「ゴッホと静物画」展を観た (11月24日)


 SOMPO美術館で開催されている「ゴッホ静物画ー伝統から革新へ」展を観てきた。当初、三の丸尚蔵館へ行ったのだが、事前予約でいっぱいということで急遽どこぞへということで新宿に足を向けた。三の丸尚蔵館はリニューアルされ「皇室のみやび」展を開いている。そこでは若冲の《動植綵絵》も展示されるということで、ちょっと見通しが甘かった。

 竹橋から新宿へは九段まで出て都営線となる。新宿へ出るのは久しぶりだ。できれば絵を観た後に中村屋でカレーでも食べようかと思った。一緒に行った友人も賛同してくれば。

 

 SOMPO美術館の「ゴッホ静物画」展は、ゴッホとその周辺の静物画に特化したもの。日本でのゴッホ人気は高く、毎年のように回顧展が開かれるが、静物画という切り口は目先が変わっている。静物画もゴッホの母国オランダの17世紀のものから始め、ゴッホと同時代の画家—セザンヌルノワール、モネ、ゴーギャン等、さらにヴラマンクシャガールまでと広げている。作品はクレラー=ミュラー美術館、ファン・ゴッホ美術館、ユトレヒト美術館の作品を中心に、これ以外の海外美術館からも出展される他、国内でもポーラ美術館、西洋美術館、メナード美術館などからも貸し出されている。

 

 ゴッホのバックボーンとなるフランドルやオランダの静物画について簡単におさらいをしておく。

〇 17世紀フランドル・オランダ絵画の背景

  • オランダではカルヴァン派偶像崇拝としての宗教絵画を排斥したため、教会からの絵画制作の注文が途絶えた。
  • オランダには美術のパトロンとなる王侯貴族が存在しなかった。
  • その代わりに市民層に絵画がブームとなり、富を蓄えた商品たちが絵画を購入するようになった。
  • 市民が購入するため一般家庭で飾れるような小さめな絵画が求められ、題材も身近な主題が好まれた。
  • ジャンル的には風景が、風俗画、静物画、肖像画などで、わかりやすい写実的なものが求められた。
  • 不特定多数の受容にこたえるため、肖像画家、風景画家、静物画家など。それぞれのジャンルのスペシャリストにより同じ分野の絵が繰り返された。

〇 花卉画

  • 花卉とは、観賞用に栽培する植物を意味します。観賞する部分によって、花物、葉物、実物(みもの)などに分けられる。
  • 静物画の一つに花卉画があり、珍しい植物なども収集された絵のモチーフとなった。
  • 個々の花々が精微に写生される。
  • 高価で入手困難な花々をモチーフにすることも多かった。
  • 開花時期も異なる花が混在し、それぞれの花の特徴がよくわかるよう角度も考慮されるなど、花束全体が構成されたものになっている。
  • また美的な側面とは別に博物学的な関心から描かれる場合もあった。
  • 花の静物画にキリスト教的な象徴的意味やヴァニタスの意味が込められる場合もあった。
  • 花自体の審美的な側面と宗教的象徴性という側面も兼ね備えていた。

 

 そのうえでフランスでは古典主義のもと歴史画や宗教画にもとづく人物画がサロンの上部に位置し、風景画、静物画はヒエラルキーの下部に位置していたけれど、18世紀に入り新興ブジュジョワジーの形成とともに静物画や風俗画の需要が高まりつつあった。多くの画家が静物画を描くようになったのはそうしたニーズがあってのことだったということである。

 今回の「ゴッホ静物画」展もそうした背景への一定の理解があったほうがいいかもしれない。そのうえでゴッホはじょじょに写実性から光をとりいれた印象派的アプローチをとり、さらには表現主義的な方向に向かう。今回のゴッホとその周辺の静物画の展示でも、そうした流れが理解できるようになっているように思う。

 最初はオランダ静物画の流れ、ヴァニタスなどの宗教的象徴性、そこから花卉画のような構成的表現や写実を超えた表現主義みたいな感じだろうか。

 今回は69点の出品点数でうち25点がゴッホの作品。なかなか見応えがある企画展だ。また今回は数点を除いてほとんどの作品が撮影可能となっている。たしか撮影不可のほとんどがメナード美術館のものだったように記憶している。

 以下、気になる作品をいくか。

《アイリス》

《アイリス》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1888年 油彩・キャンバス
 ファン・ゴッホ美術館

 SOMPO美術館はゴッホの《ひまわり》を所蔵しているので有名。今回の企画展でもやはり主役的存在は《ひまわり》になるのだろうけど、同じ花卉画としてはこの《アイリス》もなかなかにインパクトが強い。

青い花瓶にいけた花》

青い花瓶にいけた花》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1887年 油彩・キャンバス
 クレラー=ミュラー美術館

 背景の点描表現よりも筆触を長短を意識したような印象がある。花瓶の置かれたテーブルは斜めでやや長い筆触、それが花瓶の背景になると平行でやや短い筆触、そして上にいくほど点描化する。視覚の効果、前景の花卉との比較などかなり実験的な技法を感じさせる。一方でゴッホが筆触を自在化しているかといえば、多分それは違うのだろう。テーブルの筆触は明らかにセザンヌの影響。背景の点描は1986年の印象派展で台頭したスーラ等の影響があるのかもしれない。

《皿とタマネギのある静物

《皿とタマネギのある静物》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年 油彩・キャンバス 
クレラー=ミュラー美術館

 これも明らかにセザンヌの影響があるかもしれない。パースのゆがみや後景の容器などは強調された意図的なもの。色彩豊かなセザンヌ、みたいな雰囲気がある。

 

《三冊の小説》

《三冊の小説》  フィンセント・ファン・ゴッホ 1887年 油彩・板
 ファン・ゴッホ美術館

 

《髑髏》

《髑髏》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1887年 油彩・キャンバス
 ファン・ゴッホ美術館所蔵

 頭蓋骨を題材しているという点でいえば、静物画の伝統的なテーマであるメメント・モリ、ヴァニタス的なものかもしれないが、この作品に習作というよりもゴッホの色彩への関心、あるいは表現主義的な指向性も現れてきているような気がする。

 

《こうもり》

《コウモリ》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1884年 油彩・キャンバス
クレラー=ミュラー美術館所蔵

 どこかユーモラスな感じがする。この絵に限っていえば、ゴッホはデッサン力についてやや微妙。ヘタウマ的な印象を感じたりもする。

 

《ヴィーナスのトルソ》

《ヴィーナスのトルソ》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1887-1888年 油彩・厚紙
 ファン・ゴッホ美術館
《陶器の鉢と洋ナシのある静物》 

《陶器の鉢と洋ナシのある静物》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1885年
  油彩・キャンバス  ユトレヒト中央美術館所蔵
《野菜と果物のある静物

 《野菜と果物のある静物》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1884年 油彩・キャンバス
 ファン・ゴッホ美術館所蔵

 《陶器の鉢と洋ナシのある静物》、《野菜と果物のある静物》、いずれもオランダ絵画的なくすんだ色調の写実的な作品。ここからじょじょにセザンヌ的な構成的な表現、そして印象主義的な色彩感覚など、ゴッホはさまざまに受容しながら独自の表現を作り出していく、そんな理解だろうか。

カーネーションをいけた花束》

カーネーションをいけた花束》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1886年
 油彩・キャンバス アムステルダム市立美術館

 少しずつ散った花びらを描く。それはどこかヴァニタスめいた部分もあるような。花卉画において散った花にはそういう意味性があったと今更に気がついたりして。ゴッホが盛期のひまわりだけでなく、やや枯れたのも描いているのはそういうことかと、なんか本当に今更ながらに得心したりする。

 

《花瓶の花》 

《花瓶の花》 ウジェーヌ・ドラクロワ 1833年 油彩・キャンバス
 スコットランド・ナショナル・ギャラリー所蔵 
《花と果物、ワイン容れのある静物

《花と果物、ワイン容れのある静物》 アンリ・ファンタン=ラトゥール 1865年
油彩・キャンバス 国立西洋美術館 

 この絵は以前、西洋美術館で観ている。そのときには妻のヴィクトリア・デュプールの作品が並んで展示してあった。花の表現などはかなり近似しているので、デュプールはラトゥールの影響でそうした絵を描いていたのかもしれない。というかデュプールは夫の助手をしていたらしいので、この絵にもデュプールの筆が入っているかもしれない。

《花瓶の花》

《花瓶の花》 アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ 1875年 油彩・板 
クレラー=ミュラー美術館

 ゴッホが影響を受けたという厚塗りのモンティセリ。ゴッホの回顧展ではよく展示されることが多い画家だ。逆にそれ以外ではあまり観ることがない。調べるとバルビゾン派のディアズ・ド・ラ・ペーニャの一緒に絵を描いていた時期もあるとのこと。いわれれみるとやや濃い目の色調はディアズにもあるような気がする。相互に影響しあっていたということだろうか。

 またモンティセリはセザンヌとも仲が良かったとも。たしか三菱一号館美術館で開かれたイスラエル博物館所蔵「印象派・光の系譜」展に、セザンヌの初期の風景画が出品されていて、それがけっこうな厚塗りだったのを覚えている。たしかキャプションにモンティセリの影響みたいなことが記されていたような気もする。ゴッホだけでなくセザンヌにも影響があったのかなどと思った記憶もあるようなないような。画家の作風には様々な交流と、表現についての相互の影響ってあるということだ、

 

《花瓶と花》

《花瓶と花》 ピーテル・ファン・デ・フェンネ 1655年 油彩・キャンバス
 グリドホール・アート・ギャラリー(ロンドン) 

 

 ガラス器の中の花軸部分、ガラスに映る室内の窓などの細密描写。これが17世紀中頃というのに驚く。おおよそ370年前にこんな表現描写が達成されていたことに感心する。こうした表現を18世紀後半にイギリスでターナーがしきりに追求していたことを夏に国立新美術館で観た「テート美術館展」で知った。ターナーは室内の小さな鉄球に映り込む窓や光による湾曲などを研究して盛んにデッサンしていた。それを200年近い以前に実現しているところに、オランダ絵画の技術的水準の高さを改めて思う。

