『独ソ戦』を読み始める

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

 

 出たばかりの岩波新書独ソ戦』を購入した。ネットでの評判も良く、書店店頭でもけっこう売れ足が速く、平積みした本屋でも売り切れたところや、残り数冊というところもあるという。

 今時、なんで独ソ戦よと思わない訳でもないのだが、世の中には軍記モノ、軍事マニア、軍事作戦シミュレーションとかに非常に興味のある者がけっこうな数いるようだ。多分、そういうコアなところが買っているのかもしれない。好戦主義ではない戦争マニアという人たちだ。思えばオタクというのは、ここ30~40年に出現したのではなく、大昔からいたのだということ。昔はマニアとか好事家なんて言われてましたね。

 そうした戦争好き-とかいうと語弊あるかもしれんが、戦争マニアとは別に、例の歴史好きの人たちが実は買っているのかもしれないと思うところもある。ほら、あれですよなんでか知らんがあの小難しい『応仁の乱』をベストセラーにしてしまった読者の皆さん。歴史グダグダが大好きな人たちである。

 いわれてみれば、第二次世界大戦でもっとも死傷者を出した、ある意味究極の悲惨な戦争である独ソ戦についての概説書って、意外となかったようだ。そこに投入された本がこれである。新書なんだが、目次を追っていくとこの戦争の全貌がうまいことまとめられている。実際、読み進めていくとこれ戦争というミニマムな部分では極限的な悲惨さの体現げある戦争の過程がきちんと描かれている。概説書としては多分、最近にはない良作だと思う。

 思えば岩波新書にはかっては歴史概説書、通史の部分でけっこうな名著が揃っていたように思う。イデオロギー的とか亀井勝一にdisられていたけど、『昭和史』とか井上清の『日本の歴史』とか。割と最近でも網野の『日本社会の歴史』なんかも面白かった。まあこれも出てから20年以上経つから最近でもなんでもないんだが、自分からすると1980年以降はみんな最近という感覚がある。

 そしてこの『独ソ戦』は確実に新書概説書の古典になりそうな、そういうポジションに位置しそうな、そんな予感がする一冊でもある。

 初期に対ソ作戦案をたてた人物としてエーリッヒ・マルクス少将の名前が出てくる。その作戦案は17週間で完遂されるというきわめて楽観主義に満ちたものだったという。実際、ソ連との長い国境を三面で戦い、敵陣に電撃的侵攻しても長い戦線を維持しなければいけないというのに、わずか三週間で攻め落とすというのはあまりにも短絡的で雑な作戦である。

 こんな無謀でいい加減な作戦をたてたというマルクスという名前に妙に引っ掛かりがある。で、思い出したのだが、このマルクスって、映画『史上最大の作戦』で、ただ一人連合軍のノルマンディー上陸を予見した切れ者中の切れ者として描かれる人物である。

 将軍通しの地図上の軍事シミュレーションで、連合軍側として悪天候下でノルマンディー上陸を行いドイツ軍に勝つ。部下に向かって、連合軍には私のような才智溢れる将軍はいないと豪語する。

 映画の最後の方で、連合軍にノルマンディーに上陸され、撤退をよぎなくされ、壁に貼られた地図を悔しそうにに見つめるのが印象的だった。片足が不自由でロイド眼鏡をかけた、いかにも理知的な将軍として描かれていたマルクス大将。

 それが独ソ戦ではきわめて杜撰な作戦を描いた少将である。歴史の見方、描かれた方はことほど左様に多面的であるということ。