日野皓正のビンタの件

 日野皓正が中学生にビンタした件については、最初他の演奏者を無視して長時間ドラムソロを続け日野を激怒させた中学生に対して問題ありという声もあったが、全体としては日野のビンタという体罰に対して問題視する声が強まっているようだ。
 今でもtwitterなので日野を批判するツイートを見ることが多い。中には日野皓正のミュージシャンとしての資質にまで言及し、彼を攻撃するような声もある。子どもを叩くようなミュージシャンはロクなものではない、日野は過大評価され過ぎではないかといった声もある。
 なんかそうなると、日野皓正の肩を持ちたくなる部分もある。そういうと体罰を容認するのかということになる。体罰はよくないし、出来ればなくしたいとは思っている。そこは諸手をあげて賛成する。でもそれと日野皓正のこれまでのジャズ・ミュージシャンとしての実績は別問題だと思う。自分などは子どもの頃から彼の演奏を聴いてきたクチなので、彼の技術、演奏、時代時代での彼の動向とかもけっこうチェックしている。日本のジャズ・ミュージシャンとしてはナベサダと並んでフロントで頑張ってきた人だと思う。
 その彼が今回のようなことで毀損されちゃうのはどうにもなんかな〜という感がある。まあ公衆の面前での往復ビンタは問題ではあるけど。
 ただしあえて言ってしまえば、こういう企画、子どもにジャズやらせて、それをプロミュージシャンが指導するという企画が、ちょっと無理があったんじゃないかという気がしてならない。実際、公衆面前はないだろうけど、音楽の世界での教育というかそういう中では、体で覚えさせるなんてのはザラにあるだろう。いいかどうかは別にしてではあるけど。音楽のお師匠さんというのは偉くなればなるほど威圧的、暴力的だったりするのが普通じゃないのか。
 さらにいえば音楽のプロなんていうのは、音楽をやっているから評価されるけれど、大体において人間的にはどこかタガが外れてしまったような人が多いのではないか。それこそ超一流のミュージシャンにいたっては、常識レベルは完全に逸脱している人だって多いと思う。だって人生のほとんどを音楽のために捧げてきた人たちである。社会教育なんて受けている暇があったら、1分1秒でも練習しているような人たちだ。
 そういう人たちに教育的見地からどうのといわれてもという気もする。さらにいえば、最近のジャズ・ミュージシャンはマルサリスとか筆頭に人格者が多いのかもしれないが、ジャズ界の頂点にいると自分なんかが思っているチャーリー・パーカーなんて、ほとんど人間的にはクズでしょう。酒と薬と女、金遣いは粗い、約束なんか守る気さらさらない。そういう人間ですよ、パーカーは。でも、一度楽器持たせて気まぐれに体調が良ければ、誰にも真似できないような演奏をする。だから神のような存在としている訳でしょう。
 試みにもしパーカーが生きてて、世田谷で中学生のガキどもにジャズ教えることになったらどうなっていたか。へたすりゃロクでもない薬とかも教えたかもしれないし、気に入らない演奏でもしようものならビンタじゃすまなかったかもしれない。もう想像するだけで頭が痛くなる。
 そういうことからすれば、ヒノテルはまだましかもしれないと。いや、往復ビンタは絶対にいけませんけど。
 さらにさらにいえばだけど、自分は小・中学生にジャズとかは無理なんじゃないかと実は思っている。このくらいの子どもたちはまだ音楽の基礎をどうやって身につけるかを一生懸命にしなければいけない時期だと思う。一方、ジャズの真髄とは何かといえば、インプロビゼーション、アドリブ、クラシック的にいえばカデンツァ、ようは即興演奏でしょう。あるコード進行の中で創造力を駆使して即興で音を紡ぐ、そんなことまだ基本のキの状態にある子どもたちにできるわけないし、中途半端な技術でアドリブなんかやって悦にいってしまったら、それはほとんどオナニープレイみたいなものじゃないかと思う。
 よく中学生の吹奏楽部とかでも時々ベイシーの「A列車」とか演ったりするけど、ちっともスイングしてない。サックスやペットがお決まりの一小節くらいのアドリブのような譜面通りの演奏するけど、ちっとも面白くない。ああいうのを良いノリしているとか、感動するとかのたまう方もいるけど、あれはジャズじゃないと思う。
 映画の「スイング・ガールズ」あたりから割とビッグ・バンド・ジャズを演奏する学校が増えているけど、物凄い練習が必要だと思う。だいたいにおいて普通の吹奏楽曲やクラシックをきちんとできる学校はジャズ系もきちんとこなす。でも、それは多分ジャズではないんだが。
 話はずれたが、とにかく子どもに往復ビンタとかはよくないとは思っている。教育的見地からみても絶対にそうだとは思う。でも、あえていえばプロ・ミュージシャンの世界についていえば、あの世界はなんでもアリだと思う。どんなに人格者の演奏家がいても、クズでヤク中の天才には絶対に勝てない、そういう世界なのだから。