妻がたおれる

 昨晩、妻が倒れた。残業の後、新人の歓迎会に途中から出席していて、その席でくずれるようにして倒れたという。会社の同僚からの電話があったのは10時過ぎのことだ。救急車を呼んだ。病院が決まり次第また連絡するという。最初は疲れと酔いで意識を失ったのだろうと簡単に考えた。その後すぐにまた電話があり、病院は新宿、戸山の国際医療センターに決まったという。その時の話でかなり深刻な状態だといわれ、娘一人を留守番させるわけにもいかず、娘を連れて車に飛び乗った。
 病院についたのは12時近かった。妻は処置中とのことで会うこともできず、ついてきてくれた会社の同僚数名から話を聞いた。なんでも普通に話ししていたのが急に腰砕けのようにして倒れたという。一時間近く待たされて医師から病状についての説明を受けた。
脳梗塞が脳の右側の広範囲にある。そのため左半身がマヒしている。さらに脳の表面にクモ膜下出血があるので容態はきわめて深刻だ」という。「脳梗塞の部分を中心にこれから2〜3日の間に脳が腫れてくる。この状態を脱せれば回復に向かうが、そうでないと生死に関わるきわめて深刻な状態に陥る」
「回復しても左半身は完全にマヒしているので、相当の後遺症が残る。良くても車椅子の状態、最悪の場合は寝たきり状態になる。ここは(この病院は)、救急病院のため回復次第リハビリ系の病院に転院していただく」
 まさに思ってもいない宣告だった。一番の気がかりはやはり生死のことだったから、ここ2〜3日がピークということで生存の可能性を聞いた。「2〜3日の深刻な状態を脱する確率はずばりフィフティフィフティですか」
医者は「いや、そこまではいかないでしょう。七三くらいの確率で助かるとは思います」
その説明にややほっとしつつも、一生寝たきりかもしれないという深刻な状況を思うにつけ、なにか自分の思考回路のいくつかの線がぶつぶつと切れて行くような感覚をもった。