君の名は


 評判が良い映画だというので家族で観てきた。アニメ長編は基本ディズニーとジブリぐらいしか観ないミーハーなんだが、ここまでヒットして、あちこちで良い映画だ、名作だという声があるとやはり気になるというか。
 思いついたことを断片的に幾つか。
 基本良い映画だと思う。ストーリーの展開もいい、そういう意味ではシナリオがきちんとしているということだ。中ほどで多少のだれ場はあるものの、観客をスクリーンに惹きつけるいい意味での緊張感がある。
 映像は評判のとおりで美しい。ジブリ以降、日本アニメがもっとも進歩したのは、映像の作りこみかもしれない。子どもの頃のテレビアニメの登場人物が話しているのに、口が開けっ放しみたいなのが普通だったときに、ディズニーアニメを観たときの衝撃。例えば「ジャングル・ブック」の滝の流れるシーンの映像の美しさ。サルのダンスシーンの愉しさ、などなどに海外と国産との品質の差を感じてことなどを思い出す。そういえば「ジャングル・ブック」は一人で始めて観た長編アニメだったか。
 映画は基本ファンタジーだ。入れ替わりとタイムスリップそこに彗星と隕石の落下というSF要素を盛り込んでいる。盛り込み過ぎ感あり過ぎという気もしないでもないが、うまく整合性はとれている(一部微妙ではある)。
 様々な入れ子構造はあるが基本ボーイ・ミーツ・ガールの単純映画である。この映画がかくもヒットしているのは、この本筋のアウトラインがしっかりしているからだろう。さらにいえば稚拙な高校生の出会い(どうしたら出会うか的)やら、同様に稚拙な日常的な日々が綴られている。そうしたミニマムな日常世界の周辺に大きなSF世界が少しずつインサートされていく。よくある話ではある。
 そのように割りと客観的にやや冷めた見方を吐露するのは、やはりこの映画、オジサン的には今ひとつ乗り切れなかったのかもしれない。それは映画的感性が枯渇しつつあるからかもしれない。しいて言えばSFファンタジーであっても、もう少し都会的なソフィスティケートされた雰囲気、展開、そういうものが欲しいと。単純に都会と田舎の高校生の入れ替わりというシチュエーションのことではなくて、もう少し粋とか洒落た要素があってもいいかなとは個人的見解である。
 ただしそうした都会的要素を取り入れた場合、この映画がここまで大衆に受け入れられたかというと、多分駄目だろうなという気もする。ある種の泥臭さ、田舎的な要素、そういうものが普通に描かれているからこそ、この映画はこの国で大きく受け入れられ、大ヒットしているのかもと思う。少女の暮らす飛騨山中(?)架空の糸守町の風景は、ある意味日本人の故郷的イメージ、原風景かもしれない。故郷を喪失した日本人はまだまだどこかにああいうイメージを抱えている。そういうものを擽る効果もあるのかもしれない。
 とはいえこの映画は秀作といえるし、多分DVDが発売されればもう一度観るだろうとは思う。オジサンが忌み嫌うようなお子様映画ではけっしてない。この映画にも秀逸な青春映画のある種の法則性が働いている。かって村上春樹がデビュー作『風の歌を聴け』で鼠に言わしめたことだ。それを借用して言うとすればこうなる。
「この映画には二つの長所がある。誰も死なないし、男と女が寝ない。放っておいても人は死ぬし、男と女は寝る。そういうものだ」
 まあありていに言えば、人の死や男女のセックスによって簡単にカタルシスを表現できる。表現作品は安易にそれに寄りかかっちゃいけないというようなことだ。
 「君の名は」、いい映画だと思う。