

ずっと気になっていた三菱一号館美術館の「ルノワール×セザンヌ-モダンをhiraita人の巨匠」展を観てきた。
<開催概要>
本展は、フランス、パリのオランジュリー美術館が、ルノワールとセザンヌという2人の印象派・ポスト印象派の画家に初めて同時にフォーカスし、企画・監修をした世界巡回展です。
ルノワールの代表作《ピアノの前の少女たち》やセザンヌの代表作《画家の息子の肖像》をはじめとし、2人の巨匠による肖像画、静物画、風景画、そして、2人から影響を受けたピカソを加え52点の作品から、モダン・アートの原点を探ります。
また、この世界巡回展はオランジュリー美術館とオルセー美術館の協力により、ミラノ、マルティニ(スイス)、香港を経て来日し、三菱一号館美術館が日本唯一の会場となります。
ルノワールとセザンヌの交遊と合わせて、自在で多様な表現が生み出されるモダン・アートの誕生前夜に立つ2人の巨匠の、卓越した芸術表現を存分にお楽しみいただけます。(HPより)
<三つのみどころ>
- パリ、オランジュリー美術館発!ルノワールとセザンヌの2人展
- オランジュリー美術館 オルセー美術館から、ルノワールとセザンヌの代表作約50点が集結!
- ミラノ、マルティニ(スイス)、香港を経て日本へ。世界巡回展、日本唯一の開催
(HPより)
なるほど、なるほど、オラジュンリー美術館の所蔵品中心でルノワール、セザンヌをメインに約50点。しかも世界巡回展で日本では三菱一号館だけと、なかなか魅力的な企画展だ。三菱一号館はこれまでにもオルセーの所蔵品によるナビ派展とかもやっているし、このへんは強いという印象もある。オランジュリーの所蔵品展は記憶の範囲では初めてか。
ルノワール、セザンヌという人気の高い画家の企画展なので、なかなか人気が高い。ウィークデイの午前中なので空いているかと思ったが、入場まで20分待ちとか。美術館のウィークデイは午前中が混雑するというのは定番のよう。ようするに高齢者がいらっしゃるわけでと思いつつも、自分もその一人でした。
客層はというと、上野の美術館などに比べるとなんとなくお洒落な感じ。品の良い洋服を召されたマダム風の女性たちが、一人、二人連れなどで観覧している。自分もたまたまブルックスブラザースのTシャツ着てきたけど、良かったと思う。ユニクロTシャツのジイさんでは様にならないかなとか、まあこれは適当。
ただし入場料がお高い。当日券だと2500円。これに図録3500円をとなると合計6000円である(シクシク)。とはいえこちとらには学割という武器もある。窓口でおずおずと「こういうの使えますか」と学生証出すと1500円になりました。なので目出度く図録も購入できました。それでも都合5000円はちょっと痛い(シクシク)。
入場を少しずつ区切っているせいか、館内はちょい混みみたいな感じでした。さらにいうと、観覧者は列を作って一点一点観て行く、キャプションもゆっくり見ている、音声ガイドのあるところでは、聴きながら立ち止まって、みたいな感じでもなかったので、所謂渋滞らしい渋滞もなく、いい塩梅にバラけていた。自分はというと、まあいつものごとく、空いているところを探しては観てみたいな感じだった。
作品はというと、ルノワール、セザンヌの静物画、風景画、人物画と続いていく。それを観ているうちに、とくにルノワールはなんとなく既視感がある。オランジュリー中心なのでどこぞで観ているのかと、これは家に戻ってから確認すると、2019年に横浜美術館で開かれた「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」で来ていたものが多数あった。ざっと見てルノワールで6点、セザンヌで4点、あとは参考出品のピカソ、キース・ヴァン・ドンゲンなども。なんとなく久しぶりみたいな感じだったか。
さらにいうとオルセーからの出品作品も、2016年に国立新美術館で開かれたルノワール展で観たものもあったりして。まあ有名どころの作品ということでいえば、なかなか初来日の作品というのはないということなのでしょう。
作品は基本的にすべて写真撮影がOKだったようなので、パシャパシャさせてもらいました。

油彩、カンヴァス オランジュリー美術館
セザンヌといえばこれですね、多視点により構成された静物画。今、図録で確認しているのだけど、写真画像とは色の濃さとかがえらく違う。iPhoneカメラと図録の再現性、どっちが実物に近いのか、思い出せないのがちょっと辛い。もっとしっかりと網膜に映った映像を記憶できればいいのだけど、それはまあ無理なんだろうな。
この作品も横浜美術館の企画展に出品されている。当時の図録を見ると今回の図録とほぼ色合いが一緒だったりする。このへんが印刷による再現性ということなんだろうか。

ルノワールがセザンヌしている的な作品。これも横浜美術館出品作品。果物の器は横から、テーブルはやや上から見下ろすなど、セザンヌに倣った多視点を導入している。そして色彩はルノワール的。この作品は本展の図録がやや薄い発色、横浜美術館の図録では少し濃いめ、iPhoneのカメラが一番濃い発色。館内の照明の具合とかもあるのだろうかと思ったりもする。

オランジュリー美術館
美しい風景画。さながらモネのそれのよう。1875年、ルノワールが印象派グループでモネらとともに筆触分割による効果を試みている頃かと。図録解説によるとルノワールは他の印象派の画家に比して雪景色を題材にしていないという。その理由としては「私は寒さに弱かったから」なのだそうな。いわれてみればルノワールには寒々とした単色的な風景は少ないかもしれないし、色彩の画家には不向きな画題といえるか。

