再度『生協の白石さん』について

 『生協の白石さん』を読んでいてもう一つ気になったことがあった。この白石氏は30代、男性の東農大工学部SB(書籍購買複合)店の担当者だという。30代の男性職員、東農大の担当者って、時代が変わったのだろうか。私が大学生協にいた時分のことでいえば、少なくとも30代にはほとんどの男性職員は店長クラスだったように思う。早い人だと20代後半、遅くても30過ぎると少なくとも三多摩地区の小さい店舗の店長になっていた。仕事が出来る人間、さらにいえば党派的な影響力もあるタイプは六大学の店舗の店長か小さな単協の専務理事になるというのが普通だったように思う。それを思うと、このユニークかつ才気溢れる白石氏は、実は大学生協にあっては傍流のタイプなのではないかと勘ぐってしまう部分もなきにしもあらずだ。
 そう、かっての大学生協には厳然たる格差があった。同じ職員でもエリートは六大学の職員になり、その中から店長〜理事への道が広がるみたいな。六大学の中でも例えば東大、早稲田は別格みたいな扱いだったような記憶もある。なぜかもちろんこの二校は大学の格もあるし、学生、教職員の人数も多いから当然供給高(所謂売上)も全国でもトップクラスだったからだ。だから東大や早稲田の店長やその上の理事クラスには、ほとんどが生え抜きの仕事もできる、学生時代から生協運動をやっていたみたいな活動家的タイプがそのまま生協官僚として君臨するみたいな様子が伺えたもんだ。
 それに対して六大学以外の単協は、そういう部分からはずれたある種の苦労人が一人区の店長を続けるみたいなイメージがあるにはあった。まあ、二十年近く前のことだから現在は違ってきているのかもしれないけど。さらにいえば昔は東農大クラスの店舗だと書籍購買複合店で職員は店長だけという一人区だった。東農大のHPとか見ていると店舗には店長以下白石氏を含めて3人の職員がいるらしい。三人も抱えられるくらいに供給高増えたのかなと思ってしまうな。でも学生数がそんなに増えているという話も聞かないしな。
 15年近く前になるだろうか、その頃は出版社の外回り営業をしていた時分だったけど、一度東農大の店舗に営業で行ったことがある。確かにその頃も牧歌的イメージが漂っていたな。版元営業だから当然アポ無し飛び込みで行ったら、偶然以前勤めていた生協での先輩筋の人が一人区の店長だったのでお互いビックリしあったのをよく覚えている。その人曰く「うちはSB店舗で書籍今ひとつだからな〜。僕は購買ばっかりだから本のことよくわからないよ」ということで、結局商売の話はそっちのけで昔話に花をさかせたもんだった。その東農大のSB店に担当者三人というのが今ひとつ解せないわけ。そしてこれほど楽しく、かつ今ではビジネス啓蒙書的にそれこそ『生協の白石さん』に学ぶマーケティング術みたいな言われかたさえされる消費者対応の達人、白石さんが30代で担当者であるというのが本当に腑に落ちないところだ。
 だから今さらにこの本の最後に東農大専務理事の小林氏の一文が載っているのだけれど、どうにも居心地悪そうな感じがしてならないところでもある。今や大学生協で一番のスター職員となってしまった白石さんを今後、生協はどう扱っていくんだろう。今さら店長に昇格させるのもな〜。さりとてより大型店の東大、早稲田、慶応あたりに持って行くのもなんだし。まあ順当にいけば、これだけのスターなんだから事業連合か連合会でマーケティングか広報部門あたりにポストを設けて、ある種の大学生協の顔としてやってもらうのがいいんじゃないかなどと考えるのだが。
 まあ、ほんと余計な心配、どうでもいいことではあるのだけれど、本が売れに売れてこれだけ露出してしまっただけに、白石氏の今後についてちょっとばかり思いをはせてみたりしてしまった。