古典主義。その古典とは結局、ルネサンスやそれが模範としたギリシア・ローマの写実性や理想美に立ち返るということだったということを改めて確認できるような気がする。
《グランド・ジャット島の日曜日の午後》


この大作がシカゴから日本にやってくる可能性は少ない。多分、自分が生きている間は難しいだろうなと思う。それを思うと原寸で鑑賞できるのは有難い。この絵の静的な要素と抒情性は、計算し尽くされた点描画法によるものなのか、スーラの感性によるものなのか。拡大した部分を観ていても、どこか生気に乏しい。この絵の世界自体がなにか霊界、異界のような気がしてくる。
ルノワール、ダンス三部作
《都会のダンス》と《田舎のダンス》はたしか国立新美術館で開かれたルノワール展で観た。2016年のことだったと思う。そして同時期に今なもうなき名古屋ボストン美術館に《プージヴァルのダンス》が来ていて、淡路旅行の帰りに急遽寄って観た。有名なダンス三部作が同時期に日本に来ていたことがけっこう凄いことのようにも思うし、それを観ることができたのはラッキーこのうえないことだったと思う。
この作品のモデルは《プージヴァル》と《都会》の二点はユトリロの母であり、自ら絵筆をとった画家でもあるシュザンヌ・ヴァラドン。《田舎》の方は後にルノワールの夫人となるアリーヌ・シャリゴである。顔立ち、雰囲気、すべてにわたってヴァラドンは美しく、ルノワールだけでなくロートレックやシャヴァンヌなど多くの画家のモデルとなったのもその美しさ故だったのだろう。
アップにしてみると、ルノワールのヴァラドンへの思い入れみたいなものさえ感じられる。この娘の一番美しい素顔をキャンバスに描き切るみたいなそんな情熱みたいなものすら伝わってくるような。


マネ《笛を吹く少年》
この作品もオリジナルを観ている。オルセー美術館収蔵の作品をオリジナルで多く観ているのは2014年に国立新美術館で開かれたオルセー美術館展で名画が多数やってきたからだろう。その時の目玉作品がこれだったと記憶している。《草上の昼食》、《オランピア》、《フォリー=ベルジェールのバー》など代表作、傑作が多数あるけれど、一点となると実はこれではないかと密かに思っている。構図、色遣いなど、すべてにおいて完成度が高いかなと。
《湖をわたるアヴェ・マリア》
象徴主義の人らしいのだが、どのへんが象徴的なのかが実はよくわかっていない。なんとなく聖家族みたいなものをモティーフにしているのかなと思ったりもする。
ここ8年くらい、年賀状の絵柄はずっと名画を使っている。そして7年前のひつじ年の時に使ったのがこの絵だった。
《出会い》
毎回、なんとなく心に残る作品。バシュキルツェフはウクライナ出身の女流画家。時節柄なのか上野の西洋美術館にバシュキルツェフの胸像が展示してあった。
《ボール》
この作品もどこか心に残る作品。その後、2014年に三菱一号館美術館でのヴァロットン展で現物を観た。また2017年に同じ三菱一号館でオルセーのナビ派が行われたときに再開している。抒情性とともに、前景の俯瞰からとらえた少女とボールの図像と後景の人物がいる景色にどこか空間のゆがみが感じられ、なにか不思議というか異様なものすら感じさせる。単なるボールと戯れる子どもの景色、そういう憧憬性とは異なるものがあるようにも思えた。
個人的オリジナルを観てみたいランキング
《北欧の夏の宵》
スウェーデンの画家リッカード・ベリ(リッカルド・ベリ)の作品。リッカード・ベリ(1858-1919)は、肖像画、風景画を得意とした画家で、当時のスウェーデンの画壇(アカデミズム)に反逆する若手画家の主導的立場にいた人らしい。その後はスウェーデン美術界の世代交代の中で主流派に転じ、晩年には国立美術館の館長を務めた。
リッカルド・ベリ - Wikipedia (2022年10月5日閲覧)
この絵のモデルは、男性がスウェーデン王室のエウシェン王子で女性は歌手のカリン・ピークだという。
エウシェン (ネルケ公) - Wikipedia (2022年10月5日閲覧)
Prince Eugen, Duke of Närke - Wikipedia (2022年10月5日閲覧)
エウシェン王子は美術愛好家であり自らも画家として絵筆を握った。ウィキペディアの記述によれば生涯独身で同性愛者という説があるとか。そうだとすればもう一人のモデルであるカリン・ピークとは<そういう関係性>はないことになる。ただしこの美しい絵にはどこか親和的というか、親密な雰囲気もある。さらにいえば二人は湖を見つめながら、多分お互いのことを考えているような、そういう心理描写も感じさせる。
この絵、この画家も大塚国際美術館で初めて知った人である。この絵はいつかオリジナルを観てみたい個人的ランキングの第三位である。
《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》
ジョン・シンガー・サージェント(1856-1925)は、フランスで美術教育を受けたアメリカ人画家。主にイギリス、フランスで活躍。この人の肖像画はいろいろなところで観ている。つい最近も東京都美術館のボストン美術館展でも《国王の戴冠式におけるチャールズ・スチュアートと甥》が出品されていた。記憶している限りでは、2018年に世田谷美術館っで開催された展覧会で《チャ―ルズ・E.インチズ夫人(ルイーズ・ポロメイ)》が印象的だった。あと現在閉館中の東京富士美術館にも1枚女性の肖像画が所蔵されていたと思う。たしか《ハロルド・ウィルソン夫人》だったと思う。
もう何度も写真を撮り、何度もアップして紹介している作品だ。日本趣味の提灯を手に遊ぶ娘たちを描いた作品である種アンティミストな趣がある。この絵がいつかオリジナルを観てみたい個人的ランキングの第二位。
《エデンの園》
そして栄えある個人的オリジナルを観てみたいランキングの1位はこの作品《エデンの園》である。ヒュー・ゴールドウィン・リヴィエールについてはほとんど情報らしい情報もない。イギリスの画家でもっぱら肖像画で活躍した人らしい。
ヒュー・ゴールドウィン・リヴィエール - Wikipedia (2022年10月5日閲覧)
Art UK | Discover Artworks (2022年10月5日閲覧)
この女性の男性を見つめる眼差し、表情。恋する女性の一瞬の表情、美しさを見事に描ききっている。そして男性の顔が見えないところも想像力をかきたてる。もうオーソドックスに魅力溢れる一枚だと個人的に高く評価している作品だ。