『ポール・チェンバース・クィンテット』

 前作『ウィムス・オブ・チェンバース』の翌年1957年5月の録音。前作のセクステットからギターが抜けたクィンテット。テナーはコルトレーンからクリフ・ジョーダンに。ピアノがホレス・シルバーからトミー・フラナガンに。ドラムはフィーリー・ジョーからエルヴィン・ジョーンズに変わる。アレンジ及び音楽監督ベニー・ゴルソンが務める。完成度の高いハード・バップジャズ、あるいはモダン・ジャズアルバムが見事に出来上がっている。ある意味ではコンセプト・アルバムといえる。
 前作では様々のことへのトライしようという志向性とそのために妙に力の入った感があった。それがこのアルバムではほどよく力が抜けリラックスしたムードが感じられる。トミー・フラナガンの癖のないピアノの影響もあるように思う。チェンバースのベースソロをバッキングするフラナガンのピアノはブルージーでかつ精練されており、ベースのアドリブを際立たせている。
 そう、すべてに前作よりもユルイのだ。若きコルトレーンのがちがちの力奏に比してクリフ・ジョーダンが、シルバーに比してトミフラが、肩の力を抜いた演奏をしているという感じだ。
 そして何よりもゴルソンのアレンジかな。このアルバムは2曲のスタンダード、残りの4曲をゴルソンのオリジナルが収録されている。4曲とも素晴らしい出来だが、2曲目の「ザ・ハンド・オブ・ラブ」が一番お気に入り。ゴルソンのアレンジは常にいえることだけど、ハード・バップをよりソフィスティケートさせたんじゃないかと思う。アーシーとかブルージーとかいったハード・バップの粗野な側面を精練させた室内楽にしたみたいな印象だな。当てずっぽう物言いだから的外れかもしれないけど、そんな風に思う。
 しかしこのアルバムは素晴らしい出来だな。こういうアルバムを聴くとますますモダン・ジャズにのめりそうだ。このアルバム時、ポール・チェンバースは22歳。早熟な天才ミュージシャンは素晴らしいメンバーと秀逸な編曲家にして作曲家であるトータルなコンセプター、ゴルソンを得て快作をものにしたということなんだろう。そしてそれはそのままプロデューサー、アルフレッド・ライオンの慧眼の成せる業でもあるわけなのだ。
ポール・チェンバース・クインテット