求む有能シングルマザー

3日前の朝日の記事がどうにも引っかかっている。朝刊の5面経済欄だった。ある女性が始めた職業紹介会社の記事である。記録ということもあり、またまた全文引用する。こういうのって著作権的にはひっかかるんだろうな。でもクラウド上でのスクラップという意味もあるし・・・・。

求む有能シングルマザー 
 いまから5年前、東京の杉並区で、ひとりの女性が、職業紹介の会社を始めました。事業の柱は、社会に埋もれた優秀なシングルマザーを掘り起こして企業の正社員にし、ゆくゆくは管理職にすること。「子育てと仕事が両立できる社会づくりの突破口になりたい」という志に共感が広がっています。
 新宿から電車で西へおよそ20分。下井草駅ちかくのマンションに、職業紹介の会社「ハーモニーレジデンス」(従業員5人)がある。
 この会社を立ち上げたのが、社長の福井真紀子さん(45)だ。会社員の夫と中学2年の娘がいる。
 福井さんは、3歳から8歳まで、ニューヨークで暮らした。女性がはたらくのは当たり前の社会だ。
 日本に帰った。小学校の作文で、「将来の夢」を書くことになる。そこで、子ども心に疑問をもった。
 〈日本の女の子は、たくさん夢を持っている。でも大学に行って就職したところで、結婚、出産、そして結局、専業主婦になるしかないじゃない?〉
 「男女雇用機会均等法」が施行され5年たった1991年春、大学を出て証券会社に総合職として入る。
 上司にいわれた。
 「雨のとき、自分はずぶぬれになってでも、上司のために傘をさせ」
 〈こんな男性上司に認められなければ、日本企業では出世できないんだ〉
 ほどなく退社。司法試験の勉強を3年したが、うまくいかない。夢も希望もないのか、と失意の日々を送り、結婚、出産した。夫には「働くなら、家庭に支障がない範囲で」と言われた。外資系の法律事務所でアシスタントを始めた。
 娘が小学4年生になり、「将来の夢」を作文で書くことに。積年の思いが、どーんと噴き出た。
 〈娘には仕事への夢を実現してほしい。すべての女性が仕事と家庭を両立できる社会にしたい。共働きなら仕事をやめる選択肢はあるけど、シングルマザーは両立しなければならない。彼女たちがもっと活躍できれば、社会は変わる〉
 そう思って起業を決めた。資本金1千万円は、貯金などからひねり出した。
 ハーモニー社に登録するシングルマザーは700人を超え、これまでに100を超える会社に紹介してきた。彼女たちへの評価は高く、「もう一人ほしい」「うちにも紹介して」との声が相次いでいる。
 ●「思いが届いた」
 東証1部上場メーカーの「サトーホールディングス」(東京都目黒区)。人事や総務を担当する逢坂恵利さん(32)は昨年1月、ハーモニー社の紹介で、いまの職についた。
 高校の英語科で学ぶが、事情で進学をあきらめる。大手信販にはいって社内結婚し、無言の退職勧奨にあって退社した。
 26歳で出産するも、3年前に離婚し、福祉事務所のすすめで母子アパートに入る。バイトの収入は月10万円もなかった。正社員になりたいと履歴書を50社ほどに送ったが、すべて門前払い。役所からは、生活保護をすすめられていた。
 世界展開をすすめるサトーは、多様な人材を活用する「ダイバーシティ経営」を始めている。優秀な人材がほしい、とハーモニー社に申し出ていた。
 サトーの正社員になり、逢坂さんは、収入が大幅にふえて母子アパートから出た。「仕事をあきらめたくない、という思いが届きました」。再婚もできた。
 厚生労働省の2011年の統計によると、民間企業の係長にしめる女性の割合は15%、課長は8%、部長は5%にとどまる。
 女性の社会進出をうながすNPO「女子教育奨励会」の理事長で、元労働官僚の木全(きまた)ミツさん(76)は語る。「成果が出ていないのは男も女も行動してこなかったから。実際に行動している福井さんを応援する」
 外資系有名メーカーの部長は、6歳の娘がいるシングルマザー。「わたしは、子どもにも部下にも我慢してもらっている。採用でハンディになる現実を踏まえて、チャンスをつかんだら楽しむ、と肩の力を抜いたら、うまくいくと思う」
 ◇ああもったいない(記者の視点)
