ベートーベンの交響曲

 ベートーベンの交響曲って、白状すると知っているのは有名な3番、5番、6番、7番、9番だけである。1番、2番、4番、8番って意外と知られていない。周囲でもだいたい5、6、7、9である。で、自分自身はほとんど聴いたことがない。父親が持っていたカセットとかに4番とか8番があるので多分一度や二度は聴いたことがあるのだろうが、ほとんど印象がない。ある意味、5番、6番、9番が有名過ぎるのがいけないのではとか思ったりもする。

 なので、これではいけないということで、手頃なベートーベンの交響曲セットがないかということで6月に手にしたのがこれである。

Cluytens Directs Beethoven : SYMPHONIES 1 - 9 (Box Set)

Cluytens Directs Beethoven : SYMPHONIES 1 - 9 (Box Set)

 

  クリュイタンスって、確かラヴェルのもので1枚くらいCDを持っていたはずだが、ほとんど知らない。ベルギーの指揮者らしいのだが。で、このボックスセットについて調べるとけっこう名演という評判。1958年の録音ということで61年前のものベルリン・フィル・ハーモニーがカラヤンフルトヴェングラーに先駆けて録音したベートーベンのシンフォニーのセットだという。

 古いクラシックファンには馴染みのようで、子どもの頃に家のステレオで擦り切れるように繰り返し聴いたというような感想をネットで読むこともできる。

 演奏についてはどうのこうのいえるほどのクラシックファンでもないのだが、年代の割には意外と軽やか。フルトヴェングラーほど重厚でもなく、カラヤンのように華麗流麗でもないのだが、なんとなく垢抜けた印象がある。

 そしてほとんど聴いたことがない1番、2番、4番、8番である。なかなか家でずっと聴く時間もないので、Ipodに入れてプレイリストにして車の中でずっと聴いてみた。で、6月から7月にかけて聴いているのだが、なかなか主題を覚えきれないというか。まあ5~7番、9番のようにどこを聴いても一発でわかるなんていうのは、これはまあ自分のような俄かファンにとってはなかなか年季がいるのだ。どうにかこうにか2番と4番はなんとなくすぐにわかるようになってきた。まあそれだけしっくりくるみたいで、けっこう繰り返し聴いている。

 特に心地良く聴けるのは2番である。1番はなんとなく習作っぽくて、モーツァルトハイドン風に作りましたみたいな感じであんまり面白みがない(俄かの感想です)。それからすると2番には個性というか、ベートーベンらしさが出てきているような気がする(俄かの感想です)。

 ウィキペディアによるとベートーベンの難聴が悪化した時期にあるとか、1楽章、3楽章、4楽章がニ長調で明るい雰囲気とか、1楽章になんとなく9番を彷彿とさせるとか、1楽章の第二主題の穏やかな表現とか、なんとなくさもありなんと思うところが多々ある。まあこの第一楽章は完全に自分のストライクゾーンみたいな感じだろうか。

 なのでベートーベンの2番は自分のお気に入りの一つとなることは確実となった。しかしある種の暴論っぽくいえば、自分にとってクラシックはある部分モーツァルトとベートーベンとラヴェルで完結してるかもしれない。それなりに忙しい日々を送りつつ、あとどのくらい生きられるかという老人にとって、これからマーラーを極めるとかはまあ普通にいって無理っぽい感じである。

 そうなるともう繰り返しモーツァルトとベートーベンだけ聴いていればいいのではないかと思ったりもする。それこそ交響曲はベートーベンだけでいいと思えてさえくる。この2番の心地良さは本当に発見みたいな感じである(俄かの発見)。

THE BEST! THE SINGERS UNLIMITED

シンガーズ・アンリミテッド/ザ・ベスト

シンガーズ・アンリミテッド/ザ・ベスト

 

 数日前に酔っ払ってネットでポッチったのが届いた。シンガーズ・アンリミテッドのベスト盤だ。このグループのものはアルバムで4~5枚持っていたけど散逸。CDで買い直して2~3枚持っているか。ジャズ・コーラスの最高峰。スタジオでの多重録音をメインにしていて、ライブ演奏は一切ないと聞いている。

 このベスト盤収録曲も持っているアルバムのものもあれば、なくしてしまったLPのものもある。いずれにしても総て聴いたことがあるものばかりだけど、心地よいのですべて許す。このグループは墓場にも持っていきたくなる。毎日、聴いていてもいいくらい。特に紅一点のボニー・ハーマンの声の心地良さはすべてに勝るような感じだ。

