伊藤小坡美術館 (5月13日)

 1日中雨模様。

 とりあえず宿でのんびりしていて、11時過ぎにとりあえずどこかへ出かけるかとなる。

 こういう時に車で来ていると本当に楽だ。これが電車だバスとなるとそう気軽にはいかない。まして一緒にいるのが車椅子となるとかなりハードルがあがる。

 志摩での観光はだいたいが屋内になるので、どこにも行けない。雨降る中でスペイン村に行ってもとか。伊勢志摩にはもう両手以上行っているけど、スペイン村はもう10年以上行っていないか。この雑記の記録をみると2008年に行ったことになっている。なんか小学生だった子どもとケンカしたような記憶が朧気にあるようなないような。

 ということで、まずは伊勢神宮方面に行くことにする。雨がやんでいれば内宮に行ってみるかと一抹の期待をもって。雨脚はだいぶ弱くなってはいるんだけど上がる様子はない感じ。仕方なくまずは屋内施設ということで、猿田彦神社の裏にある伊藤小坡の美術館に行く。去年も6月に伊勢志摩旅行をしているのだけど、その時に初めて行ったところ。伊藤小坡は猿田彦神社宮司の長女として生まれたという縁がある。

伊藤小坡美術館 - トムジィの日常雑記

伊藤小坡美術館 | 猿田彦神社(三重県伊勢市)

伊藤小坡 - Wikipedia

 この美術館はこじんまりとしたところで、展示作品もそう多くない。普通の人でせいぜい滞在時間は30分くらいだろうか。かなり小坡が好きという人でも多分1時間程度かと思う。

 ざっと観てみると代表作でもある「伊賀のつぼね」は展示室の正面にある。でもなんとなく前回観たときに比べると、大きな作品が少ない。「山内一豊の妻」や「浅岡の乳母」もない。何気に入り口でこういうのもやっていますと渡された愛知の名都美術館のチラシを見てみると、どうもそっちに貸し出されているようである。チラシには「山内一豊の妻」の図もきちんと載っている。これは来る時期というか、ちょっと運がないかなとは思った。

 とはいえ「伊賀のつぼね」は美しいし、やまと絵的な「秋好中宮図」「秋草と宮仕へせる女達」も色合いが素晴らしい。美人画という比較をしてしまえば、なんとなく松園、小坡では松園の圧勝みたいな感じもしないでもないが、こういった歴史画、しかもその彩りや色遣いについては小坡の方が上かもしれないなどと適当に思っている。

 伊藤小坡は猿田彦神社宮司の娘として、幼少の頃から古典文学、茶の湯柔術を習ったという。由緒ある神社の宮司の長女ということで、教養の面ではいろいろと勉強をしたお嬢さんということになるのだろうか。15頃から新聞小説の挿絵を竹紙に模写し始めた。多分、自身から絵を習いたいと言ったのか、あるいは父親が娘の絵の才能に気づきそれを伸ばそうとしたのか、19歳の頃に四条派の流れをくむ郷土の画家、磯部百鱗に師事し、歴史人物を好んで描いたという。その後22歳のときに京都に出て森川曽文に師事、さらに幸野楳嶺門下の谷口香嶠に師事し画業をスタートさせる。

 流れとしては四条派ということになるのだろうし、多分写実的な絵も相当に勉強したのだとは思う。でも彼女の絵にはなんとなく土佐派というか、やまと絵のような雰囲気が濃い。そのへんは初期の頃から歴史もの、歴史人物画を好んで描いていたということもあるのかもしれない。彼女のある種装飾的な色遣いの鮮やかさにはそんなこともあるのではなどと思いながら観ていた。

「伊賀のつぼね」(伊藤小坡) 1930年 

 伊藤小坡美術館は雰囲気の良い美術館だ。伊勢神宮内宮に行って時間に余裕があったらぜひ寄って欲しい。流れとしては内宮、おかげ横丁猿田彦神社、そして小坡美術館みたいな感じだろうか。まあ自分らのようにここを目的にする人はあんまりいないかもしれないけど、伊藤小坡は近代美人画の系譜の中でかなり存在感ある人だとは思う。