20世紀少年を観た

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先週の土曜日、衝動的にいつものワカバウォークまで観にいってしまった。5時過ぎまで娘が友だちと遊んでいたのだが、帰った様子だったので急遽映画観にいくぞと号令を出した。事前に電話して6時25分からの回がけっこう席に余裕があるということだった。お出かけ大好きの妻は二つ返事で「行く行く」みたいな感じだったし、娘も映画を観るというとすぐに着替えて降りてきた。こういう時だけはフットワークが軽い。それで車椅子押していそいそワカバウォークへ向かう。10分足らずで行けてしまうのが嬉しい。
20世紀少年」はテレビのCFや劇場での予告編でも気になってはいた。あの出だしの音楽。あのギターが。我々の世代には有名なTレックスの定番ソングである。Tレックスといえば実はこの「20th Century Boys」と「get it on」「Telegram Sam」の3曲くらいしか知らん。いやちょっと大袈裟かな。「Metal Guru」とかあと何曲かは愛聴していた。でもねこの3曲がほとんど私の中でのTレックスなのだ。ある意味この3曲はほとんど一つの曲に等しいくらいだ。イントロは「20th Century Boys」、AメロBメロが「Telegram Sam」でサビが「get it on」、まあこんな感じだよ。試みに誰かリミックスしてみるといい。ほとんど同じ曲になってしまうから、なんてね。
それで予告編と主題歌として使われた「20th Century Boys」が気になって、これは観なければあかんかなと思っていた。それでは原作コミックはどうか、確か最初の何巻かは読んでいたはずなのだが、散逸してしまっている。あまり記憶も残っていない。確かオウム真理教あたりからインスパイアされたカルト宗教ものという印象だけが残ってはいた。浦沢直樹はどうか、嫌いではない。『YAWARA』『MASTERキートン』なんかを愛読していた。一番好きだったのは『MONSTER』だとは思っている。
まあそういうことなので、映画観る前にコミックを少し読んでみるかとだいたい3
〜5冊づつ大人買で全22巻も買い揃えてしまったりもした。買ってから家の本棚の片隅に1〜2巻がでてきて少しため息ついたりもした。
で、映画以前にコミックを読んでの断片的な感想。ちょっと風呂敷広げすぎたんじゃないのかな〜と思う。60〜70年代の少年たちの生活がディティールとして細部にわたっている。子どもたちの葛藤や心理劇は非常に深いものがあるのだが、大人になってからの彼等の活躍にかなりの無理があるように感じる。
なによりもカルト宗教の教祖ともだちが勢力を広げていく部分のディティール、リアリティが極端に省略されていること、細菌兵器、巨大ロボットを作り上げていく部分とかも、おいおい一体どこにその金、人材、その他もろもろが・・・・・みたいな疑問以前の問題がある。オウム真理教にインスパイアされているとしても、このスケールの大きさのバックボーンになる部分はなにみたいな感じなのだ。
さらにいえばミステリーの筋立てとしては、きわめて粗い感じ。死んだはずの誰それがまたまた復活してみたいなことの繰り返しで、論理的な連関はどうなのみたいないちいちのつっこみしたくてうずうずしてしまう。自伝的要素が強いという少年時代の描写の細かいディティールとはきわめて相反するものがあるのだ。まさに神は細部に宿り給うなのである。なんのこっちゃ。
そういうスケールの大きな大風呂敷コミックを原作とした映画なのであるから、正直けっこうしんどいかな〜とも思った。堤監督がいろいろなところで解説していたことなのだが、コミックをそのまま踏襲した、カット割も出来るだけ原作のコマ割に近いものにしたうんぬんは、なるほどなるほどという感じがした。実際、本当にコミックそのままなのである。そういう意味では原作の雰囲気がうまく映像化し得ている。成功作といえる。
しかし逆に原作のもつミステリーとしての粗っぽさ、論理性、必然性の脆弱な部分もそのまま踏襲されている。おまけに長編コミックのだいたい5冊分くらいを2時間ちょっとに凝縮せざるを得なくなってしまったので、ありていにいって映像ダイジェストみたいな感じもした。このへんはちょっとである。
とはいえ最近の映画にしては長い。2時間半近くになる割りにはあまり(あまりである)だれなかった。そういう意味では点数はけっこう甘くなる。まあままの作品だと思う。
たぶんこれから続くだろう映画の第2章、3章もきっと観るだろうから、「20世紀少年」について書く機会もまたあるだろうから、今回は本当に直感的なだらだらしか書けないけど、ぶっちゃけこの原作コミックは、たぶんに浦沢の自伝的要素の濃い懐古的な少年時代のことと、そこから膨らませた想像力によって成立している作品だ。そのキーワードはというと多分ロック=ロックンロールということになるのだろう。そのロックの象徴的キーワードがTレックスの「20th Century Boys」なんだろう。たぶんこの曲が最初にありき。そこから「20世紀少年」という直訳語と少年時代の思い出みたいな形で広がっていったのだろう。それでね思うのだけど、原作コミックも映画もね、実はTレックスの「20th Century Boys」のイントロ、あのインパクトを実は乗り越えていないんじゃないのかというのが、なんとなくの現時点での私の感想です。
それにしても音楽は偉大であり、偉大な音楽はあらゆるメディアを超越するのだ、みたいなことをなんの根拠もなく思う今日この頃です。