探偵はBARにいる

探偵はBARにいる 通常版 [DVD]

探偵はBARにいる 通常版 [DVD]

  • 発売日: 2012/02/10
  • メディア: DVD
http://www.tantei-bar.com/
ネットとかの評判のそこそこによろしい。DVDがレンタルされていたので早速借りてきた。
なかなかの快作である。とにかくテンポがよろしい。寝不足でDVD類はみな子守唄のごとくになってしまう最近にあっては、めずらしくきちんと最後まで観ることができた。それだけでも私にとっては高評価ということになる。まあどの方も指摘していることだが、謎解きとしてかなり弱い。誰もが途中で展開が読めてしまう。主人公に仕事を依頼する謎の電話の正体は、ひょっとして数分でわかってしまう。声質のこともあるので、もう一工夫ほしかったかな。別にボイスチェンジャー使えとはいわないけどさ。
世間的には探偵モノとして、この作品をハードボイルドの佳作のごとくに評する方もいる。ある程度はそういう評価を理解できる。それに対して、ハメット、チャンドラーの信奉者たちから、本作のどこをハードボイルドといえるのかみたいな低い評価もあるようだ。
レビューに騙された・・・|探偵はBARにいる|映画情報のぴあ映画生活
ハードボイルドの定義とかは別にいい。私だって実はよくわからないで多用している。きちんと調べるとやれ非情だのという、今一つわかったようなわからないような説明が続く。
ハードボイルド - Wikipedia
でもね、非情とかいうけど、チャンドラーの小説なんかはたいてい非情を装っているけど、意外と巻き込まれ型で主人公はいきがっているけど、けっこう人情味があったりもする。そして全体の雰囲気としては意外なほどセンチメンタルである。まあ私なりの解釈でいわせてもらえれば、大いなる「やせ我慢」的な生き方と世の中を斜にかまえてとらえる主人公が活躍する小説くらいの感じである。
そういう意味では本作「探偵はBARにいる」は、和製ハードボイルドを名乗る資格はあると思う。ちなみに和製ハードボイルドの究極を私なんぞは「木枯らし紋次郎」くらいにしか思っていない。「あっしには関わりねえことでござんす」とか言いながら、どんどん他人の揉め事に関わっていく、巻き込まれ型渡世のあれ。
まあ紋次郎の場合、最初はかっこうつけて「関係ねえ」といいつつ、後になってどんどん関わるのはいいのだが、そのときには事態は救いがたいくらいに悪い方向に転がっており、まったく人助けとしては意味をなさなかったりする。そしてそれを紋次郎が悔いているのが丸分かりなのである。観ているこっちからすると、どうせ最終的に関わるくらいなら最初から関わってくれれば、多くの問題は悲劇的に収斂されることはなかったのに、などと思ったりもするのである。
何の話だっけ、そうだ「探偵はBARにいる」である。私はこの作品、ある種の探偵モノ、ハードボイルド映画へのオマージュだと思っている。端的にいえば松田優作の傑作コメディ「探偵物語」へのそれだ。だからこそ彼の子息が出ているのだろうくらいだ。そしてかの「探偵物語」のパロディでもある。かっこよいモジャモジャヘアーの松田優作を21世紀的にパロディ化すると、コメディアン大泉洋がああいう風に演じざるをえないということなんだろう。
松田優作の「探偵物語」自体が往年のハードボイルド探偵映画のパロディとして成立している。それを30年の歳月を経てさらにオマージュにして探偵映画にする。なんとも倒錯的ではないか。それがこの映画のキモだと私なんぞは思う。そういう深読みを一方でしつつ(ああややこしい!)、素直にテンポの良いお話を単純に楽しむ。まあそういう類のものだな。
この映画を観ていて「探偵物語」とは別に連想したのは、80年代に一部で評判を得ていた探偵もののコミックである。今では漫画家としては大家の部類に入る谷口ジローと、同じく文芸評論家としてそこそこの位置を確保した関川夏央原作による「事件屋家業」である。あれもまたハードボイルドの佳作として、私や私の友人たちはえらく楽しんで愛読していたクチである。あの主人公、深町丈太郎もまたモジャモジャ頭だったっけ。
もちろんこのコミックも保守的なハードボイルド信奉者からすれば、たぶん別のジャンルに属するものということになるのだろう。それは作者にしろ、受け取る多くの者にとってもそうだ。これはハードボイルドであってハードボイルドではない。ハードボイルドの80年型のパロディであると。
かって関川夏央は自作についてこんな風に語っている。

わたしは1977年のはじめからマンガのストーリーに手を染めた。業界用語でいうところの「原作」である。
おおむね1981年まで、谷口ジローとの共同制作を細々とつづけたが、いっこうに文名画名高まらず、どの作品の売行きもはかばかしくなかった。わたしたちの意気は年とともに沈滞した。まれに好意的な評価をくれるひとがいたが、彼等はわたしたちの作品を「ハードボイルド」と呼んだ。むろん悪意からではないので反論しにくいのだが、わたしたちには「ハードボイルド」など描いたつもりもなかった。あくまでもユーモア読み物を試みたのだった。
「『坊ちゃん』の時代」あとがきより。

そうなのである。探偵は出ているから、すなわちハードボイルドなんかではないのである。「探偵はBARにいる」がハードボイルド映画の傑作であるかどうかは知らない。ただしユーモアたっぷりの探偵映画であることは少なくともみな認めるところだろう。そういう意味で私はこの映画に高い評価を与えるつもりだ。

探偵物語 DVD-BOX

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  • 発売日: 2001/12/07
  • メディア: DVD
事件屋稼業 1 (1)

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