男と女 人生最良の日々

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TSUTAYAでDVDを借りてきて観た。

映画『男と女 人生最良の日々』オフィシャルサイト

男と女 人生最良の日々 [DVD]

男と女 人生最良の日々 [DVD]

  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD
 

  53年ぶりの続編である。当時29歳だったクロード・ルルーシュは82歳に。当時36歳だったジャン=ルイ・トランティニャンは89歳。そして34歳だったアヌーク・エーメ85歳。とんでもない映画だ。

 あの小粋な恋愛映画の金字塔の続編(正確には続々編)を作ってどんな意味があるのだろうとしばし思う。出てくるのは80過ぎのお爺さんとお婆さんなのである。ちょっと痛い、しんどい映画となる可能性もあるかと思ったが、これはいい意味で裏切られた。

 この映画は素晴らしい。超高齢化社会だからこそ作られた老齢映画か、そうでもあるがそれだけではない。1966年の映画にしびれたファンにはたまらない。前作の映像をたくみにとりこみカットバックさせる。これが出来るのはルルーシュならではということになるが、53年前の映像、美しい主役二人と老いた今の姿が対置することで、懐かしさが増す。増す。これはまちがいなく、ルルーシュルルーシュによる前作へのオマージュといえるだろう。

 ストーリーは、年老いたレース・ドライバー、ジャン=ルイの老人ホームでの生活で始まる。彼は足腰が弱り車いす生活となっている。そして記憶は断片的となり、思い出したり、忘れたりを繰り返している。そうした白濁した記憶の中でも、50数年前に愛した一人の女性のことだけは忘れずにいる。そう前作と恋し合う映画スクリプターをしていたアンヌだ。

 前作でラスト二人は駅で再開し抱き合う。ハッピーエンドであったのだが、二人は結局結ばれることはなかった。そして美しい恋の記憶だけが唯一残っている。

 一方のアンヌは、結婚して映画プロデューサーとなり、最終的に一人で田舎町で小さなショップをやっている。彼女はまだバリバリ現役で、車にも乗るし、店を切り盛りをしている。そんな彼女の元にジャン=ルイの一人息子が訪れ、記憶障害を起こした父に再開して欲しいという。「父はあなたのことだけは忘れずにいる」と。

 アンヌもまたジャン=ルイとの恋をずっと忘れないでいた。そして彼女はジャン=ルイの元を訪れる。でもジャン=ルイは年月を経たアンヌと彼が恋焦がれるかってのアンヌを結びつけることはできない。それでもアンヌは何度もジャン=ルイの元を訪れ、時には車でドライブをし、二人にとって思い出のホテルを訪れたりする。

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 次第にジャン=ルイは彼女がかっての恋した女性であることを思い出す。映画は彼の記憶の白濁とした流れそのままにエピソードを、時には彼の夢を映像化する。

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 この映画の終わりにカタルシスはない。二人は死なないし、多分アンヌはジャン=ルイの元を訪問するだけだ。フラッシュバックのように挿入される前作の映像の中で、二人はベッドを共にする。その時は、アンヌが死んだ夫の記憶を蘇らせてしまい、思いを遂げることはないことを、多分前作を知る誰もしっている。

 そう、この映画では誰も死なないし、男と女は寝ない。ある種の青春映画のテーゼが超高齢映画の中で実現されている。

 なぜ彼らは死なないのか。これはひょっとしたらジャン=ルイの白昼夢なのかもしれない。失われていく記憶の中で紡いだ夢。あるいはジャン=ルイが老人ホームにいることを告げられたアンヌの想像する世界かもしれない。

 1966年の美しい出会い、愛し合う日々。そして53年後の薄れゆく記憶の中でみる夢。そういうタイプの映画なのかもしれない。

 それにしても、アヌーク・エーメは美しい。85歳にしても凛として、気品と色気がある。

ジャン=ルイが言う。「君は俺よりも若い」

アンヌが答える。「化粧してるからよ」

 それだけではないと思う。この彫りの深い美人女優は幾つになっても美しい。髪をかき上げるしぐさ、時折みせる憂いのある表情、にこやかな笑顔。すべてが素晴らしい。

 アヌーク・エーメは自分が憧れた美人女優の中でも多分五指に入る存在だ。ミューズという言葉は彼女のためにあると思う。2019年の彼女の画像と50年以上前の画像を共に貼るのは、時の残酷さを示すことになるのか。自分はそう思わない。彼女はいつの時代にも時を超越した美を有していたのだと思ったりする。

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