 企業がシングルマザーを採用しない理由は、子どもの病気で早退する、残業させられない、などだろう。
 しかし、経歴、能力などを確かめもせずに門前払いなんて、ああ、もったいない。いや、社会的損失だ。残業をいとわない母親だって、たくさんいる。
 「ふつう」の人だって就職が難しいのに、と疑問に思う人もいるだろう。
 そんなあなた、決してひとごとではありませんよ。病気、事故、災害、家庭事情の変化、あるいは勤務先の倒産。とつぜん、経歴の中断に追い込まれるかもしれないのです。
 再チャレンジが難しい日本を、復活のチャンスに満ちた企業社会にしなくてはならない。シングルマザーの正社員雇用は、そんな問題を投げかけている。
 (編集委員・中島隆)

なぜ微妙にこの記事に反応したか。今、社員、嘱託社員の募集をかけているから。応募された履歴書の中にもけっこうな割合でシングルマザーがいる。どうするか多少の後味悪さを伴いつつも書類選考で駄目だしすることが多い。トップからして、小さい子連れだと子どもの病気で休み、早退が多いという先入観もっているし。
みんなたぶん門前払いされているんだろうことを容易に想像できるのだが、履歴書に添付された手紙とかにも、とにかく面接の機会を与えてくださいと書かれていたりもする。しんどい部分だ。でも仕事なのでけっこう機械的に対応する。こちらが想定している年齢層は30前後までなので、子連れで40前後だとこれは申し訳ないけど書類をお返ししてみたいなことになる。
とはいえ自分自身共稼ぎで子ども育てた経験もあるから簡単にシングルマザーを門前払いというわけでもない。以前、パートの募集に際して、1歳くらいの子を抱えたシングルを雇ったこともある。履歴書みて他の人間は簡単に駄目出ししたけど、職務経歴とかそのへんがけっこう熱心ぽかったので面接した。と、その方、子どもを連れて面接に来た。臨時で預ける託児所とうまく調整できなかったからだという。短い面接なので車の中に子どもを置いておこうとしたので、それなら子どもも連れてきなさいといって、子ども抱きながらの面接をした。途中で集中できないだろうということで、私が子どもを抱いてあやしてやり、総務部長と面接のやりとりをさせた。子どもは目がくりくりっとして人懐こく、おとなしくしていた。
はっきりいって前代未聞の面接だったが、結局採用しました。もう一度呼んで二次面接して、二度と子どもを連れてみたいなことがないように、また病気とかでの保育園とかの呼び出しでも、出来るだけ仕事に影響ないようにとやや上から目線で話をした。
まあその後も普通にその人務めている。それでもたまにやはり子どもの病気とかで休んだりとかもある。そうなるとやっぱりみたいなことを言う奴もいるのだが、まあ有給の範囲内ならと目をつぶっている。
でも、たぶんこういうのはレアなケースだろうと思う。雇用が先細っている状況だ。シングルマザーどころか、普通に女性の就職が厳しい。それどころか男性でもなかなか正社員の道がない状況なのだ。ここ何年かで数人若手社員を採用したが、けっこう応募者来ていた。特徴的なのが30代〜40代の働き盛りで独り者の男性が多いことだ。経歴的にも新卒で入った会社が倒産してそれ以来ずっと派遣やアルバイトを繰り返している方もいる。新卒時からずっと正規雇用と縁がないまま有期雇用で何社もという方もいる。雇用の問題は本当に深刻な状況なのだ。
うちの会社なぞは、それこそ吹けば飛ぶような弱小零細である。20年も前だと誰も見向きもしない会社だった。当時、勤めていた学生アルバイトに、就職決まってないならうちに来るかと勧めてみると、勘弁して下さいと速攻断られたという逸話もある。そういう会社でも今、人を募集すると多い時には50人近くの人が応募してくる。社員にはそれこそ、今や正社員だというだけで勝ち組なんだぞと冗談半分に言うこともある。いや、それは半分本心かもしれない。
なにかえらそうにいっているのではない。世の中がどうにもおかしな方向に捻じ曲がってしまっているのだ。ただ存続しているだけの弱小零細企業の正社員が勝ち組であるわけがないのだ。でも、ある部分これがグローバリズムとかの負の側面なのかもしれない。