 数年前にツィッターで流れてきたけど、ボニー・ハーマンは存命とのこと。長生きして欲しいと思ったりする。

 シンガーズ・アンリミテッドのことを少しだけ書いておく。メンバーはジーン・ピュアリング、ドン・シェルドン、レン・ドレスラー、ボニー・ハーマンのクァルテットで1967年に結成。ジーン・ピュアリングがコーラス・アレンジの一切を手掛けている。

1.FOOL ON THE HILL

2.SESAE STREET

3.CHERRY

4.SOON IT'S GONNA RAIN

5.KILLING ME SOFTLY WITH HIS SONG

6.YOU ARE THE SUNSHINE OF MY LIFE

7.ON A CLEAR DAY YOU CAN SEE FOREVER

8.BYE BYE BLUES

9.ZIP-A-DEE DOO-DA

10.SWEET GEORGIA BROWN

11.WHY DON'T YOU DO RIGHT

12.FEELINGS

13.I GOT THYTHM

14.ELEANOR RIGBY

15.I'M GONNA GO FISHIN'

16.AIR(FROM SUITE IN D)

 

『独ソ戦』を読み始める

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

 

 出たばかりの岩波新書独ソ戦』を購入した。ネットでの評判も良く、書店店頭でもけっこう売れ足が速く、平積みした本屋でも売り切れたところや、残り数冊というところもあるという。

 今時、なんで独ソ戦よと思わない訳でもないのだが、世の中には軍記モノ、軍事マニア、軍事作戦シミュレーションとかに非常に興味のある者がけっこうな数いるようだ。多分、そういうコアなところが買っているのかもしれない。好戦主義ではない戦争マニアという人たちだ。思えばオタクというのは、ここ30~40年に出現したのではなく、大昔からいたのだということ。昔はマニアとか好事家なんて言われてましたね。

 そうした戦争好き-とかいうと語弊あるかもしれんが、戦争マニアとは別に、例の歴史好きの人たちが実は買っているのかもしれないと思うところもある。ほら、あれですよなんでか知らんがあの小難しい『応仁の乱』をベストセラーにしてしまった読者の皆さん。歴史グダグダが大好きな人たちである。

 いわれてみれば、第二次世界大戦でもっとも死傷者を出した、ある意味究極の悲惨な戦争である独ソ戦についての概説書って、意外となかったようだ。そこに投入された本がこれである。新書なんだが、目次を追っていくとこの戦争の全貌がうまいことまとめられている。実際、読み進めていくとこれ戦争というミニマムな部分では極限的な悲惨さの体現げある戦争の過程がきちんと描かれている。概説書としては多分、最近にはない良作だと思う。

 思えば岩波新書にはかっては歴史概説書、通史の部分でけっこうな名著が揃っていたように思う。イデオロギー的とか亀井勝一にdisられていたけど、『昭和史』とか井上清の『日本の歴史』とか。割と最近でも網野の『日本社会の歴史』なんかも面白かった。まあこれも出てから20年以上経つから最近でもなんでもないんだが、自分からすると1980年以降はみんな最近という感覚がある。

 そしてこの『独ソ戦』は確実に新書概説書の古典になりそうな、そういうポジションに位置しそうな、そんな予感がする一冊でもある。

 初期に対ソ作戦案をたてた人物としてエーリッヒ・マルクス少将の名前が出てくる。その作戦案は17週間で完遂されるというきわめて楽観主義に満ちたものだったという。実際、ソ連との長い国境を三面で戦い、敵陣に電撃的侵攻しても長い戦線を維持しなければいけないというのに、わずか三週間で攻め落とすというのはあまりにも短絡的で雑な作戦である。

 こんな無謀でいい加減な作戦をたてたというマルクスという名前に妙に引っ掛かりがある。で、思い出したのだが、このマルクスって、映画『史上最大の作戦』で、ただ一人連合軍のノルマンディー上陸を予見した切れ者中の切れ者として描かれる人物である。

 将軍通しの地図上の軍事シミュレーションで、連合軍側として悪天候下でノルマンディー上陸を行いドイツ軍に勝つ。部下に向かって、連合軍には私のような才智溢れる将軍はいないと豪語する。

 映画の最後の方で、連合軍にノルマンディーに上陸され、撤退をよぎなくされ、壁に貼られた地図を悔しそうにに見つめるのが印象的だった。片足が不自由でロイド眼鏡をかけた、いかにも理知的な将軍として描かれていたマルクス大将。

 それが独ソ戦ではきわめて杜撰な作戦を描いた少将である。歴史の見方、描かれた方はことほど左様に多面的であるということ。

 

