『オクジャ』

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 一昨日、ポン・ジュノの『オクジャ』をNetflixで観た。

Okja/オクジャ | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

 これまでに観たポン・ジュノ作品は『パラサイト』と『グエムル』の二本。力のある監督だとは思っているが、『パラサイト』の前作でもあるこの『オクジャ』もなかなか面白い作品だと思った。

オクジャ/okja - Wikipedia

 世界の食糧難解決のため、巨大コングロマリットであるミランダ社はチリで発見されたという「餌も排泄物も少なく、環境に良く、味もとても美味しい」新種の豚を繁殖させ、世界各地の26の農家に預け育たせる。その中でもっとも優秀な豚をスーパー・ピッグとして表彰するというのだが、その豚は実はミランダ社によって遺伝子改良したものだた。

 韓国の山奥で少女と一緒に育った巨大静物=オクジャは、コンテストに優勝してアメリカに運ばれる。少女は過激な自然環境保護組織と共にニューヨークに渡り、ミランダ社からオクジャを奪還しようと奮闘する。

 荒唐無稽なお話をスリリングかつテンポよく進める手腕は監督の力そのものだ。そして社会風刺と戯画化、類型化された登場人物たち。この映画があってこそ、『パラサイト』の成功があるのだなと改めて思ったりもする。社会風刺、文明批評、荒唐無稽なストーリー展開と一風変わった人物たち。物語はたんたんと進みながら、じょじょに狂気じみた混沌へと向かい最後にリアルな結末を迎える。

 巨大生物はいきなり現れ、韓国の山奥での少女との日常的な交流が違和感なく現れる。普通この手のSF的な物語で、キーとなる巨大生物はなかなか出てこない。観る者に出るぞ、出るぞと期待感をもたせながら中盤になってようやくその全貌をみせる。これがある種、この手の映画のスクリーンプロセスなんだが、ポン・ジュノ監督はそうした約束事を簡単に壊してしまう。

 思えば、『グエムル』も割とすぐにその姿を全部見せる。その陳腐な姿がこの映画はいわゆる怪獣映画へのオマージュでありかつパロディであることを容易に示している。その同じ手法が今回は自然の中での少女との交流としていきなり冒頭から現れる。その姿は巨大な豚というよりも陸上で生活する河馬そのものである。そして少女と山の中での生活はほとんどトトロ映画を想起させる。これは多分狙ってやっているのだろう。

 しかしトトロ映画によくあるような途中からストーリーがよくわからないというか、破綻するような展開、あるいは監督宮崎駿のやや未消化な思い入れそのままに終焉を迎えるような形ではなく、きちんと物語は終焉へと向かっている。多分、ポン・ジュノの優れた才能はストーリーテリングという点に尽きるのかもしれない。途中で物語は混沌状況に陥りながらもきちんと結末へとまとまっていく。

 主役の子役アン・ソヒョンは、オクジャを救うという意思を全身で表出させる好演技をみせている。まあこのへんは監督の演出力の力かもしれない。30年前だったらこの役は薬師丸ひろ子かなとか適当に思ったりもする。

 この少女役以外の人物はほとんどがすべてが戯画化されている。ミランダ社のCEO役を演じているのはティルダ・スウィントン。『ナルニア国物語』で白い女王を演じたクールな彼女がかくもおもろいキャラ役をやるとは。

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 彼女は実はポン・ジュノ監督作品の常連のようで、2013年製作の『スノーピアサー』ではより際立ったキャラクターを演じている。

 さらにハリウッドでも二枚目男優として人気のあるジェイク・ジレンホールも際立ったキャラの動物学者として出演している。スウィントンもジレンホールもよくこんな役受けたなと思うほどだ。

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 『オクジャ』はCDを駆使した巨大生物と少女の交流と文明批評をテーマにしたある種のダーク・ファンタジーだ。ややもすればありきたりなお話となってしまうところを、さらにいえば子どもじみたSFファンタジーになってしまうところを、見事なドバタバコメディあり、かつスリリングなアクションありのエンタテイメントに仕立ててある。この作品あってこそ、ポン・ジュノの『パラサイト』での大成功はあったんだなと思える。

 しばらく彼の旧作を追いかけてみようと、そんな気になる。