お茶の水・神保町周遊

 歯医者の治療が早くに終わったので、お茶の水周辺をぶらぶらすることにする。

 いつもだと、湯島方面に行くか、水道橋から小石川方面に流れるのだが、なんとなく神保町方面に下ることにする。まずは目についてのはニコライ聖堂。

東京復活大聖堂(ニコライ堂) | 日本ハリストス正教会教団 東京復活大聖堂公式サイト

ニコライ堂 - Wikipedia

 通称ニコライ堂、正式には東京復活大聖堂、日本におけるギリシア正教会(東方正教会)の総本山。ギリシア正教をついロシア正教といいがちになるけど、あくまでギリシア正教のロシア地区の支部みたいな存在がロシア正教だということで異なるものと理解しないといけないみたい。

 お茶の水の名所ともいうべき存在だが、昔に比べると周囲に高層ビルが林立しているので、ビルに囲まれた教会みたいな印象がある。昔は、高台にこの寺院だけがあるようだったのでランドマーク的な部分もあったのだと思う。

 自分の感覚としてはいつもの見慣れた風景の一つという感じであるが、改めて見てみるとと、なかなか荘厳な建物だ。ウィキペディアの記述によればビザンチン様式の教会だという。今は多分コロナの関係だと思うが拝観は中止されているので確認できないけど、多分内部は集中方式なのではと想像する。いずれ機会があれば内部も見てみたいものだと思う。

 ニコライ堂を右手に見て本郷通りを下る。昔、この坂を自転車の後ろに配達カゴを載せて登ったものだというようなことを、日販の社員だった方が話していたような記憶がある。多分、昭和30年代のことだと思う。

 駿河台の交差点をさらに下り小川町交差点の手前あたりで右に入って駿河台下方面の方に向かう。ごちゃごちゃとしたあたりを歩いていくとなんとも懐かしい通りが現れてくる。住所的には小川町近辺ということになるのか。ぐるりと回ってみると右手に八木書店や小川町郵便局があり左手に白水社がある。その前の細い路地を入ると、かっての鈴木書店の社屋がそのまま残っていてびっくりした

 鈴木書店は人文社会科学系の専門取次店で、大書店や大学生協と取引していた。岩波や有斐閣東大出版会などの堅い専門書を中心に取り扱い、迅速で丁寧な配送を売りにしていたと記憶している。

 専門書系の出版社は仕入れ正味も高く、それでいて大書店や生協には統一正味で取引していたので、逆ザヤとまでいかないにしても、かなり利幅が低く、さらに迅速な出荷のために人手をかけるため、売上や利益の割には従業員も多く、長年赤字経営が続いていた。確か2001年に破綻したはずだ。

 この狭い路地に面した社屋には、1階に販売部の一部、2階には仕入部、3階に経理部があった。取引出版社は、仕入部には新刊見本を持ち寄ったり、経理部には代金の集金で訪れていた。

 まだ建物が残っているとはちょっとした驚きだが、多分面している道路が狭いので再建築にはいろいろと諸問題があるのかもしれない。鈴木書店の破綻後は、どこかの出版社が使っていたはずなのだが、見た限りは空き家のようだった。

 その裏側には鈴木書店の店売があったが、そちらは立て直してマンションができている。その前は公園になっているが、ここはたしか小川小学校があったはずだ。ネットで調べるとこんな航空写真があった。

小川小学校 /歴史写真館【大好き神田】

 1970年頃の航空写真らしいが、そこには小学校の右側に鈴木書店の社屋が映っている。

 そして明大通り靖国通りが交差する駿河台下に出る。

 神保町の顔ともいうべき三省堂神保町本店は、建て替えのために5月9日に閉店した。開店したのは1981年のこと。自分は1980年に大学を卒業して書店に勤め始めたばかりだったか。1978年に八重洲ブックセンター開店、1979年にはワンフロアとしては最大規模の紀伊國屋梅田店が開店している。当時、職場の同僚とこれからはブロックバスターのメガストアの時代になるのだろうか、などと話した記憶がある。

 あれから40年、出版業界は壊滅的な状況にある。2016年に書籍売上が雑誌売上を上回った。それまで売上の大きい雑誌の利幅で儲からない書籍を支えてきたビジネスモデルが崩れた。雑誌売上の大幅ダウンはインターネットの普及による必然だ。スマホタブレットで簡単に情報が入手できる時代に紙の情報など不要になるということだ。それから1~2年の後にはコミック市場においても、電子書籍が紙の売上を上回るようになった。

 それでもここ数年、小学館集英社講談社など大手出版社は売上、利益ともに過去最大を更新し続けている。しかし売上の中身はというと、もはや紙の商品の売り上げというよりは、彼らがもっているコンテンツを様々な形で付加価値をつけて販売するというものだ。「ドラえもん」のコミックなどもう売れるものではない。でもアニメはテレビや映画として放映される。様々な「ドラえもん」のキャラクター商品が発売されている。ディズニーと同様にアニメ・キャラクターは多くの付加価値を持っている。

 もちろんアニメ以外にも様々コンテンツ販売やコラボ商売が成立している。グッズやブランドバッグがついた添え物的に紙の雑誌のついたムックの類が、大書店やコンビニで多数販売されている。ああいったものも含めて。

 この雑記でももう何度も書いてきたと思うが、24歳で本の業界に入った自分は、その業界がほぼ壊滅的な状況に陥るのを目の当りにしながら、自分のキャリアも終えた。それを思うと、駿河台交差点からみる三省堂本店の姿はきわめて感傷的だ。

 新たな開店は2025年の予定だという。さらに大きなメガショップとして我々の前に現れるのだろうか。あの一等地に再開発されるビルである。普通に考えればほとんどのフロアをレンタルし、書店は2フロア程度になる可能性もある。これから3年の間にさらに深刻な危機が出版業界を覆うかもしれない。

 本の街神保町は、一時期は本よりもスキー用品で集客する時期もあった。バブル前後のことだ。それも過ぎ去り、本の街、学生の街、普通のビジネス街、そのへんが混在としたまま数十年が経過している。古い小さなビルや商店もまだ多いが、それも相当に老朽化してきつつある。今回の三省堂のような立て直しも続くだろう。お茶の水、神保町周辺は再開発され普通の東京のビジネス街となっていくのかもしれない。