ルーブル彫刻美術館 (5月12日)

 この美術館の存在を知ったのはその週の始め。どうも旅行中の天気はあまり良くないので、屋外の観光はちょっと難しいかもしれない。そうなると伊勢志摩旅行で行くところは限られてくる。場合によっては伊勢神宮は内宮、外宮ともにだめかもしれない。屋内で行けるところはないかと検索していてヒットしたのがここ。

ルーブル彫刻美術館

 復刻、コピー品ということでよくある観光地のB級施設かと思ったのだが、HP等にはルーブル美術館から許可を得て、ルーブル美術館の実物から直接型を取って制作された模刻品だという。しかもそうして模刻・鋳造された作品は3000点以上にのぼるというけっこう本気ぽいものが感じられる。

 自分は、芸術作品についてはオリジナル品に重きをおいていない。まあ現物見ることができればそれにこしたことはないけど、世界中の美術館、博物館に行ける訳でもないし。絵をよく見るようになったのも、多分15~6年前に鳴門にある大塚国際美術館に行ったからだと思う。あそこで数々の西洋名画の陶板複製画を観て西洋美術の良さを実感した。

 まあ人生にシスティーナ礼拝堂を見ることなんて、一生のうちに一度か二度あればいいと思う。自分は一度もないし、多分この先に見に行くこともないと思う。それでも大塚国際美術館ですでに12~3度は原寸の陶板複製のミケランジェロ作品見ている。そういうことでいいんじゃないかと。

 大塚国際美術館の設立者で大塚製薬の二代目社長大塚正士氏が、複製画を気軽に見て、いつか海外旅行に行ってオリジナルを見てもらえればみたいなことを書いていたというが、多分そういうことなんだと思う。図版や複製品に触れて芸術作品を面白く感じて、海外に行ったり、国内企画展でオリジナル作品が来たときなどに見ることができればいいと。

 そういう意味じゃ、もっと複製品が気軽に見ることが出来れば素晴らしいと思うのだが、大塚国際美術館の規模まではいかなくても、あの中の名画100選くらいが各県の県庁所在地くらいで見ることが出来れば、特に子どもたちが気軽に目にすることができれば一番いいと思ったりもする。大塚国際美術館の入場料は3300円と多分国内の美術館の中でも一番高い方だけど、小中高生は550円とかなり格安になっている。さらにいえば徳島県内の小中学生はけっこう社会見学みたいので無料で見れるのではなかっただろうか。

 話は一気に大塚国際美術館のほうにいってしまったけど、ようは芸術作品についていえば複製品を気軽に目にできる環境は必要だと思う。そういう意味ではこのルーブル彫刻美術館はけっこうポイント高いのではないかと思う。

ルーブル彫刻美術館 - Wikipedia

 もともとは大観音寺の開山した竹川勇次郎氏がルーブルに十数回通いつめて交渉をかさねて復刻版彫刻による美術館を開館したというもの。どうも竹川氏は僧籍に入る以前は実業家だったようで、そこで私財を大観音寺の寺院やこの美術館建設に投じることができたということらしい。やっぱり宗教は儲かるというか、まあ税金払わない分、文化に金使うこともできるということなんでしょう。

 今回は雨がかなり強く降っていたので行かなかったけれど、もともとの大観音寺も33メートルの観音像があったり、カエルや猫のオーケストラ像があったり、さらにはマイク握りしめたカラオケ観音像があったりとかなり怪しげというかB級感が溢れているよう。まあ宗教は判らんということでスルーする。

 美術館の方はというとかなり気軽な感じで名品の復刻・模刻品がとくにキャプション等もなく陳列してある。多分、専任の学芸員がいてという、そういう所ではないみたい。でもコピー品とはいえ、名作揃いなのでなかなかに見応えはある。いや、それ以上という感じで、これは美術愛好家、彫刻や西洋美術史勉強している学生さんなどは一度訪れた方がいいと思うくらい充実している。

 自分もここのところ、西洋美術史のレポート作成のため古代ギリシア、ローマの美術について学んでいるところなので、コントラポストやドレイパリーという言葉を実見させてもらったって感じである。いや、勉強したばかり、本で読んだばかりの知識を実際に作品を見て確認するってとっても重要なことだと思ったりもした。

 まず館内に入ると最初に眼に入るのは「サモトラケのニケ」。後ろ側なんて図版では確認できないけど、なんか布がひるがえっている。調べるとニケは薄いキトンというドレスを身に着けていて、さらに腰の部分には太く巻き付いたマントがほどけていて、それが後ろの部分で風にひるがえっているのだとか。

 多分だけど、実際にルーブル行っても多分見学客が二重三重に折り重なっていて、こんな風に至近でいろんな角度から見ることはできないのではと思ったりもした。

 そして、右手を見るとそこにはルーブル彫刻の二枚看板のもう一つ「ミロのビーナス」があります。

 これも至近から周囲をぐるぐると回ってみてみるとなかなか見応えがある。ギリシア時代の理想的なプロポーションなんだろうけど、こんなに腹筋バキバキの人っていたのかどうか。絶対にこれ、リアルなモデルとかではなくて、理論というか芸術家、彫刻職人が頭の中でこさえた理想的な人体なんだろうなという気がする。その流れでいうと男性の立像もみんなさそうだ。

円盤投げ像」(ミュロン) 紀元前450年頃

「ヘルメス」(プラクシテレス?) 紀元前100頃 ヘレニズム時代の模刻

「古代のアポロン」 紀元前500年頃

 古代ギリシアのこの手の理想美の追求は2000年以上を経た現代にも多分影響を与えている。美しい人体というのはだいたいこういう筋肉質な引き締まった身体だから。結局このせいで、現代人も日々ジム通いを強いられるっていうことだ。ギリシア美術がもっとふくよかな体形を理想美にしてくれていれば、もっと現代は生きやすい世の中になっていたのではないかと、まあいいや。

「東洋の踊り子」 シュヴァイニ作 1883年

 その他、作品名は失念してしまったけど、これも最近学習した知識だけど、もうどれもザ・ドレーパリーっていう感じだ。

 彫刻は本当にこの衣服の襞が命というところか。

 

 この美術館はルーブルの名を冠しているけれど、ルーブル以外の著名な美術館の名品のコピーが多数ある。すでにアップしたものにもあるがまあ有名どころというとこのへんでしょう。

「王妃ネフェルティティの胸像」 ベルリン美術館 紀元前1354年

 あと大英博物館ロゼッタストーンもある。

 

 まあなんというか、されど復刻品という感じではある。でもオリジナル品ついても例えば古代ローマの芸術品なんていうのは、ほとんどがギリシア美術の模刻品ばかりということで、ローマン・コピーなんていう言葉もあるくらいだ。ポリュクレイトスの「槍を担ぐ人」だってもともとはブロンズだったものを大理石模刻したものだったりもする。って、これも最近見たトーハクのポンペイ展での受け売りみたいになってしまうが。

 ルーブル彫刻美術館、地理的には三重県のど真ん中の山の中にある。関東圏からはなかなか行きにくいところだけど、まあ機会があれば何度か足を運びたいところだ。アート好き、彫刻好きな人にはお勧めだと思う。三重は遠いけど、少なくともパリよりは圧倒的に近い。

 結論的にいえば、「コピーで何が悪い」っていうところか。