遥か群衆を離れて

遙か群衆を離れて [DVD]

遙か群衆を離れて [DVD]

  • 発売日: 2019/03/25
  • メディア: DVD
 

遥か群衆を離れて (1967年の映画) - Wikipedia

 BSで録画しておいたものを観た。重厚で登場人物の心の機微を細かく描くジョン・シュレシンジャー監督作品。主演はジュリー・クリスティテレンス・スタンプ、ピーター・フィンチ、アラン・ベイツと名優揃い。1967年作品ということだが、この映画はほとんどひっかかりがない。ちょうど映画を一人で見始めた頃で、映画雑誌とかもよく読んでいた頃だし、ジョン・シュレシンジャーとなるとニューシネマへの興味からひっかかっても良さそうなのにと思ったりもする。

 原作はトーマス・ハーディーで19世紀イギリス、ビクトリア王朝時代を舞台に、3人の男の間で心揺れる女農場主を描いた恋愛もの。イギリスの田園風景の美しさと当時の人々の生活をリアルに映像化している。

 まあ普通に考えてもジュリー・クリスティだしなんとなく『ドクトル・ジバゴ』を想起してしまったりもする。緑色の瞳が美しい彼女をメインにすえた悲恋の文芸大作というところ。そして相手役の男性陣もテレンス・スタンプ、ピーター・フィンチ、アラン・ベイツと揃っている。テレビの番組表で見て即座に録画予約したのもこの主演陣から。

 とはいえ、170分の文芸大作はぶっちゃけ少々というかかなりヌルい。演出の冗長うんぬん以前にお話しが多分壮大にしてヌルいのだろうと思う。トーマス・ハーディは『テス』もそうだったし、まあなんというか19世紀ビクトリア朝時代の文芸ものはみんなこんなものかもしれない。スタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』も正直ヌルく、退屈でしかたなかった。あれはたしかサッカレー原作だったか。

 最初に羊飼いに求婚されるも断り、叔父の農場を相続した主人公バツシバは、隣の中年農場主にからかい半分でラブレターを送る。女性や結婚に興味のなかった農場主はラブレターを真に受けて本気になり彼女に求婚するも、彼女は気乗りせず答えを引き延ばす。そこに女たらしでハンサムな騎兵部隊の軍曹トロイがあらわれ、そんな気障なふるいまいにバツシバはたちまち恋に落ち二人は結婚する。

 しかしトロイには以前、結婚を約束した女性がいて、彼女はトロイの子どもを宿している。その女性が貧困の中出産時に死亡したのをきっかけに、トロイは自分が彼女を愛していたこと、彼女を死なせてしまったことに悲嘆し海に身を投げ失踪する。

 バツシバへの愛を募らせる隣家の農場主は再びバツシバに求婚する。彼女はトロイの死亡が確定する6年の後に結婚すると返事をする。農場主はパーティを開き、二人の婚約を発表しようとする。そこにトロイが現れ、逆上した農場主はトロイを射殺する。

 もう話の展開からしてヌルいし、こういう女主人公を巡るお話のどこに興味をもてばいいのか。メロドラマといってしまえばそれまでだ。読者層はビクトリア朝時代の紳士淑女だったのだろうか。

 トーマス・ハーディーは19世紀の作家で牧歌的風景の描写に優れた自然主義文学の人ということらしい。作品には運命論、悲観論的な色彩も濃いとも。牧歌的な自然の描写は今回の映画でもシュレンシンジャーはいささか冗長なほどに踏襲し、いかんなくスクリーンに表出している。撮影は『アラビアのロレンス』『華氏451』などでも知られるニコラス・ローグ。のちに監督に転じて『地球に落ちてきた男』などを撮っている。美しい映像は彼ならではの技ということもあるのかもしれない。美しい風景、重厚な映像である。

 風や日光による自然の移ろいを俯瞰で捉えていくそれは『アラビアのロレンス』に通じる。やや暗めの全体にグレーがかかった映像は『華氏451』のそれか。個人的には『華氏451』のときのジュリー・クリスティのほうが美しかったような気もする。彼女は線の細い役柄を演じたほうが美しさが際立つような気がする。か弱さと強さをあわせもつような役柄、『トクトル・ジバゴ』や本作のような場合、なんとなく彼女の魅力がうまく伝わってこないような、まあ個人的な思いではあるけど。

 170分と長大な文芸大作。よく最後まで観たなと自己の忍耐をほめつつも、多少ダレ場あり、ヌルさ満載ながらきちんと観させてくれるのは役者陣の演技、シュレシンジャー監督の演出力にあるのかもしれない。まあ一度は観てもいいが、もう一回観ろとなると、少しだけ微妙である。