告発のとき

告発のとき [DVD]
これもDVDで観た。静かで、重々しい、いや重厚な映像とでもいうべきかな、そして救いのない暗さ。アメリカの暗部とでもいうのだろうか、イラク戦争に出兵した若者たちの荒んだ精神によって引き起こされる絶望的な事件を描いた作品。実話にもとずいたストーリーだというが、いい映画だったと思う。でもこの映画もまたもう一度観たいかと問われたら、多分答えはノーだと思う。
監督のポール・ハギスはこの映画が二作目。それよりもクリント・イーストウッド作品のあの暗い暗い「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本を書いた人といえば、彼の作品の色みたいなものが浮かんできそうだな。とにかく暗いのだよ。
主役はトミー・リー・ジョーンズ。この人も暗いな〜。退役した軍警察の捜査官で、軍隊を脱走した息子を一人で捜索するという役。落ち着いた、文字通りしぶい役柄を見事に演じているな。人生の秋にたどりついた初老の警察官という役柄をたしかコーエン兄弟の最近作でけっこう話題になった「ノーカントリー」でも演じていたっけ。なんか役柄とかそのへんがけっこうかぶっているなと思った。もっとも日本じゃサントリーの缶コーヒー「ボス」のCMで地球に調査にきた宇宙人をコミカルに演じていることですっかり有名になってしまったけど。
トミー・リー・ジョーンズはかなり長いキャリアの持ち主だろうとググってみると、いろいろ出ているね。ベトナム戦争の後遺症に悩む退役した兵士の絶望的な戦いを描いたニューシネマの傑作「ローリング・サンダー」で主人公と行動を共にする部下を演じたのが彼だったとは驚きだったな。無口、無表情で主人公についていき、確か死んじゃうんだよな。ちょっと東映のヤクザ映画の匂いもする良い映画だったよ。
あと共演者では大好きなシャーリーズ・セロンも女刑事役で出ている。男社会の警察の中で、同僚から嫌がらせを受けながら頑張っているシングル・マザーの刑事で、トミー・リー・ジョーンズが息子を探すの不承不承手伝い、真相に迫っていく。美人なんだけど相変わらず良い味だしているというか、しぶい演技を見せている。美人なのにさり気なく、いい演技をするんだよな。
もともとこの映画のパッケージをTUTYAで手にとったのも実は彼女が出ているから。おっ、シャーリーズ・セロンが出ている、それじゃ借りちゃおうかみたいな感じだったかな。
とにかく出演者もよいし、監督の演出もさえている。ストーリーやテーマはとても重い、良い映画だと思う。何よりもアメリカという国は世界の唯一の超大国として、世界の警察官として、様々な国へ派兵を続けている。ある種の善意もあり、自らの国益のためでもあり、まあ様々な理由はあるのだろう。でも派兵を受ける国々からすれば、それはある種の隷属であり、侵略と受け止める部分もある。すべてにおいて裏と表の表裏が存在する。
そうした矛盾を最前線で目の当たりにするのが、現地に派遣される兵士たちである。彼らは愛国心や忠誠心を抱き、異国に派遣されるのも正しき国の行為の一環として善的な行動であるという思いで現地へ向かう。でもそこで対面する様々な諸矛盾。そして毎日死と向き合うような緊張関係の戦闘行動。その中でどんどんとどんどんと精神が蝕まれていく。まさしくそれが戦争なのである。
この映画では、戦闘行為を描くのではなく、様々な兵士の語りと、死んだ息子が断片的に撮影した携帯電話機の動画によって、戦争の狂気をじんわり、じんわりと描いていく。それがけっこうビシバシと伝わってくる。そのへんの描き方がとても秀逸であると素直に感心した。