メラニーが死んだ

 オリヴィア・デ・ハヴィランドが亡くなった。104歳だという。大往生といっていい。SNSで飛び込んできた訃報に、まだ生きていたのかという思いが最初に浮かんだ。

女優オリヴィア・デ・ハヴィランドさん104歳で死去 「風と共に去りぬ」のメラニー - BBCニュース

 名作『風と共に去りぬ』の出演者で最後の存命者であり、存命する最も古いアカデミー賞受賞者だという。

 キャリアの初期は清純派女優として知られ、そのイメージのまま『風と共に去りぬ』で貞淑で良き妻という南部の女性を演じた。メラニーは夫アシュレーと友人スカーレット・オハラを信じ切っている。スカーレットはひたすらアシュレーを追いかけ、言い寄り続けているのに。アシュレーは時にスカレーットの求愛に心を惑わす弱い男でもある。それでもメラニーは夫を信じている。

 メラニーの人の良さ知っているスカーレットは、彼女のことを本当に裏切ることは出来ない。ただ彼女はアシュレーが本当は自分を愛しているという勘違いをずっとそのまま思い込んでいるだけなのだ。それでいてスカレーットはメラニーだけには常に優しい。北軍に敗れ貧困に陥ってもたくましく活きるスカーレットは、メラニーを加護し続ける。なぜか、彼女がスカーレットを信じ切っているからだ。

 邪心のない純な心をもった女性。メラニーはある種の良き妻、良き女性の理想像だった。美しく、清らかな心をもったこんな女性に愛され続けたら。そんなステレオタイプロールモデルマーガレット・ミッチェルを創造した。その理想的な夫人をオリヴィア・デ・ハヴィランドは演じた。

 『風と共に去りぬ』でスカレーット・オハラを演じたヴィヴィアン・リーはこの映画と『欲望という名の電車』で二度オスカー主演女優賞を受賞している。『風と共に去りぬ』では助演女優賞にノミネートされたハヴィランドは、同じ映画でマミーを演じたハティ・マクダニエルに賞を譲る形となった。マクダニエルはアフリカ系の俳優として初めてオスカーを受賞した。しかし戦後、46年に『遥かなる我が子』、49年に『女相続人』で二度主演女優賞をとり、ヴィヴィアン・リーと並ぶことになる。

 不仲だった妹ジェーン・フォンティーンにはオスカーで先を越されたがそれでも二度の受賞は名女優の証だった。

 ハリウッド黄金期に活躍した美人女優にして大スターといえる人は彼女が最後なのかもしれない。ちょっと調べてもご長寿女優で出てくるのは90代後半のロンダ・フレミングやグリニス・ジョーンズくらいだろうか。でも彼女たちは一枚看板じゃない。

 20世紀が遠い遠い歴史の中に沈み込んでいく。もはやハリウッド黄金期は歴史的な事物として語られることになるのだろう。昔々、『風と共に去りぬ』で貞淑な女性メラニー・ハミルトンを演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドが104歳で亡くなった。

 淀川長治さんがもし生きていたらこんな風に言っただろうか。

「はい、きれいなきれいな女優さんでしたね。それではさよなら、さよなら、さよなら」

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