 ピーテル・ファン・デ・フェンネについては生年を含めてあまり知られていない。寓意画、風刺画で有名なアドリアン・ファン・デ・フェンネとの関係性についても、兄弟という指摘もされているようだけど確証されてはいないようだ。

Pieter van de Venne - Wikipedia (閲覧:2023年11月30日)

アドリアン・ファン・デ・フェンネ - Wikipedia (閲覧:2023年11月30日)

《「ひまわり」の横で本を読む女性》

《「ひまわり」の横で本を読む女性》 イサーク・イスラエルス 1915-20年 
油彩・キャンバス ファン・ゴッホ美術館

 イサーク・イスラエスルはオランダの印象派の画家。本作はイスラエルスがゴッホの弟テオの妻ヨハンナからゴッホの《ひまわり》を借りて描き込んだもの。ゴッホの影響を示す一例と。この企画展ではこのような「ひまわり」をモチーフにしたいくつかの作品が展示してあった。

《太陽と月と花》

《太陽と月と花》 ジョージ・ダンロップレスリー 1889年 油彩・キャンバス
 ギルドホール・アート・ギャラリー(ロンドン)

 これもひまわりがモチーフにあるということで展示されていた作品。ジョージ・ダンロップレスリーは初めて目にする画家。19世紀から20世紀にかけてイギリス・アカデミーで活躍した人。当初はラファエル前派の影響を受けたようだが、じょじょに写実的な風俗画を多数描いているという。作品の多くはなんとなくブーグローを思わせるものが多いが、この絵はというとどこか印象派の女流画家のような趣がある。

東近美-所蔵作品展 (11月16日)

 東近美の常設展示は9月20日から12月3日まで。9月の末に一度行っているので展示作品はほとんどが同じ。4階のハイライトも安田靫彦《居醒泉(いさめのいずみ)》、川端龍子《草炎》など。

 ハイライト右側の突き当り部分最近ずっと原田直次郎の《騎龍観音》。重要文化財護国寺所有で東近美に寄託されている作品。個人的には原田直次郎というと藝大所蔵の《靴屋の親爺》の方が気に入っている。まああれはドイツ留学時の習作的であり、《騎龍観音》は帰国後、日本的な題材をテーマにした洋画の達成点みたいな位置づけなんだろうとは思う。ただこの龍がどうにもちょっとマンガチックで弱弱しい。

 毎年、年賀状の絵柄は干支に合わせた名画を使っている。いちおうこの作品も候補ではあるのだけど・・・・・・。

 

 

 ハイライトの逆側は東近美所蔵の洋画の名画が期間ごとに展示替えされている。今回の展示作品の並び、セザンヌ、ブラック、萬鉄五郎はちょっと気にいている。形態重視のセザンヌからキュビスムのブラック、そしてキュビスムの日本での初期の受容としての萬鉄五郎である。

 

 

 4階2室は菊池契月の《供灯》。契月作品の中でも気にっている作品。左隻は平重盛像は、平安末期から鎌倉時代に登場した写実性、記録性を重視した似絵のパターンである。その代表は神護寺肖像画三作であり、この描写法が近代の日本画での武者絵はだいたい踏襲されている。

 

 同じく4階4室はだいたいいつも版画の小品が展示されている。今回は棟方志功の企画展にちなんだ作品が多く展示されていたようだ。棟方志功が作品を観て版画に転向したという川上澄生の作品も。

 

 《南蛮船図》 川上澄生 1940年 木版・手彩色

 

 3階の日本画コーナーも前回と同じ。田口善国の蒔絵と田口に日本画を手ほどきしたという奥村土牛作品がいくつか。ここでは土牛のマチエールなんかを。

 

 

 さらに10室奥では、これも多分文人画というよりもどこか棟方志功作品との類似的な雰囲気ということでからか富岡鉄斎作品が展示してある。そのマチエールを確認するというか、拡大してみてみるとなんとなく鉄斎画の凄みというか素晴らしさが感じられる。

 

 

 さらに6室では東山魁夷作品でコーナー化がなされている。この絵の緑は中国古代の青銅器の鈍い緑色をヒントにしているとか。東山魁夷は深いなと改めて。

 

 

 

東近美- 棟方志功展 (11月16日)

 東近美に来たのは「棟方志功展-メイキング・オブ・ムナカタ」を観るため。

生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ - 東京国立近代美術館

(閲覧:2023年11月21日)

  今はどうか判らないけれど、自分のようなロートルからすると棟方志功はある意味一番よく知られている芸術家、版画家という感じがしていた。中学とか高校くらいの頃でも棟方志功の名前は多分知っていたような気がする。なんなら当時的にいえば特に美術、芸術とかに興味のない人でも、棟方志功岡本太郎の名前とかは知っていたかもしれしれない。そのくらい新聞やテレビでよく取り上げられていた。

 今、よく知られている現代美術家というと、例えば奈良美智村上隆なんかが有名だけど、それ以上に棟方志功知名度があったかもしれない。今的にいえば草間彌生あたりと同じくらいの知名度か。まあ草間彌生は例のルイ・ヴィトンのCMとかの影響もあるのだろうか。

 子どもの頃の棟方志功の印象というか、記憶的にいうと高尚な芸術家というよりも、なんか面白いというか風変りなおっさんがやけにでかい版画をやっているという感じだったか。

 それでは作品についてはどうかというと、これがまた驚くほど観ていないような気がする。なんとなく万葉調、やまと絵的とかデフォルトされた仏教画的なもの、そしてやけにでかい作品というイメージくらいか。まとまって作品を観たのはというと、大原美術館の工芸・東洋館に棟方志功の一室が棟方志功展示室になっていて、そこで観たことくらいだろうか。とはいえ時間の都合もあり、割と流してみたような感じだったか。

 

 今回の企画展は展示作品約100点、他に挿画本が約100点、資料約40点にのぼる大規模回顧展である。すでに富山、青森という志功所縁の県美で巡回してきており、その最後に東京に回ってきたものだ。

 しかし改めてこの企画展を観ていると、自分は驚くほど棟方志功について知らなかったことに気づいた。そのうえで今回の作品の量、質には圧倒されてしまい、きちんと受容しきれないままという感じだった。そのうえでとにかく展示作品を一生懸命観た、ただひたすら観たという感じ。できればもう一度くらいは行きたいと思いつつも、どうにも時間が許すかどうか。

 また棟方志功ゴッホなどの洋画に触れ洋画を目指していたこと。川上澄生の版画に触れてから版画家に転向したこと、画業の途中で柳宗悦河合寛次郎らの知遇を得て、民芸運動に参加したこと、また多くのベストセラー作品の表紙絵や挿絵なども手掛けていたことも知った。

 特に表紙絵や装丁においては、谷崎潤一郎山崎豊子松本清張柴田錬三郎、獅子文禄などの作品を手掛けていて、志功が売れっ子画家だったことがわかるものだった。1950年代後半から1960年代にかけては出版業界は活況を呈していた時期でもあり、そこでベストセラー作家の作品の装丁や挿絵を手掛けるということは、そのまま棟方志功が当時売れっ子画家だったことを示してもいるということだ。

 またその技法においても、版木を10数枚使った大画面作品も多数ある。また版画の彩色方法についても、初期には版画に後から彩色していたが、途中からは単色の版画に裏彩色を加える方法をとるようになったという。

 日本画で裏彩色というと一般的には画材は絹を使い、裏彩色と表からの彩色で繊細かつ複雑な色合いを表現するものだ。これを紙でかつ版画に行うというのはどうか。利点としては表から彩色によって版画の線を消すことなく彩色ができるということがあるのだろうと思う。しかし薄い画材を使った場合はシワや破れなどもあるだろうし、色の滲みなどもある。どんな紙を使っていたのだろうかなどちょっと興味を感じた。今回は図録を購入していないので、なんともいえないがそのへんも解説されていたのだろうか。

 今回の企画展は棟方志功生誕120年と冠している。とはいえ1975年に亡くなっているので、没後すでに50年近くが経過している。戦後の売れっ子画家とはいえ、すでに美術史上の版画家の一人ということになっている部分もある。そういう意味では今回の回顧展は、現代において棟方志功再発見みたいな意味あいもあるのかもしれない。

 

 今回の企画展はほとんどの作品が撮影可能である。ウィークデイの午後とはいえそこそこに人も多かったが、そんな中でも気になった作品をいくつか撮影した。作品名、制作年などはきちんと確認していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インド細密画を観る (11月5日)

 府中市美術館で開かれている「インド細密画展」を観た。

インド細密画 - はじめましてインド 宮廷絵画130点との対話 

(閲覧:2023年11月8日)

 前から気になっていた展覧会だ。会期は11月26日までなので、早目に行かなくてはとも思ってはいたのだが、なんとなく行きそびれていた。いざ行ってみるとこの展覧会でも前期展示、後期展示がいくつかあるようで見逃した作品もあった。まあ残念ではあるけど、そういうものかもしれない。

 インド細密画は16世紀後半頃から19世紀後半頃までインド各地の宮廷で描かれたもので、イスラーム教国のムガル帝国で描かれたムガル絵画とヒンドゥー教を信仰する複数の国々で描かれたラージプト絵画に大別される。色彩の鮮やかさ、華やかさ、そして線描の細かな表現などはラージプト絵画の方が優れた印象がある。

 いずれの絵画も一辺20cm足らずの小さい画面だ。それは西洋画や日本画のように壁に飾って鑑賞するものではなく、手にとって一人で楽しむための絵だったからといわれている。手元に置いて楽しむ、なんとなく鏑木清方の卓上芸術を連想させる。

 細密画というジャンルという点でいえばミニアチュールとの関連がありそうだが、いわゆる西洋画のミニアチュール、中世教会での写本に描かれた挿画のそれとは大きく異なっている。同じミニアチュールでもイスラム美術、ベルシア美術の関連は多分多くの人が指摘しているだろう。インド細密画はおそらくペルシア美術が伝播したものと考えるのが一般的だろうか。

