『グラン・トリノ』

グラン・トリノ [DVD]
『レスラー』とこの映画は一人でリビングで観た。ウィスキーを飲みながら一人でのんびりDVDを観る。今の私にあってはこれがたぶん人生の至福の時みたいなことなんだろうなと思う。淋しきことではあるが、そういう一人の時間を作ることすらなかなか出来ないのだから。
さてDVD鑑賞マラソンもすでに4作目。ほとんど明け方近くになってこの映画を観た。名作の呼び声高い評判の映画である。映画館員の選ぶ「映画館大賞」なるものにも選ばれたという。
asahi.com(朝日新聞社):1位は「グラン・トリノ」 館員ら投票の「映画館大賞」 - 映画 - 映画・音楽・芸能
 フォードの自動車工を務め上げて引退した頑固一徹な老人。彼と隣に引っ越してきたアジア系移民の少年との交流がメインで展開される。自動車の街デトロイトはこの映画にあるようにアジア系移民の移入が多いのかもしれない。白人は別の郊外に移り住んでおり、古くから住んでいる老人の周囲はアジア人やアフリカ系アメリカ人ばかりになりつつある。そういうことが何気にわかるような作りになっている。
なるほどデトロイトの状況はそういうことなんだ。1920年代には普通に白人の街であったハーレムやブルックリンが次第に移民が流入してきて、それにつれて白人が郊外に移り住むようになる。そしてスラム化が始まるみたいなことが現代でも繰り返されているということだろう。
映画の本題に戻ろう、けっこう人情話っぽくて良い題材なんだが、結局のところは直裁な暴力、殺人、レイプといったものに収斂されていく。それが目を覆わんばかりに陰惨で、個人的には好きになれない。個人的には映画であれ、小説であれ、誰も殺されない、誰も犯されない、そういうタイプのお話が観たい、読みたい人なのである。「リアルな社会の現実はわかりきっている。それを今さら映画なりで再度確認する必要はないよ今さら」、というのが私のスタンスだ。
とはいえこれがアメリカのある種の現実なわけだ。現在を切り取ってみせる時には避けて通れない問題、暴力と殺人、その他もろもろということなんだろう。
良いお話だし、最後の老人の身の処し方もとても感慨深い。それでもあえていわせてもらえば、暴力、レイプ、殺人といったところに簡単に行き過ぎる。それがアメリカ社会だといってしまえば、それまでかもしれない。でもそれだけがアメリカではないようにも思う。
イーストウッドはこの映画で役者からは引退すると表明したということらしい。その点からすれば、彼の長きキャリアの最後を飾る秀作として記憶に留めておくべき作品だとは思う。でもたぶん私はこの映画をきっと二度と観ることはないと思う。