好きな書店の雰囲気


 フレッド・アステアオードリー・ヘップバーンの傑作ミュージカル「パリの恋人」の冒頭、真面目な哲学少女オードリ・ヘップバーンが勤めているニューヨークの書店である。こういう高い書架の書店、雰囲気があっていい。本に携わる仕事をずっとしてきたのだが、一度こういうところで仕事がしたかったなと思ったりもする。
 最近だとTSUTAYA図書館が高い書架で雰囲気作りしているが、あそこか上のほうの棚にはいかにものダミー本を並べていたりして、本屋の信義に恥ずるような始末だ。この映画にあるような高い書架、移動式の梯子、迫り来る怒涛のハードカバー、こういうのが王道とでもいうべきものだと思う。最も本が売れないどころか、ほとんど壊滅的に死滅するのではないかといわれている今日にあって、こんな本屋が商売として成立するかというと、ほとんど間違いなくノーということになってしまうだろう。
 ちなみに映画の中では、ファッション雑誌の撮影のため許可なくカメラマンのアステア以下、編集者、モデル等が押しかけ、本は散かし放題にされるというとんでもない状態になってしまう。
 考えてみれば哲学一筋、真面目少女のオードリ・ヘップバーンがモデルとしてスカウトされ、ファッションに目覚めたり、彼女が信奉していたフランスの哲学者が単なる女好きの俗物だったりと、この映画けっこう反知性主義というか、知的なものへのアイロニカルな部分をもっていたかなと今ちょっと思ってみた。