 またインド細密画においては画家の存在感がない。今回出品された作品でも画家が同定されているものは多分一点もない。個々の作品や製本されたものの挿画についても、画家の名はほとんど記されていない。これはインドという厳しい身分社会との関係性があるようだ。画家は社会的地位が低く、ヒンドゥー教においては最下層のシュードラ(奴隷民)に属していたため名前が残らなかったということだ。いわば無名の奴隷民の中の職人によって描かれたものといえる。そういう意味では、インド細密画は芸術品というよりもある種の工芸品という位置づけのほうがあたっているのかもしれない。

 でも、芸術性、芸術ってなんなんだろう。そして芸術品と工芸品の差は・・・・・・。

 画家、製作者の個性なりオリジナリティに立脚しないインド細密画は、没個性で表現も装飾性とともに類型的といえるかもしれない。実際観ていても、どれも同じような顔、ポーズ、表現である。類型性と装飾性がキーになりそうだ。その分、細密とされる線と鮮やかな色彩には目を見張るものがある。

 インドは絵具の材料となる鉱石や植物が豊富で、古くから絵具の名産地だったようだ。藍銅鉱(アズライト)、群青色の孔雀石(マラカイト)、赤い酸化鉄(インディアンレッド)など質の高い顔料が産出している。インドの顔料や絵具は古代から中国や古代ギリシア・ローマに伝えられており、近世以降のヨーロッパにも盛んに輸出された。そのためインド細密画は驚くほどに鮮やかな色彩に満ちている。

 なお、今回出品された作品の多くは僧侶にして日本画家、さらにインド美術の研究家でもある畠中光享氏のコレクションによるという。

畠中光享 - Wikipedia (閲覧:2023年11月8日)

畠中光享 作家紹介 | 薔薇画廊 (閲覧:2023年11月8日)

 

 それでは気になった作品を幾つか。

 

《宮廷婦人の肖像》 ムガル絵画 紙、着彩 14.6✕8.0 17世紀中期・後期

 

《流れの側に座す女》 ムガル絵画 紙、着彩 26.3✕17.2 1880年

 

《ヴィシュヌとラクシュミー》 ラージプト絵画 紙、着彩 17.6✕11.3 19世紀中期

 

《王の肖像》 ラージプト絵画 紙、着彩 17.2✕10.2 1700年頃

 この鮮やかな黄色は、「インディアン・イエロー」という呼び名で16世紀末頃からヨーロッパに盛んに輸出されたものだという。発色がよく退色がしない黄色絵具としてバロック期の画家に珍重され、レンブラントフェルメールも愛用した。

 ただしその製作工程はというと、この「インディアン・イエロー」は牛の尿を原料としている。若い牝牛に水とマンゴーの若葉だけを食べさせると、尿は鮮やかな黄色になる。その尿を集めて煮詰め、底に沈殿した物を乾燥させたものだという。牛を聖なる動物とするインドならではの製造法といえるかもしれない。

 この作品のイエローも牛の尿が材料と知って改めて観てみると、どことなく微妙な面持ちもしないでもない。

 

《宮廷のクリシュナ》 ムガル絵画 紙、着彩 28.7✕18.0 1770-80年

 インド細密画は基本的には空間表現がなく平面的な表現だ。その中でこの作品は珍しく奥行がある。とはいえ透視図的な遠近法ではなく斜投象的でどこか日本のやまと絵のような吹抜屋台風でもある。でも屋上のそれと人物たちのいる空間は見事に歪んでいる。空間性はあまり意識されてもいないし、観る者も特段重要視していないようだ。

 

《楽器を持つ女》 ラージプト絵画 紙、着彩 16..6×10.5 1760年頃

 背景の丘だか山、遠くに飛び跳ねる鹿だかレイヨウだか。そして人物のすぐ後ろの草花の表現。どこかプリミティブな、なんていうかアンリ・ルソー岡鹿之助を想起するような表現でもある。

特別展「やまと絵 受け継がれる王朝の美」リスト

 とりあえず展示期間のおさらいのために作成した。

 出来れば会期中にもう一度くらいは行きたいものだけど、展示期間と作品をピンポイントで狙っていくというのはちょっと難しいかもしれない。

 

