二つのフィルム・ノワール

まあ犯罪映画という意味ぐらいで使っているんだが、レンタルで借りてきたものを次々と夜中に観てみました。

ブラック・ダリア

どういう映画か、主演は、監督は、みたいな事前情報一切なしに観た。TUTAYAで妻がミステリーで一番人気があると持ってきたので、まあいいかみたいな感じ。で、観た感想を一言でいうと、よくわかんなかった。脚本がこなれていないのだよね。もうストーリー消化するのに精一杯っていうのかな。けっこう複雑な話らしいのだが、それを映像処理、セリフ処理でうまくつなげていくのに失敗しちゃった感じだ。編集が悪いんだろうな。
監督はあの、なぜかあのであるブライアン・デパルマだ。まだフロントで頑張っているんだね。この人のイメージっていうと、本人は一生懸命ヒチコックのオマージュやっているのに、B級恐怖映画作家っていうイメージしかない人っていうところか。確かに「キャリー」はすごかったけど、後はほんと印象ないんだよな。
舞台は1940年代のロス・アンゼルスで刑事もの。舞台や時代、ストーリーの複雑からみ具合でなんとなく「L.Aコンフィデンシャル」と似たものがあるな〜と思っていたら、原作が同じあの、やっぱりあのになってしまうけど、ジェイムズ・エルロイだったりするわけ。「L.Aコンフィデンシャル」もなんというか雰囲気だけで、いまひとつお話がこなれていない印象をこと映画に限っていえば思ったものなのだが、同じだねその部分は。
もっと映画に脚色するときに大胆な省略とかが必要なのに、妙に忠実にストーリーなぞろうとするからこういうことになるんだろうね。デパルマもヒチコック好きなら、おどろおどろした映像表現とかだけでなく、映画的省略とかを含めたヒチコックの文法を学ぶべきだったろうになどとも思う。まあデパルマもいい年だし、いまさらっていうことかな。
あと、役者についての短観。主役の男優についていえば、一言でいってどうでもいいや。女優について。スカーレット・ヨハンソンはグラマラスでセクシー。ちょっとキム・ノヴァクを彷彿とさせるような感じ。まあデパルマのヒチコック趣味なんだろうな。
ヒラリー・スワンク。あの「ミリオンダラー・ベイビー」を熱演した女優さんだね。グーグルとかでくぐると、まだ若いのにすでに二度オスカーを受賞しているんだね。しかしあの「ミリオンダラー・ベイビー」は本当に救いのない映画だったな。いい映画だとは思うけど、二度は観ないだろうリストのかなり上位の部分に位置している映画だ。しかしこのイメージが強いのだが、今回は好き物の金持ち令嬢で主人公にからむキャラをそれなりにきちんと演じている。やっぱりうまい女優さんだ。
印象に残っているのはこの二人の女優さんだけ、まあそれだけの映画だな。あと少しだけ思ったのだが、この二人の女優さんとデパルマの最初の奥さん、ナンシー・アレンがなんとなくダブってくるのだよ。似ているといえば似ている、似てないといえば似てないんだけど、どことなく共通点があるような、ないような。まあ、デパルマの趣味なのかな〜とも思うわけだ。そういえば初期のデパルマ映画にはずいぶんと繰り返しナンシー・アレンは使われていた印象がある。どうでもいいことだけど。
そして次に観たのは、「ディパーテッド」。
ディパーテッド [UMD]

ディパーテッド [UMD]

  • 発売日: 2007/06/08
  • メディア: UMD Universal Media Disc
警察に潜入したマフィアのスパイとマフィアに潜入した警察のスパイ。正体がばれたらすぐに死に直結する緊張した生活を強いられる二人の男の数奇な運命を描いたサスペンス映画。
主役はレオナルド・デカプリオとマット・デイモン。脇に名優ジャック・ニコルソンを配している。二枚目人気スターをフロントに揃えたそこそこに緊張感あふれる映画である。監督ももはや巨匠の域にあるマーティン・スコセッシ。スコセッシはこの映画で念願のオスカーを受賞している。
さてと感想なのだが、まあまあ面白かった。少なくとも「ブラック・ダリア」に比べれば数段上だね。まあ役者を含めて予算とかもぜんぜん違うのだろう。あっちは正直B級、こっちは少なくとも役者の出演料だけでも超大作の部類に入るんじゃないの。
それにデカプリオもデイモンもそこそこに良い演技、良い味を出している。けっこう好感もてる。なのだが、私の印象を一言でいうとだね、マフィアのボスを演じたジャック・ニコルソンの演技というか怪演技ぶりが凄すぎて、デカプリオ、デイモンの頑張りもなんか軽〜くふっとんでしまったという印象だ。ニコルソンはマフィアの大物としての重厚感などさらさらなく、ひたすらヴァイオレンスな凄みで押し通している。これがすごい。なんていうか、この凄みはニコルソンにしかだせないような気がする。デニス・ホッパーでは狂気に走りそうだし、ゲイリー・オールドマンあたりじゃ軽すぎる。狂気の一歩手前で、粗野にして重量感のある凶暴さをずしーんと押し出すあたり、ニコルソンの独壇場なわけ。
この映画デカプリオとデイモンによる若手の演技合戦みたいなふれこみではあるのだが、ニコルソンの一人がちみたいな感じで終わってしまったような印象がある。そういう意味じゃある種の失敗作かもね。
あと、デカプリオにしろデイモンにしろ、ニコルソンにしろアイリッシュが出自という設定なのにまったくそうは見えない。わざわざボストンを舞台にしたのもそのためなのにね。スコセッシがイタリア系のためか、やっぱりイタリアン・マフィアにしか見えないんだよな全体の雰囲気が。そのへんがやや難点かな。そういう意味じゃ、アイリッシュマフィアなんだからアイリッシュ系の俳優集める必要があったんじゃないのかなとも思う。
どうせだから1950年代にジョン・フォードの演出で、フォード一家の面々でこの映画とったらさぞやわけのわからない面白い映画ができたかもしれないな。少なくともアイリッシュの雰囲気は満載だったと思うぞ。フィルム・ノワールになったかどうかは定かじゃないけど。