デブの王国

アメリカ滞在はわずか4〜5日の小旅行だったから、それでアメリカの何がわかったかと言われてもなんもないだろう。本当の短期小旅行だし、そんなもんで何か語るのはとんでもないだろうと思う。でもね、一つだけ思ったことを書くとね、あっちは、本当にね、デブ、いやもとい、太った方が多いねと、まあそういうことかな。
ある意味大好きなアメリカに、わずかな時間とはいえ太平洋を越えて行って来てだね、唯一の感想がそれかいと思わないでのないのだが、本当に多かったのよ。デブ、もとい太ったお方が。それこそ右を見ても左を見ても、超100キロ級の方々がとっても普通にお歩きいただいているのだよ。
実際、ロスの市内観光している時にもガイドが、アメリカはとにかく肥満が多いこと、金持ちは金をかけてダイエットやジム通いができるからスリムでいるけど、貧乏人になればなるほどジャンクフードばっかり食べているから肥満が多いみたいなことを話していた。
ベストセラーになった『ルポ貧困大国アメリカ』の中でも「貧困が生み出す肥満国民」と1章が割かれていたし、こんな記述もあった。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)「家が貧しいと、毎日の食事が安くて調理の簡単なジャンクフードやファーストフード、揚げもの中心になるんです。多くの生徒は家が食料配給切符(貧困ライン以下の家庭に配給される食糧交換クーポン、フードスタンプ)に頼っていますから、この傾向がますます強くなりますね」P18

貧しさの象徴である不健康な肥満は、子どもだけでなく成人の間でも深刻だ。
アメリカ疫病予防管理センター」が2000年に国内の成人30万人を対象に行った調査によると、アメリカ国民の肥満率調査で、肥満の人が州人口に占める割合はルイジアナミシシッピ、ウエスト・バージニアがそれぞれ30%と最も高く、コロラドコネチカット、ハワイ、バーモントで最も低いことがわかった。
「2005年にニューオリンズの洪水ニュースを見た時にアメリカ国民がまず驚いたのは、被災地のアフリカ系アメリカ人と肥満人口の多さでした」P24

デブもとい太ったアメリカ人を見るにつけそんなことを思い出していたのだが、私が見た例えば空港の荷物持ちや警備員とかファストフードの店員さんのようなブルーカラー系に太った人が多いなとは感じた。でも、本当のデブ人口の多さを感じたのはディズニーリゾートに入ってからだった。とにかく多い。ダウンタウン・ディズニーでもそうだったし、パークやカルフォルニア・アドベンチャーでも本当に右を見ても左を見ても状態だった。
試みにホテルからダウンタウン・ディズニーを経てパークに行くまでの間、朝の9時台という人がまだまばらな時間帯で、見る限りでたぶん超100キロ級の太った方の数を数えていった。ある種の定点観測って、私ってば何やってんだか。一人、二人、三人と。結果はだね、パークの入場口に入るだいぶ前のところでね、すでに100人に達してしまうのね。なんだこれは。中には夫婦とティーン・エイジャーの子ども二人くらいが揃って100キロ超級、さらに小学生くらいの子ども二人もたぶん60〜70キロはあるだろうなみたいな感じの家族とかもいて、数える上での効率の高いことっていったら。
たぶんここリゾート地での肥満率は確実に街中でのそれを凌駕しているように思う。ルイジアナミシシッピの30%に迫るものがあるようにさえ見える。しかも年齢、人種に関わらずというのが凄い。白人、アングロサクソン系からアフリカ系、ヒスパニック系まで、お年寄りからティーンまで、みな等しく太っている。「神はみなを等しく肥えさせました」みたいな感じである。
ディズニーランドで遊ぶアメリカ人は少なくとも貧困とは無縁だろう。たぶん典型的な中産階級というところなんだろうな。毎日一生懸命頑張って働いているよ。だから1年に一度くらい子どもが喜ぶディズニーランドにやってきて、思い切り遊ぼうみたいな感じの、良きアメリカ人たちなんじゃないかなと思う。ここで土日遊んでいるというのは、当然泊りがけだろうから、けっこうここで遊んでいる人たちは中西部の観光者たちが中心なのではと、とりあえずそんな風に思っているのだが。
その毎日勤勉に働いて、そこそこに小金を貯めて、少なくとも貧困とは無縁のはずのサイレント・マジョリティ的な良きかなアメリカ人たちになぜにかくも肥満が蔓延しているのか。これはもう肥満が単なるアメリカに蔓延する貧困との連関以前に、アメリカ固有の文明病なんではないかと、そんなことを思う。その理由はというと、もう単純に食い過ぎなんだということなんだけどね。ようはね、過剰摂取というところか。
アメリカという国が1945年の戦争以後ずっと、資本主義のトップランナーを歩んでくる過程で成熟させてきたこと、資本主義が回っていくためには国民が等しく過剰消費、過剰摂取に励まなくてはいけないと、たぶんそういうことなんじゃなかろうかね。過剰消費に対応した商品群、そこにつけこんで日本やアジアの国々の生産量、貿易輸出額が大幅に伸びてきたわけでしょう。同時にアメリカ人は過剰摂取すべく食事量をどんどん増やしていったんじゃないのかなとも思うわけだね。
実際アメリカ食の量の多さったらないと思うわけだ。フェンスの向こうのアメリカを遠くから羨望の眼差しで見ていた横浜時代の私のご幼少の記憶でもそういう部分よく覚えている。最近でも国内にいても垣間見れるということで、時々コストコとかに行くけど、あそこの食料品コーナーで売っているやつの量の多さったら。いくらコストパフォーマンスだのなんのといっても、20cm×30cmもありそうなティラミスとかチーズケーキとか食えるかよという感じである。なんかもうこういうのを毎回買っていくアメちゃんてば、毎日ホームパーティでもやって大勢集めているのみたいな想像さえしてしまう。
ああいう量を普通に摂取してれば、そりゃ太るだろうなと思うわけだ。ディズニーランド・パーク内のファストフードで食べたものだって、ハンバーガーにしろポテトにしろみんな日本で食すそれのだいたいにおいて1.5割増しみたいな感じ。おまけにケチャップだのマヨネーズだのが樽に山ほど入っていて好きなだけとっていいとなっている。見てるとそれをガンガンとってガンガンぶっかけているもんね、アメちゃんは。こりゃ太るわなと思うわけだ。
こういうのを見るにつけトップランナーとして資本主義を維持していくために払う国民の犠牲というものを感じ入るわけだ。