せっかく長野に来たので、実は前々からよりたいところがあった。
茅野市にある尖石縄文考古館。その近くには康耀堂美術館という京都芸大が運営している美術館もある。そこには一度行ったことがあるのだが、縄文考古館に行っていない。
そこには縄文のビーナスと呼ばれる完全な形で発掘された女性像の土偶が展示されている。これについては美術の教科書にも写真入りで載っている。1995年には国宝にも指定されている。縄文時代の土偶としては初めて国宝指定されたという。
教科書の記述はこんな感じだ。
長野県茅野市の棚畑遺跡から「縄文のヴィーナス」と呼ばれる、妊婦状の女性の像が完全な形で発見されましたが、これは集落の中央に設けられた広場のなかの土坑に横たわるように埋められていました。
『信仰、自然との関わりの中で』(藝術学舎) 2013年
写真入りで載っていたその土偶は、妙に印象強く残るものだった。
軽井沢から尖石には、まず国道18号を西に進み、途中で浅間サンラインを行く。途中で左折してからずっと南に下り、立科町役場を過ぎ、蓼科高原を超えて白樺湖の近くを通り抜けさらに南下。東御から立科、長和町とほぼ東新を縦断して茅野市に入る。軽井沢からは2時間近くかかる。
そしてたどり着いたのが尖石縄文考古館。

館内に入ると右側の最初の間が常設展示室A。ここでは尖石遺跡の調査に尽力した民間研究者宮坂英弌宇治の業績や出土資料が。そしてその隣にはいきなりこの考古館の目玉である《縄文のビーナス》が展示してある。
《縄文のビーナス》



出土日 :1986年(昭和61)9月8日
国宝指定日:1995年(平成7 )6月15日
約5000年前
高さ27cm、重量2.14㎏
装飾が施されていない見事な具象。腹部や下半身の大きく張り出した形状は、妊婦であることを強調している。なんとも魅力的な土偶だ。
自分はどちらかというと考古学系には興味がない。というか知識に乏しいためどうしても入っていかない部分があるでもこのビーナスにはどこか惹かれるものがある。どうも言語化できにくいところではあるのだけど。
《仮面の女神》
そして《縄文のビーナス》の斜め右側後方に展示してあるのが、もう一つの国宝《仮面の女神》である。



出土日 :2000年(平成12)8月23日
国宝指定:2014年(平成26)8月21日
約4000年前
高さ34cm、重量2.7㎏
これは茅野市湖東(こひがし)の中ッ原遺跡から発掘された。こちらもほぼ全身像のまま横たわる状態で発掘されている。ただし右足だけが人為的に壊された状態だったが、すぐ近くから見つかっているという。顔に仮面をつけたようなこのタイプの土偶を仮面土偶と呼ぶ。
この《仮面の女神》も魅力的なフォルムだ。この三角の仮面状の容貌はなにを表しているのだろう。そもそも土偶についてはなんのために制作されたのかも、はっきりと判っていない。一般的には宗教祭祀用に作られた霊的存在たる土人形ということになる。さらに圧倒的に女性像が多いので、五穀豊穣や子孫繁栄などを祈るための道具として用いられたともいわれている。
あとは安っぽい俗説的には、当時飛来した宇宙人説などなど。当時の縄文人に対して平和的だったが、その高度な知能や技術から、縄文人にとっては空から飛来した神として信仰の対象となったみたいな。まあよくある話的なやつだ。
自分はというと、多分アフリカアートなどと同じようなアミニズム的信仰のための道具だったのではないかと思ったりする。万物に霊魂が宿るという考え方、そして自然への畏敬。それらの原始的な思考のなかで言語化できない部分——そもそも高度なコミュニケーションツールとしての言語が存在したかはわかりえないが——を補完するためだったのかもしれない。
ピカソやモディリアニを魅了したアフリカンアート。なにかそれと同じような造形美をこの二体の国宝から感じるところがある。