  指定 作品名 作者など 頁数 時代世紀 所蔵 展示期間
1 国宝   聖徳太子絵伝   第一面~第六面 秦致貞筆 6面 平安時代(1069) 東京国立博物館 10/11-12/3
2 国宝 山水屛風   6曲1隻 鎌倉時代 13世紀 京都・神護寺 10/11-11/5
3 国宝 山水屛風   6曲1隻 平安時代 11世紀 京都国立博物館 10/11-11/5
4 重文 高野山水屛風   6曲1双 鎌倉時代 13~14世紀 京都国立博物館 11/7-12/3
5 重文 山水屛風   6曲1隻 鎌倉時代 14世紀 京都・醍醐寺 11/7-12/3
6   山水屛風   6曲1隻 室町時代 15世紀 東京・大東急記念文 10/11-11/5
7 国宝 日月四季山水図屛風   6曲1双 室町時代 15世紀 大阪・金剛寺 11/7-12/3
8 重文 四季花鳥図屛風 雪舟等楊筆 6曲1双 室町時代 15世紀 京都国立博物館 11/7-12/3
9 重文 浜松図屛風   6曲1双 室町時代 15世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
10 重文 四季山水図屛風 伝周文筆 6曲1双 室町時代 15世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
11   権記(伏見宮本)   1巻 鎌倉時代 13世紀写 宮内庁書陵部  
12 国宝 御堂関白記
長保元年下巻、寛仁二年上巻
藤原道長 2巻 平安時代 長保元年(999)、寛仁2年(1018) 京都・陽明文庫 10/11-12/3
13 国宝 栄花物語 巻第六   1帖 鎌倉時代 13世紀写 九州国立博物館 10/11-11/5
14   小右記(寛仁元年十二月四日条、寛仁二年正月二十一日条)   2冊 江戸時代 17世紀写 国立公文書館 11/7-12/3
15   屛風詩歌切 藤原行成 1幅 平安時代 11世紀   11/7-12/3
16   屛風詩歌切 藤原行成 1幅 平安時代 11世紀   10/11-11/5
17   葦手歌切 藤原公任 1幅 平安時代 11世紀 愛知・徳川美術館 11/21-12/3
18   葦手歌切 藤原公任 1幅 平安時代 11世紀 東京国立博物館 10/11-11/19
19 重文 法華経冊子   1冊 平安時代 11世紀 京都国立博物館 11/7-12/3
20 重文 観普賢経冊子   1帖 平安時代 11世紀 東京・五島美術館 10/11-11/5
21 国宝 葦手下絵和漢朗詠集 藤原伊行 2巻 平安時代永暦元年(1160) 京都国立博物館 10/11-12/3
22 重文 宝篋印陀羅尼経   1巻 平安時代 嘉応2年(1170)頃 大阪・金剛寺 10/11-11/5
23   葦手下絵消息往来 藤原忠通 1巻 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
24 重文 雑伎彩絵唐櫃   1合 平安時代 9~10世紀 静岡・MOA 美術館  
25 国宝 蒔絵箏(本宮御料古神宝類のうち)   1張 平安時代 12世紀 奈良・春日大社 10/11-11/5
26 国宝 片輪車蒔絵螺鈿手箱   1合 平安時代 12世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
27 重文 蓬萊山蒔絵袈裟箱   1合 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
28 国宝 彩絵檜扇(古神宝類のうち)   3握 平安時代 12世紀 広島・嚴島神社 11/7-12/3
29 重文 伝久我通親筆 1柄 平安時代 12世紀 広島・嚴島神社 10/11-11/5
30 重文 車図   1巻 鎌倉~南北朝時代 13~14世紀 京都・陽明文庫 10/11-11/5
31 国宝 古今和歌集巻第十二残巻(本阿弥切)   1巻 平安時代 11~12世紀 京都国立博物館 10/11-11/5
32   古今和歌集(本阿弥切)     平安時代 11~12世紀   10/11-10/22
33 国宝 古今和歌集(元永本)下帖   1帖 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
34 国宝 古今和歌集序(巻子本) 藤原定実 1巻 平安時代 12世紀 東京・大倉集古館 10/11-10/22
35 重文 古今和歌集巻第十三残巻(巻子本) 藤原定実 1巻 平安時代 12世紀 文化庁 10/24-11/5
36 国宝 和漢朗詠集巻下(太田切 藤原公任 1巻 平安時代 11世紀 東京・静嘉堂文庫美術館 11/7-12/3
37 重文 和漢朗詠集巻下(益田本) 藤原公任 1巻 平安時代 11世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
38 重文 和漢朗詠集巻下断簡 藤原定信 1幅 平安時代 12世紀 京都国立博物館 11/21-12-3
39   和漢朗詠集(安宅切)・詩書切 藤原行成筆・藤原定信 1巻 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
40 重文 貫之集下(石山切)   1幅 平安時代 12世紀 大阪・和泉市久保惣記念美術館 11/21-12/3
41   貫之集下(石山切)   1幅 平安時代 12世紀 京都・泉屋博古館 10/24-11/19
42   伊勢集(石山切)   1幅 平安時代 12世紀 埼玉・遠山記念館 10/24-11/19
43   伊勢集(石山切)   1幅 平安時代 12世紀   10/11-10/22
44 国宝 扇面法華経冊子巻第七、観普賢経   2帖 平安時代 12世紀 大阪・四天王寺 10/11-11/5
45 国宝 扇面法華経冊子巻第八   1帖 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
46   久能寺経
薬草喩品第五、随喜功徳品第十八
  2巻 平安時代 12世紀   薬草五 11/7-11-19
隋喜大 11/7-12/3
47   平家納経 分別功徳品 第十七、薬王菩薩本事品 第二十三   2巻 平安時代 長寛2年
(1164)奉納
広島・嚴島神社 分別 10/11-10/22
薬王 11/7-12/3
48 国宝 一字蓮台法華経   1巻 平安時代 12世紀 奈良・大和文華館 10/11-11/5
49 重文 法華経 普門品   1巻 平安時代 12世紀 京都国立博物館 10/24-11/5
50 重文 法華経 普門品   1巻 平安時代 12世紀 愛知・徳川美術館 11/21-12/3
51 重文 法華経 方便品   1巻 平安時代 12世紀 大阪・和泉市久保惣記念美術館 11/7-11/19
52 重文 阿字義   1巻 平安~鎌倉時代
12~13世紀
大阪・藤田美術館 10/11-10/22
53 国宝 慈光寺経 妙荘厳王本事品第二十七   1巻 鎌倉時代 13世紀 埼玉・慈光寺 11/7-12/3
54 国宝 源氏物語絵巻 関屋・絵合・柏木二・横笛   3巻 平安時代 12世紀 愛知・徳川美術館 10/11-11/19
55 国宝 源氏物語絵巻夕霧   3面 平安時代 12世紀 東京・五島美術館 11/21-12/3
56   源氏物語絵巻断簡 若紫   1幅 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
57   源氏物語絵巻詞書 末摘花、常夏、柏木一   3葉 平安時代 12世紀 東京・春敬記念書道文庫 11/7-12/3
58   源氏物語絵巻詞書 松風   1幅 平安時代 12世紀 東京・春敬記念書道文庫 10/11-11/5
59 国宝 寝覚物語絵巻   1巻 平安時代 12世紀 奈良・大和文華館 11/7-11/19
60 重文 葉月物語絵巻第一段、第五段   4面 平安時代 12世紀 愛知・徳川美術館 11/7-12/3
61 国宝 目無経(白描絵料紙金光明経巻第三)   1巻 平安時代 建久3年(1192) 京都国立博物館 11/21-12/3
62 国宝 信貴山縁起絵巻
飛倉巻、延喜加持巻、尼公巻
  3巻 平安時代 12世紀 奈良・朝護孫子寺 飛倉 10/11-11/5
延喜  11/7-11/19
63 国宝 伴大納言絵巻 巻上 常磐光長筆 1巻 平安時代 12世紀 東京・出光美術館 10/11-10/22
64 国宝 粉河寺縁起絵巻   1巻 平安時代 12世紀 和歌山・粉河 10/24-11/5
65 重文 華厳五十五所絵巻断簡   再見文殊菩薩普賢菩薩   2幅 平安時代 12世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
66 国宝 地獄草紙   1巻 平安時代 12世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
67 国宝 地獄草紙   1巻 平安時代 12世紀 奈良国立博物館 11/7-12/3
68 重文 沙門地獄草紙 火象地獄   1幅 平安時代 12世紀 東京・五島美術館 10/11-11/5
69 重文 沙門地獄草紙 沸屎地獄   1幅 平安時代 12世紀 奈良国立博物館 11/7-12/3
70 重文 地獄草紙 勘当の鬼   1幅 平安時代 12世紀 福岡市美術館 10/11-11/5
71 国宝 辟邪絵神虫、毘沙門天   2幅 平安時代 12世紀 奈良国立博物館 10/11-12/3
72 国宝 餓鬼草紙   1巻 平安時代 12世紀 京都国立博物館 10/11-11/5
73 国宝 餓鬼草紙   1巻 平安時代 12世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
74 国宝 病草紙眼病治療、霍乱の女、風病の男、ふたなり   4巻 平安時代 12世紀 京都国立博物館 10/11-12/3
75 重文 病草紙 不眠の女   1幅 平安時代 12世紀 東京・サントリー美術館 10/11-11/5
76 重文 病草紙 肥満の女   1幅 平安時代 12世紀 福岡市美術館 11/7-12/3
77 重文   病草紙屎を吐く男、痣のある女、せむしの乞食法師、侏儒   3幅1枚 平安時代 12世紀 九州国立博物館 10/11-12/3
78 重文   病草紙 背骨の曲がった男   1枚 平安時代 12世紀 文化庁 11/7-12/3
79 国宝  鳥獣戯画甲巻、乙巻、丙巻、丁巻   4巻 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 甲巻 10/11-10/22
乙巻 10/24-11/5
79 国宝  鳥獣戯画甲巻、乙巻、丙巻、丁巻   4巻 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 丙巻 11/7-11/19
丁巻 11/21-12/3
80 重文   鳥獣戯画断簡   1幅 平安時代 12世紀 東京国立博物館 10/24-12/3
81   玉葉九条家本)   1冊 鎌倉時代 13世紀写 宮内庁書陵部 10/11-12/3
82 重文 後白河天皇   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・妙法院 11/21-12-3
83 国宝 後鳥羽天皇 藤原信実 1幅 鎌倉時代 13世紀 大阪・水無瀬神宮 11/7-11/19
84 重文 後宇多天皇   1幅 鎌倉時代 14世紀 京都・大覚寺 11/7-12/3
85 国宝 花園天皇 豪信筆 1幅 南北朝時代暦応元年(1338) 京都・長福寺 11/7-12/3
86 国宝 明恵上人像(樹上坐禅像)   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 11/7-12/3
87 重文 近衞兼経像   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 10/11-11/5
88 国宝 随身庭騎絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京・大倉集古館 11/7-12/3
89 重文 公家列影図   1巻 鎌倉時代 13世紀 京都国立博物館 10/11-11/5
90   天子摂関御影 摂関巻 豪信筆 1巻 鎌倉~南北朝時代 14世紀 国(皇居三の丸尚蔵館収蔵) 11/7-12/3
91 国宝 源頼朝   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・神護寺 10/24-11/5
92 国宝 平重盛   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・神護寺 10/24-11/5
93 国宝 藤原光能   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・神護寺 10/24-11/5
94 重文 若狭国鎮守神人絵系図   1巻 鎌倉時代 13世紀 京都国立博物館 10/11-11/5
95 重文 僧形八幡神影向図   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・仁和寺 11/7-12/3
96   柿本人麻呂   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
97   時代不同歌合絵(白描上畳本)良暹   1幅 鎌倉時代 13世紀   10/11-11/5
98   時代不同歌合絵大中臣能宣・祝部成仲   1幅 鎌倉時代 14世紀   11/7-12/3
99 重文 佐竹本三十六歌仙小大君   1幅 鎌倉時代 13世紀 奈良・大和文華館 10/11-11/5
100 重文 佐竹本三十六歌仙小野小町   1幅 鎌倉時代 13世紀   10/11-11/5
101 重文 佐竹本三十六歌仙藤原高光   1幅 鎌倉時代 13世紀 大阪・逸翁美術館 11/7-12/3
102 重文 佐竹本三十六歌仙絵壬生忠峯   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
103 重文 佐竹本三十六歌仙大中臣頼基   1幅 鎌倉時代 13世紀 埼玉・遠山記念館 11/7-12/3
104 重文 佐竹本三十六歌仙源信明   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・泉屋博古館 10/11-10/22
105 重文 上畳本三十六歌仙藤原兼輔   1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・泉屋博古館 11/7-12/3
106 重文 上畳本三十六歌仙小大君   1幅 鎌倉時代 13世紀   10/11-11/5
107 重文 上畳本三十六歌仙紀貫之   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京・五島美術館 11/7-12/3
108   最勝四天王院障子和歌   1冊 江戸時代 17世紀写 宮内庁書陵部  
109   詠草「泊瀬山」 藤原定家 1幅 鎌倉時代 13世紀 京都・陽明文庫 10/11-11/5
110   鏡山図   1幅 鎌倉時代 13~14世紀 東京・根津美術館 11/7-12/3
111   草花図   1幅 鎌倉時代 13~14世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
112 重文 西行物語絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 愛知・徳川美術館 11/7-12/3
113 重文 西行物語絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 文化庁 10/11-11/5
114 重文 伊勢新名所絵歌合   1巻 鎌倉時代 永仁3年(1295)頃 三重・神宮徴古館 10/11-11/5
115 重文 男衾三郎絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
116 重文 住吉物語絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
117 重文 佐竹本三十六歌仙絵住吉大明神   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
118 重文 住江蒔絵手箱   1合 鎌倉時代 安貞2年(1228) 栃木・輪王寺 11/7-12/3
119 重文 住吉蒔絵唐櫃   1合 南北朝時代 正平12年(1357) 東京国立博物館  
120 重文 山水人物蒔絵手箱   1合 鎌倉時代 14世紀 静岡・MOA 美術館 10/11-11/5
121 国宝 一遍聖絵巻第九、巻第十 法眼円伊筆 2巻 鎌倉時代正安元年(1299) 神奈川・清浄光寺遊行寺 10/11-12/3
122 重文 遊行上人縁起絵巻   1巻 鎌倉時代 14世紀 長野・金台寺 11/7-12/3
