定期演奏会

 昨日は子どもが所属している吹奏楽団の定期演奏会に行ってきた。

 場所は大田区民ホール。この楽団の定演は4回目で、そのうち3回を聴きに行っている。行かなかった回は子どもが仕事とかで参加しなかったのと、会場がかなり遠かったから。まあ親バカというやつである。

 何度も書いているが、この市民楽団は大学のインカレ・サークルの卒業生を中心に結成された。子どももそのサークルに所属していた。こうしたアマチュア市民楽団はそれぞれ団員が会費を払って運営している。きけばけっこうな会費である。それによって練習場を確保したり定期演奏会の場所を借りる。演奏会の入場は無料だ。そういうことを考えると、なにか頭の下がる思いもある。そしてみんな音楽が好きなんだということを改めて思ったりもする。

 これも以前書いたことだけど、吹奏楽はだいたい中学から初めて高校までの6年間続ける。そして大学に入るとなんとなく吹奏楽も卒業となる。中学や高校と違って大学で吹奏楽部というのがあまりないこともある。インカレ・サークルなどもあるにはあるが、なかなか敷居が高い。そして普通に授業、他のサークル、あるいはアルバイトなど学生生活に馴染んでいく。

 うちの子どもも入った大学には吹奏楽部もサークルもなかった。たまたま高校時代の吹部仲間がインカレ・サークルに入り声がかかった。それからは週1~2回の練習をよく続けたものだと思ったりもする。中学から大学まで通算して足掛け10年。そしてそれでも音楽を続けたくて市民楽団に入って活動を続けている。

 親的にはいろいろと期待を裏切られてきた部分もある。もっとも子どもからすれば勝手な期待ということだろう。でも音楽をずっと続けているところは素直に偉いやっちゃと思ったりもする。ずっと演奏を続けていく、楽器を生活の一部にする、そういう人生は多分いいことだろうとも思ったりもする。

 今回の演奏プログラムは5曲+アンコール1曲の6曲。子どもはそのうち5曲にのる。子どもに言わせると、今回は参加する団員がいつもより少なくてのる曲が増えたということだった。

 曲目は以下の通り。

1.新世界の踊り/Martin Ellerby 9:32

2.あなたとワルツを踊りたい/野呂望     9:59

3.ミュージカル「レ・ミゼラブルより/Claude-Michael schonverg/arr.森田一浩    9:59

4.「白鳥の湖」によるパラフレーズ/Peter Llyich Tchykovsky/arr.井潤昌樹    9:22

5.交響組曲ピノキオ」/Ferrer Ferran    27:20

6.アンコール  2:49

 曲はみんな10分弱、「ピノキオ」にいたっては27分20秒という長大な曲だ。でもさすがみんな10数年以上の楽器キャリアのメンバーが集まっているだけに破綻のない演奏だ。十分に聴かせてくれる。パートメンバーの多寡によってか多少拙く聴こえる部分もない訳ではないが、なかなか練習時間もとれないこととかを思えば十分かもしれない。それでも毎年聴いているせいか、なんとなく上達というか楽団としての完成度も増しているような気もする。もっとも半分は身びいき的な部分もあるし、音楽は門外漢なのであくまで、自分にはそんな風に聞こえるというところ。

 個人的に一番気に入ったのは「あなたとワルツを踊りたい」だ。この曲は作曲家でトロンボーン奏者でもある野呂望氏が昭和音大在籍中に、所属する昭和ウィンドオーケストラの定期演奏会で初演されたもので、学生が在学中に作品が取り上げられることは異例ということらしい。

 作曲家自身の楽曲紹介文によれば「何処かの舞踏会にて、男性か女性か分かりませんが、ある人がパートナーの手を借り、慣れないワルツを少しずつ踊れるようになっていく」のだという。その慣れないワルツがなんと5/8という変拍子で綴られていくのだ。慣れないステップが3拍子+3拍子にならず、3拍子+2拍子になるという、ちょっと変態的な曲だ。そして最後にはようやく3拍子+3拍子という6/8拍子に収斂されてフィナーレとなる。プログラムの楽曲紹介では「無事ワルツを踊れるようになった歓喜の中で楽曲は幕を閉じる」のだ。

 いわれてみると覚束ないステップ、ワルツの3拍子が途中で2拍子になってしまったりという変拍子がダンスシーンを視覚化させる。面白い仕掛けの曲だ。それでいてリズム的な破綻がなく聴くことができる。子どもに言わせると、この変拍子はテンポとるのがけっこう大変だったとか。そりゃそうだろう。

 変拍子というと、我々のような古いジャズファンからすると、デーブ・ブルーベック・トリオの「TAKE FIVE」を連想する。そう変拍子といえば「TAKE FIVE」であり、作曲したポール・デスモンドの十八番だ。「TAKE FIVE」は5/4拍子だが3+2という意味では今回の「あなたとワルツを踊りたい」と同じである。そして「TAKE FIVE」も普通に特に変拍子とあまり意識することなく聴くことができる。4ビートのジャズと同じように聴いていて、リズムをとろうとする一つ多い、あるいはワルツ的に聴こうとすると一つ足りない、「あれっ」と思う、そういう面白さだ。

 この曲は1959年に発表されジャズとしては異例の大ヒットする。同じアルバムからは「トルコ風ブルー・ロンド」がなんと9/8拍子で作られている。さすがにここまでくるとジャズというより実験音楽風なのだが、途中で4ビートが入り、また9/8になってという複雑に展開する。

 自分はというと「TAKE FIVE」は33回転のコンパクト盤を兄が持っていてそれをレコードプレイヤーで聴いた。多分、小学生の時だろう。A面が「TAKE FIVE」でB面が「トルコ風ブルー・ロンド」だった。なのでこの2曲はけっこうよく聴いていたと思う。ひょっとしたら最初に聴いたジャズのひとつかもしれない。

 余談続きだが「TAKE FIVE」のヒットで味をしめたのか、ポール・デスモンドはその後も変拍子曲を何曲も出している。たしか「TAKE TEN」なんていうのもあったな。あれは10/8とさらに変態的な曲だったか。

 話を戻そう。「あなたとワルツを踊りたい」を聴いていて、なんとなくラベルの「ラ・ヴァルス」を連想した。ちょっと雰囲気が似ているなと。あとでプログラムの楽曲解説を読むと、「サクソフォンアンサンブルによるワルツの主題は、M・ラヴェルの「ラ・ヴァルス」から着想を得た」とある。なるほどなるほどと思ってしまった。そして自分の感覚も満更ではないかなと少しだけ思ったり。

 高校以上の水準の吹奏楽団の演奏会に来ると、自分の知らない吹奏楽曲が多数あることに改めて感心したりする。多分、吹奏楽界隈では有名な曲が多いのだろうが、割と最近の若い作曲家、例えば今回の野呂望氏などもそうだろう、そういう新しい曲に触れることができるというのもうれしいことだと思ったりもする。

 去年の定演で気に入った「青葉のころに」も河邊一彦氏の楽曲だし、「空が地球にささやいている」はこの楽団のために清水大輔氏に委託して作られた新曲だという。当然いずれの作曲者も若い。若い才能がある作曲家の作品をアマチュアの若手が集まった楽団が演奏する。そういうのをライブで聴くというのも楽しみだ。

 次回の定期演奏会は来年6月だという。できれば次回も聴きに行きたいと思う次第だ。

<あなたとワルツを踊りたい>

https://drive.google.com/file/d/1cPGzfj4S7KrsCGvRWla3QBVphmen9DJB/view?usp=drive_link

 


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