衝動買いFire7

 アマゾンの年に1度のセールとかにまたまた参戦。よせばいいのに意味もなく衝動買いである。買ったのはアマゾンのタブレット

 タブレットはネクサス7も持っているがほとんど使っていない。というか何に使っていいのかわからないのである。映画のようなコンテンツを観るかというと、あの小さな画面で観ることはほとんどない。買った時に少し観たけど。

 ではゲームはというと、あまりやらない。音楽はiPodがあるし、ネットでSNSとなるとPCかスマホで十分なのである。なので今回のFire7もまったく何に使用するかというとあてがない。とはいえ新型Fire7にはアレクサの機能もついているのである。

 とはいえEcho Dotも実は一つ持っていて、今回のセールでもう一つ買ってしまっている。これも衝動買いである。となるとタブレットはまったくの使い道がない。ということで今回はというと、とりあえず時計代わりに使ってみることにした。

 時計は無料のアプリをインストール。ちょうど壁掛けテレビの横にかけてみた。ダイニングキッチンに時計がなくて、少しだけ不自由してた。まあこういう感じにしてみた。アレクサについては今の所まだ試してはいない。

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新聞記者を観る

 5時で終了したMOMATの後、さらに時間が空いてるのでさてとどうするかと思案。普通なら鉄板で飲みに行ってしまうのだけど、なんとなくそういう気分でもない。なんとなく年齢のせいかもしれないね。

 それで話題になっている映画『新聞記者』でも観るかということになる。都内では何軒か上映館があるけど、埼玉だとなかなかやっていない。後で調べると大井のイオンで上映していることはわかったのだけど。それでスマホで調べてみると池袋でやっていることがわかる。時間も7時過ぎくらいから。なんとなくちょうどいい感じである。

 劇場はサンシャイン通りにあるシネコンHUMAXシネマズ。以前からその前を通ることはあったけど、入るのは初めて。驚いたのは窓口で初めてシニアかどうかと聞かれた。まあ63歳だし普通に「ハイ」と答えればいいだけのことだけど、なにせ初めてのことなんでちょっと戸惑った。

 自分で言うのもなんなんだが、割と童顔でだいたい年齢よりは10以上若く言われることが多いのでなんかそれに慣れてしまっている。とはいえ髪の毛は真っ白だし、60過ぎといってしまえばそのとおりなのである。まあ安くなるのだから有難いことこのうえない。

 そして『新聞記者』である。

 内容的には、事前にツィッターとかでもいろんな方が褒めていたこともありだいたいのことは知っていたつもり。東京新聞記者のスター記者望月衣遡子のノンフィクションを原案にしたもの。安倍政権の闇ともいうべき加計学園問題や、安倍のお抱えライターでもある山口敬之によるレイプ事件なども盛り込んだ、きな臭い内容でもある。

 内容が内容なだけに、ツィッターなどSNSでは評判を呼んでいるが、テレビなどではほとんど紹介されることがない。それでいて口コミを通じてそこそこのヒットをしているという作品だ。

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 主演は若手イケメン俳優である松坂桃李と韓国の女優シム・ウンギョン。この二人がとてもいい。松坂桃李という人気俳優が主演をやっているというのに、マスコミで喧伝されることがないということが、この映画の内容が現政権にとっては不都合な事実が満載であるということを物語っているのかもしれない。ちなみに松坂桃李の妻役には、人気女優の本田翼お出ている。普通なら松坂、本田が出ているというだけでそこそこ話題にならなければいけない。

 そして記者役のシム・ウンギョンである。まだ二十代前半の女優だが圧倒的な存在感だ。流暢に日本語をこなすのも凄い。役柄が帰国子女ということでじゃっかんカタコト風になるところもうまく消化されている。アップにも耐える表情豊かな女優さんだ。この人は性格俳優もいけると思う。それだけの演技力を25歳という若さで身につけている。

 どことなく上野樹里と似た雰囲気を持っていると思ったら、韓国でリメイクされた「ノダメ」の主演をしているという。

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上野樹里、シム・ウンギョンのツーショット

 映画はというと、内容のスキャンダラスな部分はなしにしても、面白い映画に仕上がっている。社会派ミステリーとしても十分いける。テンポのいい演出とシム・ウンギョンの圧倒的な存在感、松坂桃李の演技力によって、第一級娯楽作品に仕上がっている。

 要はただの社会派映画、政権告発映画じゃないということ。後半部分で若干ダレそうなシークエンスもあるにはあるのだが、ギリギリのところで破綻なくラストまで進む。そのへんは演出の弱さを主役の演技力が補ったといえるかもしれない。