123 重文 親鸞聖人伝絵巻巻第三   1巻 南北朝時代 康永3年(1344) 千葉・照願寺 10/11-11/5
124 国宝 那智瀧図   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京・根津美術館 11/21-12-3
125 重文 春日宮曼荼羅   1幅 鎌倉時代 13世紀 奈良・南市町自治 10/24-11-19
126   春日宮曼荼羅   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-10/22
127   石清水八幡宮曼荼羅   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京・根津美術館 10/11-11/5
128 重文 柿本宮曼荼羅   1幅 鎌倉時代 13世紀 奈良・大和文華館 11/7-12/3
129 重文 日吉山王本地仏曼荼羅   1幅 鎌倉時代 14世紀 東京・霊雲寺 10/11-11/5
130 重文 虚空蔵菩薩   1幅 鎌倉時代 14世紀 東京国立博物館  
131 重文 如意輪観音   1幅 鎌倉時代 14世紀 奈良国立博物館 11/7-12/3
132 重文 山崎架橋図   1幅 鎌倉時代 13~14世紀 大阪・和泉市久保惣記念美術 11/21-12-3
133 重文 紫式部日記絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀   10/11-11/5
134 重文 紫式部日記絵巻断簡   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館  
135 重文 住吉物語絵巻断簡   2幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/24-11-19
136 重文 住吉物語絵巻断簡   1幅 鎌倉時代 14世紀   10/11-10/22
137 重文 貴紳邸宅図(伊勢物語図)   1幅 鎌倉時代 13世紀   11/21-12-3
138 重文 伊勢物語絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 大阪・和泉市久保惣記念美術 11/7-12/3
139 重文 小野雪見御幸絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京藝術大学 11/7-12/3
140 重文 なよ竹物語絵巻   1巻 鎌倉時代 14世紀 香川・金刀比羅宮 10/11-11/5
141 重文 狭衣物語絵巻断簡   5幅 鎌倉時代 14世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
142   狭衣物語絵巻断簡   1幅 鎌倉時代 14世紀   11/7-12/3
143   伊勢物語下絵梵字   2幅 鎌倉時代 13世紀 大阪・逸翁美術館 10/11-12/3
144   伊勢物語下絵梵字   1巻 鎌倉時代 13世紀 奈良・大和文華館 11/7-12/3
145 重文 源氏物語絵詞浮舟・蜻蛉 冷泉為相 1巻 鎌倉時代 13世紀 愛知・徳川美術館 11/7-12/3
146 重文 隆房卿艶詞   1巻 鎌倉時代 13世紀 千葉・国立歴史民俗博物館 10/11-11/5
147 重文 尹大納言絵巻 詞書花山院師賢 2巻 南北朝時代 14世紀 福岡市美術館 10/11-12/3
148 重文 松浦宮物語 後光厳天皇宸筆 1帖 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
149   松浦宮物語抜書 伏見天皇宸筆 1巻 鎌倉時代 13世紀 愛知・徳川美術館 11/21-12-3
150 重文 平行政願文 世尊寺定成筆 1巻 鎌倉時代 弘安7年(1284) 東京国立博物館 11/7-12/3
151 重文 西園寺実氏夫人願文 世尊寺経尹 1巻 鎌倉時代 弘安5年(1282) 東京国立博物館 10/11-11/5
152 重文 伏見天皇宸翰願文 伏見天皇宸筆 1巻 鎌倉時代 正和5年(1316) 兵庫・黒川古文化研究所 10/11-11/5
153 国宝 梅蒔絵手箱   1合 鎌倉時代 13世紀 静岡・三嶋大社  
154 重文 秋野蒔絵手箱   1合 鎌倉時代 13~14世紀 埼玉・遠山記念館  
155 重文 高燈台   1基 鎌倉時代 13~14世紀 東京国立博物館  
156 重文 平治物語絵巻 信西   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京・静嘉堂文庫美術館 10/11-11/5
157 国宝 平治物語絵巻 六波羅行幸   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
158   平治物語絵巻断簡六波羅合戦巻   1幅(2葉) 鎌倉時代 13世紀   10/11-11/5
159 重文 前九年合戦絵巻   1巻 鎌倉時代 13世紀 千葉・国立歴史民俗博物館 11/7-12/3
160 国宝 華厳宗祖師絵伝義湘絵 巻第二   1巻 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 11/7-12/3
161 国宝 華厳宗祖師絵伝元暁絵 巻第一   1巻 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 11/7-12/3
162 国宝 一遍聖絵 巻第七 法眼円伊筆 1巻 鎌倉時代正安元年(1299) 東京国立博物館 10/11-11/5
163 国宝 法然上人絵伝巻第十、巻第十一   2巻 鎌倉時代 14世紀 京都・知恩院 10/11-12/3
164 重文 天狗草紙   1巻 鎌倉時代 13世紀 東京・根津美術館 10/11-11/5
165 重文 東北院職人歌合絵   1巻 鎌倉時代 14世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
166   駿牛図   1幅 鎌倉時代 13世紀   11/7-12/3
167 重文 駿牛図   1巻 鎌倉時代 13世紀 文化庁 10/11-11/5
168 重文 駿牛図   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
169 重文 馬医草紙   1幅 鎌倉時代 13世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
170 重文 馬医草紙   1幅 鎌倉時代 13世紀 文化庁 11/7-12/3
171 重文 馬医草紙   1巻 鎌倉時代 文永4年(1267) 東京国立博物館 11/7-12/3
172   日月図軍扇 足利尊氏花押 1握 南北朝時代 14世紀 九州国立博物館 10/11-11/5
173 重文 西塔院勧学講法則 尊円親王 1巻 南北朝時代 貞和5年(1349) 愛知・徳川美術館 10/11-11/5
174   諸徳三礼 世尊寺行尹 1巻 南北朝時代 14世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
175   散らし書き書巻 世尊寺行能筆 1巻 鎌倉~南北朝時代 14世紀   11/7-12/3
176   夜寝覚抜書 後光厳天皇宸筆 1巻 南北朝時代 14世紀 文化庁 10/11-11/5
177 重文 十界図屛風   6曲1双 南北朝時代 14世紀 奈良・當麻寺奥院 10/11-11/5
178   厩図屛風   6曲1双 室町時代 15~16世紀 国(皇居三の丸尚蔵館収蔵) 11/7-12/3
179 重文 松図屛風 伝土佐光信筆 6曲1隻 室町時代 16世紀 東京国立博物館  
180   源氏物語図扇面貼交屛風   6曲1双 室町時代 16世紀 広島・浄土寺 10/11-11/5
181   四季草花小禽図屛風   6曲1双 室町~安土桃山時代 16世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
182   扇面画帖   2 帖(72面) 室町時代 15~16世紀 九州国立博物館 10/11-12/3
183 国宝   彩絵檜扇
(阿須賀神社伝来古神宝類のうち)
  1握 南北朝時代 14世紀 京都国立博物館  
184 重文 彩絵檜扇伊号(古神宝類のうち)   1握 室町時代 15世紀 愛知・熱田神宮  
185     土蜘蛛草紙   1巻 鎌倉時代 14世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
186     後三年合戦絵巻 巻上 飛騨守惟久筆 1巻 南北朝時代 貞和3年(1347) 東京国立博物館 11/7-12/3
187     大江山絵巻巻下   1巻 南北朝時代 14世紀 大阪・逸翁美術館 10/11-11/5
188     是害房絵巻   1巻 南北朝時代 14世紀 京都・泉屋博古館 11/7-12/3
189     福富草紙   2巻 南北朝室町時代 14~15世紀 京都・春浦院 10/11-12/3
190     百鬼夜行絵巻 伝土佐光信筆 1巻 室町時代 16世紀 京都・真珠庵 10/11-12/3
191     仏鬼軍絵巻   1巻 室町時代 16世紀 京都・十念寺 10/11-11/5
192     蛙草紙   1巻 室町時代 16世紀 東京・根津美術館 11/7-12/3
193      法楽歌仙連歌懐紙   2紙 室町時代 応永30年(1423) 愛知・熱田神宮 10/11-12/3
194       賦山何連歌百韻懐紙 里村紹巴筆 1巻 室町時代永禄元年(1558) 東京国立博物館 11/7-12/3
195     大原野千句連歌懐紙第十帖 細川藤孝 1帖 室町時代 元亀2年(1571) 京都・勝持寺 10/11-11/5
196     男山蒔絵硯箱   1合 室町時代 15世紀 東京国立博物館  
197     砧蒔絵硯箱   1合 室町時代 15世紀 東京国立博物館  
198   山水屛風断簡(象を引く唐人図)   1幅 鎌倉時代 13~14世紀   10/11-11/5
199   山水屛風断簡(菊泉図)   1幅 南北朝室町時代 14~15世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
200   色紙 後花園天皇 1幅 室町時代 15世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
201   偈頌 夢窓疎石 1幅 鎌倉~南北朝時代 14世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
202 重文 駿馬図 景徐周麟賛 1幅 室町時代 15~16世紀 京都国立博物館 10/11-11/5
203 重文 神馬図 狩野元信筆 2面 室町時代 16世紀 兵庫・賀茂神社 10/11-11/5
204 重文 四季花鳥図屛風 伝土佐広周筆 6曲1双 室町時代 15世紀 東京・サントリー美術館 11/7-12/3
205   花鳥図屛風 「輞隠」印 6曲1双 室町時代 16世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
206 重文 日月松鶴図屛風   6曲1双 室町時代 16世紀 東京・三井記念美術館 10/11-11/5
207 重文 四季花鳥図屛風 狩野元信筆 6曲1双 室町時代 天文19年(1550) 兵庫・白鶴美術館 10/11-11/5
208 重文 星光寺縁起絵巻巻上 伝土佐光信筆 1巻 室町時代 15世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
209 重文 桑実寺縁起絵巻巻上、巻下 土佐光茂筆 2巻 室町時代天文元年(1532) 滋賀・桑實寺 10/11-12/3
210 重文 酒伝童子絵巻 巻上 狩野元信筆 1巻 室町時代 大永2年(1522) 東京・サントリー美術館 10/11-12/3
211   堅田図屏風 伝土佐光茂筆 2曲1隻
6曲1双
室町時代 16世紀 東京・静嘉堂文庫美術館 10/11-12/3
212 重文 禅宗祖師図(旧大仙院方丈障屏画) 狩野元信筆 6幅 室町時代 16世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
213   年中行事絵巻(住吉本)
巻第一、巻第三、巻第五、巻第六
住吉如慶他筆
原本常磐光長筆
4巻 江戸時代 寛文元年(1661)頃   10/11-12/3
214   年中行事絵巻(鷹司本)
巻第六、巻第八、巻第九、巻第十一
原本常磐光長筆 4巻 江戸時代 18~19世紀 宮内庁書陵部 10/11-12/3
215 国宝 春日権現験記絵巻 巻第二・巻第九 高階隆兼筆 2巻 鎌倉時代延慶2年(1309)頃 国(皇居三の丸尚蔵館収蔵) 10/11-12/3
216 国宝 玄奘三蔵絵巻 巻第七 高階隆兼筆 1巻 鎌倉時代 14世紀 大阪・藤田美術館 10/11-10/22
217   217  駒競行幸絵巻 伝高階隆兼筆 1巻 鎌倉時代 13~14世紀 大阪・和泉市久保惣記念美術 11/7-12/3
218   218  石山寺縁起絵巻
巻第二、巻第三
伝高階隆兼筆 2巻 鎌倉~南北朝時代 14世紀 滋賀・石山寺 10/11-12/3
219   真本八祖像 龍猛。金剛智 [龍猛]鷹司冬平賛/[金剛智]一山一寧賛 2幅 鎌倉時代(1314) 東京国立博物館 10/11-12/3
220 重文 十王図秦広王五道転輪王 伝藤原行光筆 2幅 南北朝時代 14世紀 京都・二尊院 10/11-12/3
221 重文 妙音天像 伝土佐行広筆 1幅 室町時代 応永15年(1408) 京都・仁和寺 10/11-11/5
222   山王霊験記絵巻断簡 伝六角寂済筆 1幅 室町時代 14~15世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
223 重文 融通念仏縁起絵巻 六角寂済他筆 2巻 室町時代 応永24年(1417) 京都・清凉寺 10/11-12/3
224 重文 誉田宗庿縁起絵巻巻下 粟田口隆光筆 1巻 室町時代 永享5年(1433) 大阪・誉田八幡宮 10/11-11/5
225 重文 神功皇后縁起絵巻巻下 粟田口隆光筆 1巻 室町時代 永享5年(1433) 大阪・誉田八幡宮 11/7-12/3
226   硯破草紙 伝土佐光信筆 1巻 室町時代 明応4年(1495) 京都・細見美術館 10/11-11/5
227   うたたね草紙 伝土佐光信筆 1巻 室町時代 15~16世紀 千葉・国立歴史民俗博物館 11/7-12/3
228 重文 清水寺縁起絵巻巻上 土佐光信・光茂筆 1巻 室町時代 永正14年(1517) 東京国立博物館 11/7-12/3
229 重文 當麻寺縁起絵巻巻上 土佐光茂筆 1巻 室町時代 享禄4年(1531) 奈良・當麻寺 10/11-11/5
230 重文 後円融天皇 土佐光信筆 1幅 室町時代  延徳4/ 明応元年(1492) 京都・雲龍 10/11-11/5
231 重文 足利義政 伝土佐光信筆 1幅 室町時代 15世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
232 重文 桃井直詮像 伝土佐光信筆、海闉梵覚賛 1幅 室町時代 15世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
233 重文 蜷川親元像紙形 伝土佐光信筆 1枚 室町時代 15世紀 国立公文書館 11/21-12-3
234 重文 牡丹花肖柏像 常庵龍崇賛 1幅 室町時代 大永7年(1527) 東京国立博物館 11/7-12/3
235   堅田 伝土佐光茂筆 2幅 室町時代 16世紀 東京国立博物館 10/24-12/3
236   紫式部石山詣図 土佐光元筆、三条西公条賛 1幅 室町時代 永禄3年(1560) 宮内庁書陵部 10/11-10/22
237   源氏物語図扇面 伝土佐光元筆 1握 室町時代 16世紀 東京国立博物館  
238 重文  浜松図屛風   6曲1双 室町時代 15~16世紀 東京国立博物館  
239 重文 月次風俗図屛風   8曲1隻 室町時代 16世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
240 重文 日月山水図屛風   6曲2隻 室町時代 16世紀 東京国立博物館 10/11-12/3
241 重文  浜松図屛風   6曲1双 室町時代 15~16世紀 文化庁 11/7-12/3
242     おいの坂図   1幅 室町時代 15~16世紀 東京国立博物館 10/11-11/5
243    竹生島祭礼図   1幅 室町時代 16世紀 東京国立博物館 11/7-12/3
244     吉野図屛風   6曲1隻 室町時代 16世紀 東京・サントリー美術館 11/7-12/3
245 国宝  観楓図屛風 狩野秀頼筆 6曲1隻 室町~安土桃山時代 16世紀 東京国立博物館 10/11-11/5