逆に冬景色を落ち着いた色彩と描いている。これも図録ではもっと寒々とした色彩が青みを帯びて再現されているのだが、カメラだと茶系統が強く発色している。ただし自分らが知っているセザンヌといえばどちらかといえば、この写真画像が近いかもしれない。図録によれば「セザンヌはここで、対角線や消失点を意図的に使用せず、色の相互作用だけで空間感覚を表現する試みを行っている」のだそうな。それってある種の空気遠近のようなことだろうか。どこかでこの木立の遠近感に下村観山を想起してみたりする。

文句なく素晴らしい作品。これも図録だと淡い発色で、赤い岩は薄茶の岩みたいな風情だったりする。手前に一部大きく描かれた赤い岩は、さながら浮世絵版画の近像型構図を思わせる。セザンヌもまた広重の浮世絵版画などを目にしていたのだろうか。

油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
この時期、セザンヌはピサロと共に屋外制作を続けていたという。図録によれば主題の選択や構図などにはピサロの影響があるという。この構図もどこか浮世絵的な趣があるが、セザンヌはピサロを通じて浮世絵を知ったのだろうか。

油彩・カンヴァス オルセー美術館
これもピサロと屋外制作を続けていた時期のも。どこかセザンヌ的ではないものを思わせる。色面、太くゆがんだ輪郭線などなど、さしずめゴッホやヴラマンクを予感させるような雰囲気だ。ちょっとセザンヌっぽくないセザンヌみたいに思えた。

オルセー美術館
シスレーあるいはモネのような印象派的な作品。ルノワールは、こういう絵も描いていたんだなと改めて思ったりもした。この作品は国立新美術館のルノワール展にも出品されていたオルセー美術館所蔵品。

オルセー美術館
これもオルセー所蔵品。ルノワールがクールベ的画題を描くとかくも色彩感覚が鮮やかになる。やっぱりルノワールは色彩の人と改めて思う。

1881年 油彩・カンヴァス オルセー美術館
これも2016年ルノワール展に出品されていた作品。1881年にルノワールがアルジェリア旅行した時に目にした風景を描いている。印象主義的な表現、手前のつんつんした植物は自生するアロエ。常々思うのだけど、印象主義的技法による筆触分割と視覚混合の効果をピサロやシスレーは意図的というか、考えながら描いている。それに対して、モネやルノワールはなんとなく直感的に、それでいて最大の効果を発揮できるように描く。そのへんが後者の天才性みたいに思えたりもする。

オランジュリー美術館
セザンヌ夫人オルタンス・フィケの肖像画。オルタンスは長時間同じ姿勢を保つ忍耐力のある女性だったとか。正面から描かれた肖像画は他にもデトロイト美術館所蔵の《オルタンス》などもあるが、個人的にはこの作品が一番好きかもしれない。この絵を観ていると、けっして美人ではないこの人物になんとなく語りかけたくなってくる。

オランジュリー美術館
地塗りの白の余白は未完成のようでいて、人物や背景の緑を強調する効果をあげている。セザンヌが狙っていたのか、ただの未完成作品なのか、もしくは絵具をケチった、あるいは潤沢に使えなかったからか。

オランジュリー美術館

オランジュリー美術館

1897年頃 油彩・カンヴァス オランジュリー美術館

オランジュリー美術館
ピアノの前の二人の少女という画題でルノワールは、6点の作品を描いている。その中で有名かつ完成度が高いものはオルセー美術館に所蔵されていて、モティーフや背景のカーテンなども細かく描かれている。そしてその作品は国家買い上げとなった最初の作品ということらしい。オランジュリーのこの作品は、オルセーの作品の習作的なもので背景のカーテンやピアノの側面などは簡略化されている。それでも少女たちの表情や衣服の色彩は見事だ。
オルセー所蔵の完成品と比べても、逆に簡略化や、ピアノの側面の塗り残しなどは、色彩的な効果という風に思えてくる。あたかもセザンヌが意図して塗り残して、ある種の視覚効果を狙ったごとくである。作品の完成度とは別に、個人の趣味としては背景を抽象的な色彩表現にしてみせる方がいいようにも見えてくる。印象主義風とでもいえばいいだろうか。

オランジュリー美術館
クロードはルノワールの三男で1901年生まれ。18世紀から19世紀の時代、男の子を女の子のような髪型、衣服を着せて育てるのは、フランス、イギリスでは一般的だったということで、20世紀初頭でもその名残りがあったのかと思ったりもする。この絵の女の子のような男の子で、ジョシュア・レイノルズの《マスター・ヘア》とかをなんとなく連想してみたりした。
クロード・ルノワールはのちに陶芸家となり、父親の絵の管理は彼が担った。

油彩・カンヴァス オランジュリー美術館
ルノワールのモデルの中でもかなりの美人。ルノワールの最後のモデルで名前はアンドレ・マドレーヌ=ウシュリング。当時10代の彼女はのちにカトリーヌ・ヘスリングという名の女優となり、ルノワールの息子で映画監督となったジャン・ルノワールと結婚し、彼の作品にも出演した。のちに二人は離婚したが、亡くなったのは共に1979年。ジャン・ルノワールは84歳、カトリーヌ・ヘスリングは79歳だった。