社員やパート募集をやっていると、ここ数年シングルマザーが増えているような気がしてならない。うちのような零細でもそうなのだから、大手と呼ばれるところでパートや嘱託など有期雇用の募集とかをすると、ずいぶんとその比率が高くなっているのではないかと思う。履歴書の裏面とかを見ると、配偶者なし、扶養家族ありにチェックがついているのをけっこうな頻度で見かける。
シングルマザーが増える社会的要因は多面的に論じられるべきだろうし、たぶんそれは私のようなものの手に負えるようなことではない。ただ会社で人の採用とかに関わっていると、この問題がけっこう大きく関わってくる。そしてある種一義的なことをいえば、企業は、特に中小零細になればなるほど、シングルマザーに対するハードルを高くする傾向にあるのではないかと思う。
シングルマザーに対する偏見、いやある部分の現実としていえば、まず小さな子どもを抱えたお母さんであればあるほど、子どものことで休みをとることが多くなる。子どもを保育園に入れているとしても、病気になれば、特に熱とかがあれば、すぐに呼び出しはくるし、朝熱が出ていれば、登園させることができない。病気が伝染性のものであれば、医師から登園許可がでるまでは保育園に連れて行くことができない。
このへんのことは共稼ぎで子育て経験しているから私にもわかる。実際うちも苦労したものね、子どもはもうこのタイミングでというくらいピンポイントで熱を出してくれた。何度子どものお熱で仕事を休んだことか。三日登園できないとなると、一日目は妻、翌日は私、そして三日目となると夫婦の間がえらく険悪になったりもする。それぞれ正社員やっているから、基本対等だし、そうなると会社での立場とかで、比較的休みとりやすいのが実は私だったりして、ならすと私のほうが多かったかもしれないな。
三日目に子どもを連れていく。子どもはけっこうピンピンしていて、医者からも明日から登園OKが出てほっとして、そのあとは少しだけ子どもを公園で遊ばせたりして。子どもがアイスとか欲しがるので食べさせて、子どもの笑顔を見ているとそれなりに幸福な気分にもなるにはなるのだが、俺ってば午前中からこうやって公園にやってきて何やっているんだろうみたいな自問自答したりとかしてた。
だから小さな子どもがいるといかに大変かわかる。でも会社はそれをどう考えるかとというと、小さな子どもがいる母親は使いづらい、子どものことですぐに休む、勤怠が安定しない、だから採用しないと、こういう論法になるんですわ、実際の話。
これはもうシングルマザーとかではなくて、普通に配偶者のいる奥さんでもそう。世の中のダンナさんはそれほど子育てに参加していないのがけっこう一般的だったりもするし、こういう厳しい状況では子ども病気で休むなんていうことになると、それだけで評価下がったりもしかねない。私だって、子育てのときのそういう事情がなければもう少し出世していたかもしれないし。まあ零細だから出世しようがしまいがたいした違いもないけど。
そういうことなんで、パートさんの面接のときには必ず子どものことを聞く。未就学児がいる場合は、保育園の登園状況、送り迎え、万が一病気のときに近くに親御さんとかがいてサポートしているかとか、ダンナさんの子育ての参加具合まで場合によっては聞くこともあったりもする。面接とかに慣れた方だとそういう質問されることが多いのだろう、「ハイ、うちは近所に両親が住んでいますから大丈夫です」みたいな紋切り型の答えが返ってくる。
これが小学生や中学生とかになると、PTAの役員の有無とかを聞いたりもする。逆に先方からも学校行事のときとかに休めるかという質問があったりもする。基本回答は有給の範囲でということになる。
でもいろいろ聞くと、パートに有給付与しても、きちんととらせないところって多いようだな。面接していても「パートに有給とかあるんですか」「今まで勤めたところで有給のことなんて説明すらありませんでしたけど」などという話を山ほど聞く。会社は有期雇用の弱みにつけこんで、けっこう無茶苦茶やっているみたいだな。まあ一番多いのが、有給はあるにはあるがとらせない、急な休みは総て欠勤処理みたいなところか。ほとんど労基法的にはグレイ通り越しているんだけど。
そういうことでとにかく小さなお子さんがいるお母さんの就労はとにかくハードルが高くなる。ましてシングルとなるとさらにということだ。うちなんかでも、その部分で切り捨てようと考える人間もけっこう多かったりする。この人はどう、小さな子どもがいるんだ、それじゃ駄目だなみたいな感じである。ましてシングルとなるともう端から駄目出しである。
以前、シングルマザーで小さなお子さんのいる方をパートで採用したことがある。職務経歴がけっこうきちんとしている方だったので即戦力になるのではということと、単にシングルだという理由だけで落とすのもあかんだろうという気分もあり、周りを説得した。もちろん本人にはサポートがあるかどうかを念押しした。近くに親もいるので大丈夫という答えが返ってきた。それでその人が今も元気に働いている?
ハイって、なかなかそうはいかないんだな、これが。やっぱり子どもの病気とかでけっこう休みが多い。そうすると周囲は、ほらやっぱりだろう、みたいなことになる。どうしたかって、そりゃ注意したよ、立場上は。子どもの病気だからって、無理して子ども保育園連れていったりは駄目だけど、とにかく危機管理が甘いと。例えば病児保育とかきちんと調べてみたかなどと、まあ説教に近いな。一応近隣の病児保育のリストとかプリントアウトして渡して、こういうのは普段から利用できるかどうか調べておくべきだと諭す。さらには、こういうことがあるとこれから子育てしながら勤めようとする人の就労にも影響してくる。あなたに総ての責任を負わせるつもりはもちろんないけどみたいなフォローにもならない言葉を付け足したりもしたけど。
でも、正直しんどいことだとは思うよ。おそらく病児保育とかも今日の明日のという緊急時に対応してもらえるかどうかだってわからないだろう。とにかく社会資源というか子育て支援のインフラがなさ過ぎるのだとは思う。こういう状況では誰も子ども作らなくなるなとも思う。子ども作った瞬間に、女性は仕事を失う可能性が高いのだし、それ以前このご時世である。子どもの有無以前に正規社員としての仕事がない状況なのだから。
少子化は続くと思うな。こうも雇用状況が厳しいのだから。財界のトップは原発がなくなるとコストアップで企業は海外に出て行く、空洞化するみたいな恫喝ならぬ恫喝めいたことをよく口にするのだが、もうそういうこと以前に少子化により労働人口がどんどん減っていく時代になりつつあるのだ。そうなってもちっとも困らないのが今の企業だ。生産拠点は海外にシフトしているし、機械化、システム化により正規雇用労働に頼る時代じゃなくなってきているから。ようはグローバリズムは自国の労働人口など減少しようが関係ないということなのかもしれない。
まあちょっと飛躍し過ぎの感もあるにはあるのだが、なんか様々なことを考えざるを得ない。しかし当面の問題として、自分の職場についていえば、やっぱり小さな子どもを抱えた奥さんは雇いずらいということになる。ましてやシングルマザーとなると、これはこれでとても憂鬱なことなのではあるが、いたしかたないことでもある。どうあっても零細企業でできることなんて、本当になにもないのだから。
そしてそれ以上に、仕事をしなければ生きていけない、でも子どもを抱えて仕事を見つけることができない。そういうお母さんが増えている現実がある。社会のセーフティーネットの網目がどんどん大きくなり、そこをすり抜けてしまう人たちが増加しているのだ。もはやシングルマザーには憂鬱とかそういう感情レベルでは片付けられないシビアな状況があるのだろうとは思う。