旅行とコロナウイルスについて

 アメリカ旅行が近づいてくるとやはりコロナウイルスのことがけっこう気になってはいた。旅行代は暮れに全額払っていたのだが、念のためキャンセル保険にも入っていたので正直真剣に悩んだ。とくにニューヨークだったかで、東洋系の女性が地下鉄でマスクをつけていただけで黒人男性から暴行を加えられたという動画がSNSで出回ったことや、特にヨーロッパで東洋系の人が差別的な言葉を浴びせられたという被害が取り上げられたことなどで、場合によってはかなりハードな旅行になる可能性もあるのではと心配したこともある。

 一番楽しみにしていた子どもとも何度か話し合い、場合によってはキャンセルやむなしということにもなっていた。そんなとき子どもの友だちで何人かがヨーロッパやアメリカに旅行しているという話があり、ラインとかで話を聞くとそうした被害はまったくないということだった。特にニューヨークにいる仲の良い子からは、現地ではコロナの話題などまったくないということだった。結局それが後押しされて旅行は決行することにした。

 2月の中旬頃にいろいろと情報をとっていくと、その時点ではアメリカはインフルエンザが猛威をふるっていて、感染者が2600万人、死者が14000人以上というようなことだった。今となってはその何割かは実は新型コロナウイルスだったのではという疑惑もあるようだ。ただし、アメリカでは病気になった場合、基本的には家で療養するようで、マスクをして外出するという習慣はないとのこと。また国民皆保険ではないので、貧困層医療保険に入れずきちんとした医療が受けられない。死者の多くが貧困層に集中しているということもわかってきた。

 なのでアメリカではコロナよりはインフルエンザを注意した方が良さそうだということ、とはいえ向こうではマスクをしない方がいいいというようなことを話した記憶がある。なので成田や飛行機内ではマスクを着用したが、ロスに着いてからはマスクはしないということだった。さらにいえば、ロスでもアナハイムでもまったくマスク姿が見かけなかったし、東洋系ということでなにか差別されるようなことはまったくなかった。

 ということで、旅行中はコロナウイルスのことなどまったく危惧することはなかったし、事前に心配したことは全部杞憂だったとは思っている。とはいえそうしたお気楽な気分は帰国とともに一掃されたような感じだった。実際、帰国する前日の27日には安倍首相が全国の学校に休業を要請し、それがSNSで話題になっていた。そして28日に帰国すると同時に、日本のディズニーリゾートやユニバーサル・ジャパンが29日から3月15日までの休業発表(さらに継続されている)、29日には安倍総理の緊急記者会見、3月に入ると国内感染者は1000名を超える。

 さらに欧州ではイタリアで感染者、死亡者が激増し、スペイン、フランス、ドイツ、イギリスなどにも感染者が拡大した。3月11日にはWHOが新型コロナウイルスの世界的感染拡大について「パンデミック」を宣言した。アメリカでも感染は拡大し、カルフォルニアのディズニーランドも3月14日には3月末まで閉鎖された。

 そうした世界的な感染拡大の状況からすると、2月末の旅行はほとんど最後の機会というかある種絶妙なタイミングだったのだなと思ったりもする。さらにいえば旅行から帰宅してすぐに子どもは37度台の熱を出した。まいったなと思ったが、幸い咳症状は一切なく、子どもも単なる疲れだと言っていて、風邪薬を飲むとほぼ1日で平熱に戻った。それからすでに二週間近く経つけど、本人にも家族にもまったく異常はないので、多分アメリカでの感染がないのではないかと思っている。

 とはいえこれからは国内での感染の可能性はだんだんと大きくなってきていると思う。日本は中国や韓国、またヨーロッパに比べて異常なほど感染者が少ない。これはすでに喧伝されているとおりに、日本では検査件数が極端に少ないことに起因している。韓国がドライブスルーなどの方式を含めて、とにかく検査件数を増やしている。その結果、感染者数は8000人を超えるものとなっているが、とにかく検査数が25万件と多く、その結果として感染拡大はある程度抑えられている。

 それに対して日本の感染者はまだ1300名前後だが検査数もまだ2万数千件と極端に少ない。検査を増やすと医療崩壊を招くといった意見が政府周辺から沢山流されているが、これはどうみても五輪対策のためとしか思えないところがある。夏にオリンピックを開く開催国で新型コロナウイルス感染者が拡大するというのはイメージ的まずいという思惑が、検査を控えさせているのではないか。実際、37.5度以上の高熱があっても相談センター=保健所ではなかなか取り合ってもらえず、医療のたらい回しにあうことが多いという事例もある。感染していても、感染者かどうかわからない事例が多数あるのではないかと思われる。

 実際のところ近隣の韓国で8000を越す感染者が出ていることや、2月まで中国からの観光客が普通に訪れていたことを考えると潜在的な感染者は現在5〜6倍あっても普通ではないと思う。ヨーロッパやアメリカでの感染拡大を考えればそれは十分考えられる。

 ということは市中には潜在的な感染者が多数いるとみなしていいと思う。いくら不要不急の外出を控えてといっても、普通にみんな仕事に出ている。時差出勤やテレワークが増え通勤電車の混雑率も普通より緩和されているとはいえ、まだまだ満員電車であることは間違いない。仕事をしていれば、普通に多数の人との接触がある。マスクは感染者がウイルス飛沫させることを防止する助けにはなるが、空気中のウイルスを防御することはないともいう。そういう状況ではいつ感染してもおかしくない状況はまだ当分の間続くということだ。

 会社に復帰して最初にしたのはコロナ対策である。すでにその対応策については社内に周知させるため3回告知を出しているし、時差出勤のために終業規則改正もした。話はだいぶそれてしまったが、今回の新型コロナウイルスについての対応はこれまでとは異質なことが強いられると思う。景気もジリ貧状態になっていくだろう。いざ感染者が出たとなれば消毒体制や休む者の代替をどうするか、業務の縮小と継続などBCPを強いられることにもなる。休業の補償とか諸々も考えなくてはならない。

 なんともため息の出るようなことばかりだけれど、あえて能天気にいえば海外旅行に行くにはラストのタイミングだったなとつくづく思うばかりだ。