やまと絵-受け継がれる王朝の美 (10月26日)

 トーハクで開催されている特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美」を観てきた。

東京国立博物館 - 展示・催し物 総合文化展一覧 日本の考古・特別展(平成館) 特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」 (閲覧:2023年10月28日)

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」/2023年10月11日(水)~12月3日(日)/東京国立博物館 平成館(上野公園) (閲覧:2023年10月28日)

 SNSなどでも行った人のコメントなども「凄い」との声が多くかなり大掛かりな企画展でもある。出品リストを見ると245点のうち国宝約50数点、重文約130点というもの。そのなかでも超目玉的作品は四大絵巻(「源氏物語絵巻」、「信貴山縁起絵巻」、「伴大納言絵巻」、「鳥獣戯画」)と神護寺三像など。

 これはたぶんウィークデイでも半端なく混むだろうなと思った。まあ手術の後はわりと早起きしているので、午前中から動き出し、上野に着いたのは10時半くらい。これくらいは一般からすれば普通なんだろうけど、うちの場合だいたい動き出しが昼過ぎなもので。

 本展覧会は土日以外は期日指定はないみたいで、とくに待たずに入ることができた。でも館内はやっぱりかなりの人で列をなしている。とにかく進まない。中には単眼鏡でじっくり観る方もいらっしゃるのどの作品の前も大渋滞。思えば去年の「国宝展」も同じ頃だったかなと思い出したり。

 いつものパターンで空いている場所を選んで観たりを始めたのだが、やっぱり国宝というか教科書に載っているような作品はきちんと観たい。なので基本は列に並んでました。後ろで監視員の女性が、呪詛のようにぶつぶつと小声で「前列の方は歩きながらの観覧をお願いします」呟いているけれど、誰も応じない。まあ普通そうだろうね。

 一緒に行った妻は音声ガイドを聞きながらゆっくりと車椅子自走。自分はあちこち食い散らかすような感じで観た。なんていうか性格的にずっと並んで観るというのに慣れない。

 国宝、重文のオンパレードなので展示期間が限られている。そして展示替え、画面替えが多数ある。

展示期間

① 10月11日(水)~10月22日(日)

② 10月24日(火)~11月  5日(日)

③ 11月  7日(火)~11月19日(日)

④ 11月21日(火)~12月  3日(日)

 『鳥獣戯画』の有名な兎と蛙の相撲を取る場面は甲巻なので、すでに展示が終わっていた。ただし『信貴山縁起絵巻』の飛倉の巻の展示期間は①②10/11~11/5までだったのでラッキーでした。また一番観たいと思っていた神護寺三像は展示期間②10/24~11/5までだったのでこれも本当に幸運。この先こういうのって、いつ観ることができるかわからない。高齢者の立場からすると、ラストチャンスの可能性も高かったりもする。

 それを思うと名品、名作を鑑賞するというのは、一期一会みたいな部分があるなと思ったりもした。

 それではやまと絵とはなにか。図録冒頭の一文のなかではこう定義されている。

やまと絵は平安時代前、唐絵と呼ばれる中国由来の絵画に学びながら成立し、独自の発展を遂げてきた世俗画(仏画などの宗教画ではない絵画)のことを指す。中国を舞台とする唐絵に対し、日本の風景、風物を描く絵画のことで、後に水墨画を中心とする新しい技法、理念をもつ中国絵画、すなわち漢画がもららされると、それ以外の伝統的様式に立つ着色画を主にやまと絵と呼ぶようになる。

                           「やまと絵の静率と展開」 土屋貴裕

 なるほど中国伝来の唐絵、漢画に対するものとして日本独自な絵として生まれたということか。多分時代背景的には、遣唐使が廃止されて中国文化の渡来が乏しくなる。その中で文字文化的にはカナが生み出され、漢詩ではなく和歌が詠まれるようになる。そうした和歌に添えられる絵としてやまと絵は成立したのかもしれない。

 ただし狭義でいえば、中国絵画の影響が濃いいわゆる漢画の流れは、山水画水墨画を経て、武士権力者のための絵師集団としての狩野派が形成され連綿と続いていく。それに対して朝廷の絵師グループであった土佐派によって受け継がれていたのが、やまと絵みたいな部分もあるかもしれない。

 ただし今回の企画展ではやまと絵の範囲を思い切り広げており、狭義での漢画の流れ以外の日本的風景、人物を描いたものはすべてやまと絵というくくりであるように思えた。

 しかし明治期になって、それまで狩野派、土佐派、円山・四条派、浮世絵などの流派で呼ばれていた絵画が、「西洋画」と区別されるために「日本画」という大きなくくりのなかで呼ばれるようになった。それと同じように中国からの影響を大きく受けた「唐絵」「漢画」と区別するために「やまと絵」という総称でくくるという、そういうことなのだろう。

 なので今回の特別展で展示される作品の範囲はきわめて広い。狭義での<源氏物語絵巻>で描かれるような、没個性なキャラクター化された「引き目かぎ鼻」の人物像と、似絵による高僧や位の高い武士を描いた神護寺三像との間には、大きなひらきもあるが、これもやまと絵である。

 土佐派的な風景描写と狩野派のそれは大きく異なる部分もあるが、狩野派二代目狩野元信は土佐派と婚姻関係を結んだという伝承もあり、漢画系のなかに土佐派的な作風を取り込もうとしたと伝えられている。そのため今回の企画展にも数点が展示されているのだが、素人目にはどこからみても狩野派風にしか見えなかったりもする。

 まあある意味今回の企画展では「やまと絵」のスパンを思い切り広げていると、そんな印象も持った。 

 

 

《伝源頼朝像》 鎌倉時代13世紀 京都・神護寺

 正直いうとこれ観ることができただけで来た甲斐があった。かっては源頼朝像として歴史の教科書でお馴染みのもの。それがいつ頃から「伝」となったかは定かではないが、日本の肖像画の傑作中の傑作。そしてほぼ等身大に近いようなスケールだ。武士を描く日本画はみんなこの絵を参考にしているのだろうと思ったりもする。すぐに連想するのは安田靫彦の『黄瀬川の陣』だろうか。

 三像の残り二つは《伝平重盛像》、《伝藤原光能像》。この二点は人物が頼朝像とは違って右を向いている。写実性とともにある種の威厳性を備えているのは頼朝像と光能像で、重盛像はやや弱弱しい、柔和な雰囲気だ。しかし三像を並べて展示してあるため、それをじっくり観ると頼朝像が表現的にも際立っている。仏像や高僧を描いた似絵とは異なり、実在の武士を描いた俗画ではあるが、ある種礼拝として描かれたのではないかという記述が辻惟雄監修の『日本美術史』の中にあったがうなずける。

