オリンピック、ボイコットしてます

 本当なら東京オリンピックは楽しんで観戦したいと思っていた。

 巡り合わせとはいえ、生きている間に夏季オリンピック冬季オリンピックの自国開催をそれぞれ二度目にすることができた。それは世代的な偶然とはいえめったにない僥倖だと思っている。

 世代的な僥倖といえば、自分たち戦後生まれは自国が戦争に突入するという体験を経ることがなく一生を終えることが出来るかもしれない。もちろん細かくいえば、日米安保体制下にあって、アメリカの戦争に加担することはもちろんあった。ベトナム戦争湾岸戦争などなど。しかし、自国軍が戦闘行為を行うような戦争状態はなかったし、もちろん非戦闘員たる国民が殺す、殺されるということもなかった。

 戦争と戦争の間の平和、歴史的には戦間期という括りになるが、日本は1945年以降75年以上平和な状態が続いている。出来れば次の戦争が起きず、巻き込まれることもなく、戦間期という括りではない平和状態が続いてくれればとは切に願っている。

 戦争の話ではない。オリンピックのことだ。子ども時代に東京オリンピック札幌オリンピックを目の当りにしてきた世代という意味では、オリンピックは平和の祭典というイメージは形成されている。オリンピックが商業主義によって毒され、本来もっていた平和の祭典という意味性が形骸化しているとしても、オリンピックに対して抱いた諸々の思い、それがほぼ幻想であったとしても、それは自分の精神性の中に根強く残っている。

 でも、今開催されている東京オリンピック2020は、自分がオリンピックに対して抱いている諸々とはあまりにもかけ離れている。それは当然のごとくにパンデミック化にあって、そもそもスポーツイベントはあり得るのかということだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大があっても、観客数を絞ってスポーツイベント、興行は行われている。しかしオリンピックの規模は単体のスポーツイベントとはけた違いにスケールが大きい。感染拡大防止のためには、そうした大規模スポーツイベントは行われるべきではないと自分は考えている。

 今年の1月以降、この国では感染拡大が続き、すでに第三波から第四波、そして第五波ともいうべき感染拡大が続いている。当初は五輪開催の可否についても議論があったが、いつのまにか開催ありきとなり、無観客開催でついに先週23日にオリンピックは開催された。

 当然のごとく予想されていたが、開催以降マスコミ報道はオリンピック一色になった。テレビでは連日の競技の実況や再放送、さらにニュースも五輪報道ばかり。ニュースショー、ワイドショーもすべてオリンピックにだけになってしまった。テレビをつければオリンピック、オリンピック、オリンピック・・・・・。そうなると結局オリンピックを見てしまう。そして日本人の選手の活躍に応援の声を上げ、一喜一憂するようになる。そしてコロナ感染の日常的な危機意識や感染予防についての関心はじょじょに薄れていく。

 パンデミック下のオリンピック開催に反対していても、結局オリンピックをテレビ観戦してしまう。テレビを見ることによって、オリンピックに参加、あるいは加担、容認してしまう。結局そういうことになってしまう。そして日本選手や各国有力選手の活躍にじょじょに思考停止をしていく。パンデミックについても、それ以外の様々な社会問題についても、まあいいかという風になっていく。

 出来ればそういう風になりたくないと自分は思っている。なのでオリンピックは見ないことにした。そうなると必然的にテレビは見ないことになる。テレビをつければありとあらゆる形でオリンピック報道を目することになるから。もしテレビをつけてニュースを見ていても、オリンピックの話題になったらそくチャンネルを変える。まあ変えてもどこの放送局もオリンピックばかりなので、結局テレビを消す。

 その分、NetflixAmazonプライムでの配信サービスで映画やドラマを見ることが多くなってしまった。とはいえほとんどの時間はテレビを消している。被害を被っているのは家族かもしれない。妻は無類のテレビ好きで、とにかくひっきりなしにテレビをつけている。食事のときもたいていテレビをつけているのだが、私がオリンピックの放送を見ないため、しかたなく録画してあるバラエティなどを見ることが多くなった。食事が終わるとお互い自室に戻り、妻はテレビを見る。私はテレビ以外の何かをする。そういう日常だ。

 今週になってからは感染拡大のスピードが加速化している。指標となる東京都の感染者数は二日続きで3000人を超え、昨日はついに全国での感染者数も1万人を超えた。さすがにこの感染拡大はテレビでも報じなくてはならなくなっている。感染拡大を報じて、次にオリンピックを報じる。この国は新型コロナウイルスの感染拡大という危機的な日常世界と、オリンピック競技が行われる世界がパラレルな形で進行している。SFによくある題材、パラレルワールドが日々進行している。

 繰り返しになるが、パンデミック下でのオリンピック開催には反対である。なので個人的にオリンピックをボイコットするため、自分はテレビを消すことにした。