シングルマザーの話題に戻る。最後に記者の視点として「経歴、能力などを確かめもせずに門前払いなんて、ああ、もったいない。いや、社会的損失だ。残業をいとわない母親だって、たくさんいる」と述懐している。そのとおりなのだが、雇用が先細っている状況にあってはそれがまさしく現実なのだ。
実際、採用についていえばだが、短期間の面接だの、ちょっとした試験だのでいったいその人の何が分かるという部分もある。たぶんに第一印象だの、受け取る側の勝手な思い込み、先入観、その他もろもろで、言葉悪いが恣意的に決まってしまうものだ。他者の全人格などという大それたことは抜きにしても、たぶん相手のことなどなにも判らないんだと思う。たぶんね、これは面接のプロだの、心理学者だって基本は一緒だと思う。ようは勝手に人のことを意味づけたりレッテルはるだけだ。
人が人を理解することの困難さの深層をメインテーマにしたのは村上春樹の最高傑作と個人的に思っている「ねじまき鳥」だったっけ・・・・、よそうこの手の脱線は不毛だ。
シングルマザーと限定するまでもなく、女性の仕事をしていくのはいつの時代でもハンディが大きいとは思う。能力的には申し分がなくても、男性との間では差別だの格差だのというもろもろ壁がある。古くからの友人で同じように弱小零細系の経営者をしている女性がいる。この人はまあ普通に仕事ができる、誰からも一目置かれるような方だ。この人とはいまでもよく飲むのだが、30年くらい前だったろうか、酒飲んでけっこうからんだことがあった。どうしてそういうことになったかわからないが、多分女性の社会進出みたいな話題だったのだと思うが、私は彼女にこんなことをいった。
「君が仕事ができることは認める。でも君はたぶん回りの男たちの10倍〜20倍働かなくちゃいけない。そうしないと僕を含めた男たちと同等に出世するのは難しい。世の中はずっと男性社会でやってきたんだから。たぶん2000年くらいずっとそうやってきているんだ。そこに風穴をあけるんだから、とにかく頑張らなくちゃ駄目だ」
ずいぶんと上から目線でえらそうなことを言ったものだ。今でもこの手の話になるとからかわれる。でもたぶんそれは間違ってはいないと思う。彼女は実際仕事ができたし、それなりに出世もした。でも同期や後輩は彼女よりも早く出世していった。そういうものなのだ。
何がいいたいか、法制度だのインフラだのと回りくどいことではなく、とにかく普通に男女の雇用機会が均等になる世の中になってもらいたいという思いがある。社会は女性の普通に優秀な能力を無視し続けてきているんだと思う。例えばパートの女性だと、、やっと子育ても一段落して、家のローンもあるしという方で応募してくる方が多い。そういう方の中には社員の男性なんかよりはるかに処理能力に優れた人がいくらでもいる。こういう能力のある人たちが、子育てとかで家庭に長く入っていたのって、ひょっとしたら社会的損失だったんじゃなねえの、などと思うこともあったりする。
そう、学生時代のことを思い出してみればいいのだ。たいていの場合、勉強が出来て、そつなく学級活動などのもろもろをこなしているのは、たいてい女子だったんじゃないか。男の子はろくでもないバカばかりだっただろう。あの学校の縮図がそのまま社会に移行しているのに、社会にはびこっているのはかってのおバカな男子たちなのである。
もう何万遍も言い尽くされているのだろうが、雇用に限らず男女が均等に社会に進出できる社会がいつかは到来すべきだと思う。シングルマザーはある意味で、女性に対する抑圧、疎外の一形態でしかないとは思う。同じようにシングルファーザーが存在するかといえば、多分それは圧倒的に少数だろう。核家族化、離婚の一般化といった風潮のなかで子どもは必ず女性の側に行く、これも問題だ。さらにいえば子育てしながら社会に出るための、それを支える社会資源が圧倒的に不足している。
シングルマザーの社会進出の記事を読んで思ったのはその手の脈略のないことがらだった。とにもかくにも社会は有能な能力、人材を、ことさらにやれ子育てだのなんのと理由つけて無視し続けてきたのだろうし、多分これからも当分のあいだそうし続けるのかもしれない。