 この三像と交代するように、11/7日からは《天子摂関御影・摂関巻》(豪信筆)が展示される。それぞれの摂関像はこの神護寺三像と同じ衣装、ポーズとなっている。おそらく公卿や武士の中でも位の高いもののポーズ、表現としてこのスタイルが13世紀に確立したのだろうか。

 

源氏物語絵巻 柏木二》 平安時代12世紀 愛知・徳川美術館

 教科書のおさらいみたいになるが、源氏物語絵巻は下書きの線を濃彩で塗り込めて、その上から描き起こしと呼ばれる細い輪郭線を描き直す「つくり絵」という技法で画家れている。人物の面貌は「引目鉤鼻」という類型的な形で、人物の個性を描かず、特定されないような手法をとっている。室内の場面では「吹き抜き屋台」という、屋根や天井を取り払って室内を覗き込むような構図で描かれる。

 当時、宮廷の女性たちのあいだで手遊み描かれていた「女絵」の作風をもっているという。

 この絵巻が宮廷女性によって描かれたものかは不明なのだろう。ただし色鮮やかでやわらかい雰囲気はたしかに女性的ともいえる。おそらく「女絵」とは和歌を詠みそれを書いた紙に添えられた絵の発展形なおかもしれない。

 

信貴山縁起絵巻》 平安時代12世紀 奈良・朝護孫子寺

 縁起絵巻とは社寺創建の由来や沿革、本尊や祭神の霊験などを絵巻に仕立て民衆にわかり易く説明するために鎌倉時代に盛んに制作された。《信貴山縁起絵巻》はその一つで絵巻で描かれるのは、信貴山にこもって修行している僧、命蓮。命蓮は法力が強く、托鉢の鉢を飛ばして強欲な長者の米蔵を鉢にのせて山に運ぶ(飛倉)。また信貴山から下りずに加持祈祷して醍醐天皇の病気を治したりする。最後には長く別れ別れになっていた姉と東大寺大仏のお告げにより再開するという。おそらく当時に伝わる説話を題材にしたものと考えられている。

 描法は《源氏物語絵巻》などの濃彩を塗り込める「つくり絵」ではなく、軽快な筆づかいで、表情や動き、個々の人物の個性を描き分け、筆線を生かす淡彩で描かれている。建物の外観は写実的に描かれていて、建造物の描写を省略する「吹き抜き屋台」の手法は使われていない。

 当時、高い技術をもとに描く専門絵師の風俗画を、「女絵」と区別して「男絵」と称したとも伝えられている。必ずしも描いた絵師の性別に関係なく、やわらかい線描と鮮やかな色彩を塗り込める「女絵」と細密な描写を常とする「男絵」という区分けがあったのかもしれない。

 

 

《春日宮曼荼羅》 鎌倉時代13世紀 奈良・南市町自治

 奈良時代に生まれた日本固有の神々と仏教を融合する神仏習合思想。平安時代には仏を本地(本来の姿)とし、神を垂迹(仮の姿)とし、神は仏が仮の姿で現れたものと考える本地垂迹思想が広まっていく。さらに鎌倉時代には神の地位が高められて神仏合体とされるようになった。神道に重きをおく天皇崇拝の右寄りの人々からすれば噴飯ものかもしれないが、当時の支配層、天皇家や貴族から武家の頭領まで広くこの思想を受容していた。

 そうした神仏習合思想の一環として、神社の社殿に仏寺が建立される。そこで信仰を広めるために制作されたのが宮曼荼羅である。社殿の上方には本地仏が円相のなかに描かれている。

 描法としては吹き抜き屋台と同じような斜投影による技法で社殿が描かれている。この斜投影の技法、一点遠近法とは異なるわけだけど、これって誰が始めたものなんだろう。当然日本固有ということはないだろうから、やはりこれも唐絵の影響なのかもしれない。

 

 今回のやまと絵展、とにかく国宝、重文が沢山展示されている。なので最近学習している日本美術史のテキストに出てくる作品も多く、なんとなく美術史の復習みたいな感じになってしまった。

 

 ちなみ今回の図録はソフトカバーで480ページある。ハードカバーでなくてもすでに鈍器そのもの。このボリューミーは数ヶ月、なんとなくページめくるだけで幸福な気分になれそうでもある。

 

キュビスム展美の革命 (10月12日)

 もう一週間以上前のことだけど、上野西洋美術館で開催されている「パリ ポンビドゥーセンター キュビスム展美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガール」を観てきた。

【公式】パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ|国立西洋美術館 (閲覧:2023年10月21日)

 もっと早くに感想をまとめたいと思っていたのだけど、子どもの転職騒動やら自分の手術やらが重なって、とてもそれどころじゃなかった。そしてこの企画展、内容的にも充実しているし、情報量多いし、とてもまとめるなんて無理っていう感じ。鈍器のように分厚い図録も読み応えがあり、特にテクスト部分が半端なく充実している。まださわりの部分しか読んでいない。

 個人的には割と早々にだけど今年のベスト1の企画展ではないかと思ったりもする。東美のマティスも凄かったけど、やっぱりこっちでしょ、みたいな感じだ。開催は2024年1月28日までで、多分その後京都市京セラ美術館に巡回予定かと。会期中、出来ればもう一度か二度行きたいとそう思っている。正直、一回では観きれていないというか、受容できないような感じがした。

 鈍器のような図録も読み切れていないので、おいおいそっちの方の感想もまとめたいとは思っているのだけど、とりあえず一週間ちょっとたってのファーストインプレッション的な感想を。

 

 

 この企画展はパリの近代美術館でもあるポンピドゥー・センター所蔵作品を中心に国内美術館の所蔵品などをくわえて約140点のキュビスム及びその前史的な作品、セザンヌゴーギャン、アリン・ルソーなどの作品が展示されている。そのメインはやはりキュビスムの創造者であるピカソとブラックの作品が中心。さらにそのフォロワーたちやキュビスムをさらに発展させた作家たちの作品が多く含まれている。

 国内所蔵品はポーラ美術館、ひろしま美術館などの所蔵品で、多分一度や二度は観ているものだが、ポンピドウーのものはほとんどが初めて観るもの。ピカソやブラックの作品は画集や美術史関連書籍で観たものもある。でもドローネー、ファン・グリスなどはほとんどが初めて観る作品多数。さらにシャガールの描いたキュビスム作品なども興味深かった。

 またキュビスム前史という位置づけで、一般的にはセザンヌとなるのはわかるのだが、そこにゴーギャン、さらにアンリ・ルソーが加わっているのがちょっとした驚きだった。そして企画展は1章から15章という細かい章立てによりセザンヌからピュリスムの時代に至るキュビスムの歴史をトレースしている。図録ではそれぞれの章にきちんと解説のテクストが書かれていて読み応えがある。まだ三分の一くらいしか読みきれていないけれど。

 そもそもキュビスムとはなんだろうか。西洋美術史のテキストなどでは、20世紀を代表する革新的芸術運動であり、それ以後のダダ、抽象主義、シュルレアリスムの登場を導いた一大革新でもある。その定義については図録の冒頭で西洋美術館館長田中正之氏の小文に詳しい。

 

20世紀初頭にジョルジュ・ブラックパブロ・ピカソによって創始されたキュビスムは、従来の絵画や彫刻の表現を過去のものとし、新しい発展の可能性を開いた美術運動として、まさに革新的であった

一般的には、キュビスムは次のようなものだと説明されている。二次元の絵画平面上に三次元の空間や立体があるかのように見せる遠近法や陰影法といった西洋絵画の伝統的イリュージョニズムの技法を捨て、複数の視点を用いたり、幾何学的携帯に単純化された図形によってグリッド(格子)状に画面を構成することで、描かれる対称を再現的、模倣的、写実的に描写する役割から絵画を解放し、より自律的な絵画を作り出した運動である、と。そして20世紀に花開くこととなる抽象芸術への未知を開いたものとして、キュビスムには大きな価値が与えられてきた。

そして、では物の存在自体自体をキュビスムはどう表しているのかと言えば。たとえグラスを描くにあたって、その口を遠近法的に楕円に描くのではなく真上から見たように(本来の形のまま)円形にし、胴の部分は横から見た姿に描写しているのだと論実。つまり、キュビスムの多視点的表現は、(本当は円なのに楕円にしてしまうという)「嘘」をつくのをやめ、「真理」を、物自体を表現しているのだとオリヴィエ=ウルカドは主張する。

図録16p-19p「キュビスムを理解するために——いくつかの視点」(田中正之) より

 

 このグラスを描く喩えはなんとなく判る。みなとも太郎の歴史大河マンガ『風雲児たち』のなかで、平賀源内が秋田蘭画の小田野直武と佐竹義敦に蘭画を教えるシーンがある。平賀源内は二人にまずお供え餅を上から描くように出題する。日本画だけを描いてきた小田野も佐竹も線だけで描いてきたため、上からのお供え餅は二重丸でしか描けない。そこで源内は二人に、西洋画は対象を面で捉えること、そして陰影によって立体感を描写することを教える。

 この陰影による立体感がある意味では二次元で対象を三次元的表現するイリュージョンなのである。これに対してキュビスムが提示したのは、上からの二重丸としてのお供え餅を横から見たお供え餅の側面を同時に描くということ、かなり平たくいえばそういう試みだったのだ。それはそのままそれまでの西洋絵画の作図法、二次元の絵画平面上に三次元の空間や立体感があるかのように見せる遠近法や陰影法とは別の表現手段の革新だったといことなのだと思う。

 このへんについては図録のテキストをある程度読んでからまとめてみたいような気もするのだが、多分自分の知識ではちょっと無理があるかもしれない。

 

 ここからは気に入った作品を順不同で紹介。今回の企画展では、国内の他館からの借用作品以外はほとんどの作品が撮影自由になっていた。こういうのは本当に有難いところ。

※MNAM-CCI (ポンピドゥー・センター)

