たましん美術館 広重名所江戸百景 (9月3日)

 たましん美術館で開かれている企画展「浮世絵 歌川広重《名所江戸百景》」に行ってきた。

企画展「浮世絵 歌川広重《名所江戸百景》」(たましん美術館/立川)

(閲覧:9月5日)

 

 この美術館を訪れるのは二度目。前回は邨田丹陵の回顧展だったか。立川駅北口から近い多摩信用金庫本店の1階にある美術館で、駅からのアクセスもよい。中規模なアートギャラリーという感じである。多摩信用金庫は多数の美術品を所蔵していて、そのコレクションをさまざまな切り口が企画展示している。

 しかし各地の信用金庫はけっこう美術品をコレクションしているケースが多い。近隣でも青梅市立美術館のコレクションはだいたい青梅信用金庫のものだったと記憶している。実際、グーグルで「信用金庫 美術品 コレクション」などと検索ワードをいれると、各地の信用金庫の美術コレクションが多数ヒットする。

 地域に根差した信用金庫が芸術品、美術品をコレクションするのは、建前的には地域の芸術振興を応援するといった部分もあるかもしれない。でも実際は、顧客の所蔵しているコレクションの遺贈、節税対策などで買い取ったり、単純に資産として所有したりとか様々なケースがあるかもしれない。

 まあいいか、庶民というか貧乏人には預かりしらぬ話かもしれない。でもちょっとだけ思うのだが、金融機関が多数の美術コレクションを保有するというのは、世界的にみたらどうなんだろう。例えば英米のクレジット・バンクや一般的なコミュニティバンクが美術品をコレクションするといった例はあるのか。フェニックス・コミュニティバンク・アートミュージアムとかそういうのがあるだろうか。本当にどうでもいい話だ。

 今回の歌川広重の『名所江戸百景』、けっこうあちこちの美術館で観ている。浮世絵版画は初期刷りと後の刷りでは色合いやにじみなど質に大きな違いがあるとのことだが、素人眼には正直判らない。北斎の《富岳三十六景》などには明らかに印刷にかすれ、にじみのあるものなどを観ることもあるにはある。でも名の通った美術館で観るものはだいたい鮮やかなものが多い。多分、そこそこの値段で購入したものなのかもしれない。

 《名所江戸百景》には「魚栄」の印がある。版元は魚屋栄吉で江戸末期に、主に晩年の歌川広重のこの《名所江戸百景》を出版した版元とのこと。本作は広重の遺作で、生前にすべて完成することができず、二代目広重が補筆しているとのこと。浮世絵版画も事前に予習していくと観賞の愉しみも増すのかもしれないが、まあニワカなのでそのへんは置いておこう。

名所江戸百景 - Wikipedia

魚屋栄吉 - Wikipedia

 とりあえずニワカはというと、一緒に行った友人と「そういえば最近広重といえば、歌川だけど、昔は安藤広重って習わなかったっけ」などとつまらない話をしたり。

 今回は写真撮影は自由にできる。広重の《東海道五十三次》や今回の《名所江戸百景》は、近くの対象を誇張して表現する近像型構図の作品が多数あり、これはフランスの印象派ナビ派の画家にも影響を与えたとか、これはどこかの企画展のキャプションで読んだ記憶がある。まあそうした奇抜な作品、例えば全面に吊るした亀とかトンビだか鷲がアップと後景の景色なんていう、意表をついた構図が多数。

 でも今回はというと、そのへんよりもなんか小さく描かれた犬とか猫みたいな小ネタ的な部分に注目してみた。ようはちょっと慣れたというか、あまり一生懸命集中して観るという心持じゃなかったのかもしれない。まあ浮世絵版画はなんとなくリラックスして観てちょうどいいのではと思ったりもした。しょせんは風俗画、江戸時代の観光絵葉書的性格のものであったりもするのだから。

 もう一つ浮世絵版画はどうしても絵師に注目され、その作家の名前によって残っている。でも浮世絵版画は下絵の描く絵師、彫師、刷り師、さらに版元によって構成される総合芸術というか、商業美術作品でもある。そのうえで絵師ばかりがクローズアップされるけれど、名前も残っていない彫師や刷り師といった人たちの職人芸に支えられる部分も大きかったのではないかと改めて思ったりもしている。自分的には特に刷り師の技術によって支えられていた部分が大だったのではないかと。

 思えば自分はずっと出版業界の隅っこの方で人生送ってきたけれど、印刷会社や製本会社とはもちろん一緒に仕事をしてきたし、親しくしてきた人も何人かいる。でもたいていは営業系の人ばかりで、実際の職人とはあまりお近づきになれなかったなとも思ったりもする。そういう職人と話す機会が多ければ、貴重な技術的な話、あまり好きではない言葉だけど、例の「匠」的なウンチクも聞けたかもしれないなどと、今更に思ったりもする。

 結局のところ浮世絵版画は印刷であり、出版の範疇なんだなと、まあ当たり前のことを思った次第。