TAKE TEN〜ポール・デスモンド

ここのところまたジャズをよく聴いている。たまりにたまったCDの整理でもしようかと、混沌としたCD棚に手をつけたとたん、手にとるものをかたっぱしから聴き始めて、そんな感じである。ブルーノート1500番台を何枚か聴いて、やはり初心に返ってマイルスに手を出して、そうなるとやっぱりコルトレーンもみたいなことを、ここ二週間ぐらい続けているわけだ。やっぱりジャズはいいわ。
数珠繋ぎに聴いていて、究極のジャズ入門盤ってなんだろうと少し考えてみた。まあ普通に考えれば「サムシンエルス」、「サキコロ」、「ワルツ・フォー・デビー」あたりになるだろう。自分にとってはどうだったかというと、多分最初に買ったレコードはというと、おそらくハンコックの「処女航海」だった。あれも入門盤の誉れ高き名盤だとは思う。でも、今思うと少し新しい感じがする。いわゆる新感覚派とか、メインストリーム系みたいなところか。まあ1965年の作品で新しいもないだろうとは思うけど、ジャズ的世界ではそういうものなんだろうね。
60年代半ばくらいからのものは、たいてい新しいジャズのくくりになる。70年代になると、クロス・オーバーだのフュージョンだのが全盛になってと。そういう流れのある種原点となる、所謂モダン・ジャズっていうことになるとどうなんだろう。アート・ブレイキーホレス・シルバーのファンキーもいいけど、やっぱり少し異なるか。これぞモダン・ジャズというのは・・・・、やっぱりマイルスあたりに落ち着くのだろうか。
自分自身の記憶をたどってみると、最も初期に聴いたジャズはというと、う〜ん、たぶん中学生くらいの頃だったか。ピアノをやっている早熟な同級生が、教室のオルガンで、ジャズっぽい曲のさわり弾いてくれた。それがえらくかっこよかった。ファンキーなエイトビートで。あれは確か、リー・モーガンの「サイド・ワインダー」のイントロだっただろうか。うん、でもそれを何度か聴いたことがあったのだろう、「それ知ってる」みたいな反応だったから、それでもない。さらにもっと以前の記憶でと、さらにたどってみると、たぶん行き着くのはこれである。

タイム・アウト

タイム・アウト

しかも家にあったのはLP盤ではなく、17インチ33回転4曲入りのコンパクト盤でした。A面が「テイク・ファイブ」、B面が「トルコ風ブルーロンド」の2曲入り。たぶん兄が所有していたものだと思うが、これが中学生のガキんちょの私にはえらく新鮮かつカッコ良いものに思えたんだろうな。変拍子も新鮮だったし、物憂げなポール・デスモンドのアルトも心地よかった。まあ一言でかたずければ、ウエストコースト系クールジャズの洗礼を受けたということなんだろう。
ジャズの心地よさ、カッコ良さ、洗練された都会的かつ知的な雰囲気、モダン・ジャズとはどういうものという問いへの絶好の答えがこの一枚なんじゃないかなと、そんな風に思うわけだ。
実際の演奏とかも今では軽くYoutubeで拾うこともできる。デスモンドってこんなに姿勢よく演奏してたのね、なんて思ったりもする。
CDとかで聴きかえしてみると、つくづく名盤だなと再認識させられるのだが。よく聴いてみると、変拍子とかそうした部分を捨象して、ブルーベックの理知的なピアノとかそのへんもスルーして素直に聴いてみるとだね、結局このアルバムの主役はポール・デスモンドのアルトそのものなんだということが実感できたりする。カッコ良さ、洗練されたうんちゃら、クール、それらはみなデスモンドの演奏にあるんではないかと。
実際、当時(1960年前後)の彼は、ジャズ界の大スターだったはずで、ダウンビート誌の人気投票でもアルト・サックス部門では何年も1位だったとかいう話を聞いたことがある。キャノン・ボール・アダレイが一度だけ1位になったとかならなかったとかそんな話もあったっけ。
というわけで、究極のモダン・ジャズ入門編は実はボール・デスモンドなんではないかと、そんな思いを抱いたりするわけ。そうなると彼のリーダー作こそ、モダン・ジャズの入門盤にあいふさわしいのではと。で、おすすめの1枚がこれである。
Take Ten

Take Ten

  • アーティスト:Desmond, Paul
  • 発売日: 2009/08/04
  • メディア: CD
「take five」の続編である表題作の「take ten」も素晴らしいが、このアルバムではボサノバやサンバ系が心地よい。7曲目の「Samba de Orpheu」あたりは本当に万人受けするナンバーだと思う。とりあえず初めてジャズを聴きたいと思っている方には、このへんからというのがよろしいと思うこの頃である。
何気にデスモンドの生まれ年を調べると1924年。同じアルトで神様ともいうべチャーリー・パーカーはというと1920年生まれ。彼は「Time out」が大ヒットした1959年から遡ること4年前の1955年に他界している。なんとパーカーは私なんぞですら生まれる前の御仁だったわけだ。
試みに主要なジャズメンの生誕年を列挙してみる。
ポール・デスモンド 1924年
チャーリー・パーカー 1920年
キャノン・ボール・アダレイ 1928年生
ルー・ドナルドソン 1926年生
ソニー・スティット 1924年
ソニー・クリス 1927年生
ジャッキー・マクリーン 1931年生
アート・ペッパー 1925年生
アルト奏者以外でいえば例えば、
ジョン・コルトレーン 1926年生
ソニー・ロリンズ 1930年生
マイルス・デイヴィス 1926年生
ビル・エバンス 1929年生
みんな確実に同世代ということになるんだね。ちなみにポール・デスモンドの盟友デイブ・ブルーベックはというと、彼は1920年生まれ。ウィキベディアの記述を信じればまだ存命で90歳だという。ようはパーカーも、もし生きていれば90歳になるということなわけだ。なんか微妙な感覚を憶えないでない。