《女性の胸像》 パブロ・ピカソ 1907年 油彩・カンヴァス 66✕59cm MNAM-CCI

 

《大きな裸婦》 ジョルジュ・ブラック 1907-1908 140✕100cm 油彩・カンヴァス MNAM-CCI

 

《立てる裸婦》 アンドレ・ドラン 1907 石 95✕33✕17cm MNAM-CCI

アポリネールとその友人たち(第2ヴァージョン)》 マリー・ローランサン 1909年 130✕194cm 油彩・カンヴァス MNAM-CCI

 当時恋人同士だったローランサンと詩人のアポリネール。人物の配置は左から作家のガートルード・スタイン、当時ピカソの恋人だったフェルナンド・オリヴィエ、その隣の頭に果物カゴを載せた女性はおそらく神話の女神。中央に座っているのがアポリネール、その隣はピカソ、さらに詩人のマルグリット・ジロ、髭の男性は詩人のモーリス・クレムニッツ、右下に座っているのがローランサン

 

《レスタックの高架橋》 ジョルジュ・ブラック 1908年頃 油彩・カンヴァス 72.5✕59cm MNAM-CCI

 改めて観てみるとまさにセザンヌの受容というのが一目瞭然。木々の筆触はセザンヌの模倣で垂直になったり、斜めになったりしている。

 セザンヌの影響下から、対象を多角的に観察してその形態に徹底的な分析を加える。形態は断片化され、画面にほぼ均等に並べて描かれていく。ピカソやブラックのこうした実験をこの時期のピカソ、ブラックの最大の理解者でもあった画商カーンワイラーは、分析的キュビスムと呼んだ。

 しかし分析によって得られた細分化されたランダムな形態は、難解で現実の対象とのつながりもたないものとなった。そこでブラックとピカソは、現実とのつながりとり戻すために、対象の一部を作品の中に提示して現実と作品との総合的な統一を目指すことを試みる。これもカーンワイラーによって総合的キュビスムと名付けられた。

大雑把に言えば、分析的キュビスムは、対象を部分に分解するような表現を指し、総合的キュビスムは、ばらばらの要素をひとつの全体へと統合(総合)する表現を指し、確かにそれぞれの段階のキュビスムがどのような表現であったのかをある程度は言い当てているが、しかしどちらの局面においても、ピカソやブラックの絵画が達成したことはそれだけにとどまっていたわけではない。

『図録』—「キュビスムを理解するために—いくつかの視点』 田中正之

 

《楽器》 ジョルジュ・ブラック 1908年 油彩・カンヴァス 50.2✕61cm MNAM-CCI

 

《肘掛け椅子に坐る女性》 パブロ・ピカソ 1910年 油彩・カンヴァス 100✕73cm MNAM-CCI

 

《ギター奏者》 パブロ・ピカソ 1910年頃 油彩・カンヴァス 100✕73cm MNAM-CCI

 

《レスタックのリオ・ティントの工場》 ジョルジュ・ブラック 1910 油彩・カンヴァス 65✕54cm MNAM-CCI

 

 

《ヴァイオリンのある静物》 ジョルジュ・ブラック 1911年 油彩・カンヴァス 130✕89cm MNAM-CCI

 

《円卓》 ジョルジュ・ブラック 1911年 油彩・カンヴァス 116.5✕81.5cm
MNAM-CCI

 

《ギターを持つ女性》 ジョルジュ・ブラック 1913年 油彩・カンヴァス 130✕73cm MNAM-CCI

 

《ギターを持つ男性》 ジョルジュ・ブラック 1914年頃 油彩、おが屑・カンヴァス 130✕72.5cm MNAM-CCI

 

《少女の頭部》 パブロ・ピカソ 1913頃 油彩・カンヴァス 55✕38cm MNAM-CCI 



《ヴァイオリン》 パブロ・ピカソ 1914年 油彩・カンヴァス 81✕75cm MNAM-CCI

                   ⇩

 その筆触

 

《縫い物をする女性》 フェルナン・レジェ 1910年 油彩・カンヴァス 73✕54cm MNAM-CCI

 この絵を観て思ったのは1980年代に始まったコンピュータ・グラフィックによるアニメーションだったりする。あの妙に角ばったキャラクター・イメージ。あれは二次元の中に三次元的要素を生成するために、境界線を意識したキューブ化を指向するみたいな部分があったのだろうか。

 レジェのこの絵で想起したのは、マーク・ノップラーの指引きギターも印象的な大ヒットしたダイアー・ストレイトのこの曲のMTVだったりして。

「マネー・フォー・ナッシング」 (ダイアー・ストレイツ

《婚礼》 フェルナン・レジェ 1911-1912 油彩・カンヴァス 257✕206cm MNAM-CCI

 

《形態のコントラスト》 フェルナン・レジェ 1913年 油彩・カンヴァス 100✕81cm MNAM-CCI

 

《ギター》 ファン・グリス 1913年 油彩、バビエ・コレ・カンヴァス 61✕50cm MNAM-CCI

 

《都市 no.2》 ロベール・ドローネー 1910年 油彩・カンヴァス MNAM-CCI

《窓》 ロベール・ドローネー 1912年 油彩・カンヴァス 111✕90cm MNAM-CCI

 

《パリ市》 ロベール・ドローネー 1910-1912 油彩・カンヴァス 267✕406
MNAM-CCI

 《窓》のように対象の形態の分割というよりも色面による分割というイメージが強いロベール・ドローネーのまるで水晶を通してプリズム化された三美人図。背景には分割されたエッフェル塔やセーヌに架かる橋、船などが配置されている。

 この絵は本企画展の目玉的存在のようで、図録の表紙やチラシ、ポスターなどにも使用されている。確かにインパクトも強く、大画面のそれは最も印象深く残った作品の一つでもある。

 

《バル・ビュリエ》 ソニア・ドローネー 1913年 油彩・マットレスカバー 97✕390cm MNAM-CCI 

 

《チェスをする人たち》 マルセル・デュシャン 1911 油彩・カンヴァス 50✕61cm MNAM-CCI

 

《行進する兵士たち》 ジャック・ヴィヨン 1913 油彩・カンヴァス 65✕92cm MNAM-CCI

 初めて知る作家だ。本名はガストン・デュシャンマルセル・デュシャンの長兄でもある。

 

《色面の構成》 フランティシェク・クプカ 1910-1911 油彩・カンヴァス 109✕99.5cm MNAM-CCI

 これも初めて知る画家。オーストリア=ハンガリー帝国領オポチノ(現チェコ)に生まれ、パリで活躍した画家。当初は挿絵画家として活躍、同時にキュビスム的作品から後には抽象芸術に移った。

 

《婚礼》 マルク・シャガール 1911-1912 油彩・リネンのカンヴァス 99.5✕188.5cm MNAM-CCI

《墓地》 マルク・シャガール 油彩、鉛筆・リネンのカンヴァス 69.5✕100cm 
MNAM-CCI

 

《ロシアとロバとその他のものに》 マルク・シャガール 1911 油彩・カンヴァス 157✕122 MNAM-CCI

 

《白い襟のベラ》 マルク・シャガール 1917年 油彩・リネンのカンヴァス 149✕72cm MNAM-CCI

  シャガールは人気のある画家で、ピカソマティスに次ぐ長命の20世紀の巨匠でもある。でも自分にとってはどこか苦手な画家の一人で、いつもさっと観て終了みたいな流してしまう人でもある。なんていうんだろう、どうせいつも空中に浮遊する画家本人と最愛の妻ベラ、ロシア東方のユダヤ人の村の原風景みたいなイメージでしょ、みたいな感じだったりして。

 でも、このキュビスム作品はインパクトが強い。実をいうと《婚礼》、《墓地》が今回の企画展で一番印象深く残った作品かもしれない。もこういう絵描くんだみたいな率直な感想もある。もっともシャガールはパリ時代、周囲の画家たちが積極的にキュビスム運動に関わる中、自分もちょっとやってみた的な部分もあるのかもしれない。そういう意味ではシャガールキュビスム的習作みたいな作品なのかもしれない。

シャガールはパリへ移住して間もない1911年に、おそらく彼が親交をもったドローネーの影響のもとで、幻惑的な色彩による大画面の絵画を描いた。彼の《婚礼》や《ロシアとロバとその他のものに》などの作品は、何よりもユダヤの文化という新しい要素をキュビスムにもたらしたことによって特筆される。

《婚礼》はシャガールの芸術全体を予告する作品であり、ここに描かれたユダヤ教の司祭、ヴァイオリン奏者、行商人などの人物像は、シュテットル(東欧のユダヤ人のコミュニティ)を象徴する定型的イメージとして、これ以後の彼の絵画にたびたび登場することになる。

                       『図録』—「芸術の革命」(ブリジット・レアル)より

 さらにシャガール

キュビスムの風景》 マルク・シャガール 1919-1920
 油彩、テンペラ、鉛筆、塗料・カンヴァス 100✕59cm MNAM-CCI

 この中心部分で小さく描かれた傘をさす人物がちょっと好きである。

 

《カリアティード》 アメデオ・モディリアーニ 制作年不詳 テンペラ・紙 53✕43cm 国立西洋美術館

 

《無題》 エレーヌ・テッティンゲン 1920頃 油彩・カンヴァス MNAM-CCI

 

《エッティンゲン男爵夫人》 レオポルド・シュルヴァージュ 1917年 油彩・カンヴァス 220✕235cm MNAM-CCI

 エレーヌ・エッティンゲンも初めて知る作家。ウクライナもしくはイタリアが出生地で伯爵家出身。美術や文学に関心を寄せ、パトロンとしてピカソら若い芸術家をを支援し、自宅で文芸サロンを催した。アポリネールが創刊した雑誌『レ・ソワレ・ド・パリ」に出資して運営を助けた。また自ら絵画作品を手掛けたという。

 レオポルド・シュルヴァージュも初めて。フィンランドデンマークにルーツを持つロシア人画家。パリに出てキュビスム運動に参加。エッティンゲンとは恋愛関係にあったと。