 この映画はけっこう海外でもイケるように思う。まあ内容が内容なので韓国はいいとしても、中国ではちょっと上映が難しいかもしれない。ハリウッドではどうか、大ヒットという訳にはいかないだろうが、大都市圏だったらそこそこイケそうな気がする。一番いいのはイギリスやフランスあたりかもしれない。

 社会派告発映画とかそういう部分はとりあえず置いといて、面白い映画を観れたと思う。機会があればもう一回くらい観てもいいかもしれない。そのくらい主役のシム・ウンギョンが素晴らしい。

  映画が終わり、タイトルクレジットが全部終わり、館内が明るくなるときに数人が拍手をした。自分も当然のごとく拍手をした。映画で最後に拍手をするのは久々のことだ。それだけ良い映画だったということである。

コインロッカー

 まずは一枚の写真から。

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 MOMATのコインロッカーである。美術館のコインロッカーは基本無料で、100円玉は返却される。鍵を差し開ければ、100円玉は出てくる。自分たちにとっては割と常識というか、当たり前なんだが、ひょっとして外国ではこれは普通ではないのでと思ったりもした。

 実際、今日のMOMATもけっこう外国人のお客が多かった。上野の西洋美術館と竹橋の近代美術館はけっこう外国人に有名なのかもしれない。まあ実際のところ、これだけの名画が揃っているのである。美術好きにはそそられるものがあるだろう。ひょっとしたらガイドにも当然のように載っているのかもしれない。

 なのでこの硬貨の取り忘れは多分外国人のものではないかと、勝手に推測してみた。そう思ってみるとけっこうあちこちに100円玉の取り忘れが散見するのだ。もちろんそれを集めたりといった無粋なこともしない。係の人に言うのも面倒臭かったのでそのまま放置した。

 まあ中に入るところでハードルが高いが、小銭目当てのプータローにはねらい目かもしれない。

 

再びMOMATへ

 都内で打ち合わせを2つ終わらせて時間を見ると3時過ぎである。会社戻れば5時近くになるのでさすがにそういう気分にもなれずで、割と近くにある竹橋の近代美術館に行くことにした。ここには12日に行ったばかりで、5日ぶりという。何か月も行けないこともあれば、こういうこともあるのである。

 ウィークディなので閉館は5時。正味で1時間半ちょっとである。前回はゆっくり常設展を観ているので、今回は企画展の方をメインにしてみる。

高畑勲展>

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 別にアニメなどに興味もないし、ジブリも話題作くらいは観るがそえほど熱心という訳でもない。しかし亡くなった高畑勲にはそれなりのリスペクトをする部分もある。展示された様々な資料類にはけっこう興味深いものがある。

 まずなによりも高畑が東映動画出身であるということに驚く。我々昭和時代のオールドからすれば、ディズニーアニメを別にすれば、アニメは虫プロ手塚治虫というよりも、どちらかといえば東映動画なのである。なんか小学校の体育館とかで教育の一環みたいなことで上映したのを観た記憶がある。覚えているのはソ連アニメの『森は生きている』と東映動画の『安寿と厨子王』である。その『安寿と厨子王』に作画スタッフとして高畑勲は参加している。そのことに正直驚いてしまった。

 さらにテレビアニメの『狼少年ケン』でも何作かの監督をやっている。日本アニメのレジェンド、草分け的存在といってもいいのだろう。高畑が監督した『狼少年ケン』は「ゴリラの王様」という回で、自分にはほとんど記憶はないのだが、ゴリラ達がテレビで自分たちが出ているアニメを観ながら、ああでもないこうでもないと感想言ったり、喜んだり、騒いだりという、ちょっとメタ感覚のある凝った作品になっていた。

 その他で面白かったのは、昭和時代とあって企画書、連絡の手紙が全部手書きである。絵コンテとラフの進行もすべて手書き、便せんや集計用紙を使っている。まあ当たり前といってしまえばそれまでなんだが、ワープロ万能の世の中となってはそれが本当に新鮮に思えた。手書きの絵、手書きの文章によって紡いでいく、アニメの草創期はそういいうことだったのだ。

 後は『アルプスの少女ハイジ』のジオラマや模型なんかが興味をひいた。放映された頃は多分中学生か高校生くらいなので、直接観た記憶はないのだが、なんとなく懐かしい思いがした。

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 高畑の作風は晩年の『隣の山田君』から大きく変わった。ラフな線描と背景の省略。その集大成が『かぐや姫』であることが判る。こういうのは時代的変遷を丹念に追った今回の回顧展だからこそわかるものかもしれない。アニメ好き、ジブリ好きは一度は訪れた方がいいと思う。