さらにプール事故調査報告について

前回に引き続きプール事故調査報告についての感想をいくつか。
この報告書は「はじめに」でもあるように、大井プールの管理に関する調書や設計図書等が警察当局に任意提出済みのため、「報道等により断片的に明らかにされてきた事実関係と市から提出された整合性のある資料から認められる事実とを問題点ごとに整理し、事故原因に関する報告としてまとめた」とされている。
しかし事件の後連日報道された事実のどの部分を取り上げているのか、またそれを市提出の資料との間で検討し、事実かどうかの検証等の作業を実はほとんど行っていないのではないかという疑問がある。さらにいえば、報道でとりあげられた疑惑、疑問点についてはそのほとんどにわたって、市の一方的な弁明(否定もしくはわからないというコメント)をそのまま報告書に述べているにすぎないのではないかと思う。
事件の後、次々に明らかにされてきた報道による事実関係については、特に事件後一週間は百花繚乱のごとくであった記憶がある。新聞記事はネット上では削除されたり、有料検索でのみ可能になったりするので、とりあえずグーグルキャッシュで読売の主要な記事を貼り付けてみる。
http://72.14.235.104/search?q=cache:VJEoNHz2_IIJ:home.att.ne.jp/sea/tkn/Issues/FushojiResponses-FujiminoOoiPool.htm+%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%AB%E4%BA%8B%E6%95%85%E6%AD%BB%E3%80%81%E9%87%9D%E9%87%91%E5%9B%BA%E5%AE%9A%E3%80%8C%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%8C%E4%BA%86%E6%89%BF%E3%80%8D%E2%80%A6%E5%B8%82%E5%81%B4%E3%81%AF%E5%90%A6%E5%AE%9A&hl=ja&lr=&strip=1
記事内容と報告書との関連を幾つかあげてみることにする。

ふじみ野市教委職員「ボルト異常の報告、記憶ない」 (読売オンライン 2006年8月3日)
 ふじみ野市教委は3日、2000年以降のプール管理担当職員ら計12人の聞き取り調査結果を公表した。
 この期間のプール管理は、00年が東京のビル管理会社、01年以降は「太陽管財」(さいたま市北区)に委託。
 職員らは、管理棟の雨漏りなどの報告は受けたが、「ボルトの異常については書面、口頭ともに記憶はない」という。
 同市の吉野英明教育長は「いずれにしても市教委職員は営業前点検などで、吸水口のふたが針金で止められていたのを知る機会はあったのに見逃しており、最終責任は市にある」と話している。
 一方、00年の委託業者は、読売新聞の取材に対し、「ボルトがないことを口頭で報告し、担当職員からボルトをもらって取り付けたことがある」と話しており、市側の説明と食い違っている。

この2000年の委託業者は、太陽管財ではなくサンアメニティである。調査委はサンアメニティに対しての聴き取り調査を行っていない。それでいて市から提出された資料との整合性うんぬんをいえるのだろうか。大体において報告書でサンアメニティの記述があるのは経年の委託業者の一覧のみである。

プール事故、6枚中5枚は別の吸水口のふただった (読売オンライン 2006年8月4日)
 「ふじみ野市大井プール」で戸丸瑛梨香ちゃんが死亡した事故で、流水プールの吸水口3か所に取り付けられている計6枚のふたのうち5枚は、誤って別の吸水口のふたが取り付けられていた可能性が高いことが4日、埼玉県警の調べでわかった。
 このため、ふたと壁の留め具のネジ穴(直径3・5ミリ)の位置が合わなくなり、ボルトの代わりに針金で固定したと見られる。
 1986年にプール工事を行った業者に県警が確認したところ、吸水口のふたは、四隅に穴を開けた後、壁に固定された金属製の留め具にあて、ふたの穴の位置に合わせて留め具側にネジ穴を開けて、ボルトで固定していた。ふたと留め具に開けた穴の位置がそれぞれ違うため、別のふたを取り付けようとすると、ボルトで取り付けられなくなることがあるという。
 県警は、シーズン営業開始前の清掃時などにふたを外し、その後に取り付けようとした際、6枚のうち、四隅がボルトで固定されていた1枚を除く5枚を取り違えた可能性が高いとみている。

針金による固定が常態化した原因はまさにここにあるはずだ。ようは3箇所の吸水口と6枚の防護柵はすべて対になっていて、留め具とネジ孔の位置がそれぞれ異なるわけだから、別の防護柵を取り付けられない。素人の工作なんかでもよくある単純な話だよ、これ。
これに対しての報告書の記述は、

まず、針金による固定についてであるが、これまでの報道等によれば、受託業者は、防護柵の清掃作業を実施する際、取り外し、清掃後に取り付けをした。その際何らかの理由により、ねじとそれを受けるねじ受けの孔が一致せず、やむを得ず針金によって固定されたようである。(P36)

おいおい、何だよ「何らかの理由により」って。明白じゃないか理由は。頭の悪い作業員がそれぞれ異なる留め具とネジ孔の位置を混同して、うまく取り付けられないんでやっつけで針金留めしたのが常態化したんじゃないのか。ひょっとしたら作業中にネジをなくしたりもしたのかもしれない。これも素人工作によくあることだから。
これを報告書では二つの問題に矮小化する。

この点に関する問題点は二つある。一つ目は、防護柵は、本来外すべきものではなかったということ。二つ目は、本来ビスで固定すべき箇所を継続して針金によって固定してしまったということ。

 確かに資料編のプール管理業務仕様書にも実は吸水口の清掃などという記述はない。清掃箇所については表として大きく列記されているがその中にもない。いや、それ以前に管理業務仕様書に安全点検箇所の記述もなければ、吸水口や排水口の一文字も実はないのである。仕様書=マニュアルだとすれば、そもそもこの管理業務仕様書に安全点検という項目はない。仕様書ってそういうものなのかとも思う。いや本来的にはあり得ない。

職員のプール巡回、料金回収が主目的…安全点検せず (読売オンライン 2006年8月8日)
 埼玉県ふじみ野市の市営「ふじみ野市大井プール」で、小学2年戸丸瑛梨香(えりか)ちゃん(7)が流水プールの吸水口に吸い込まれて死亡した事故で、合併前の旧大井町職員が行っていたプールへの巡回は、売上金の回収が主な目的で、設備の安全点検はほとんど行っていなかったことが8日、元職員の証言で明らかになった。
 巡回の際に点検すべき設備などを定めたマニュアルもなかったといい、安全点検を管理業者任せにした行政側の安全意識の欠如が改めて浮き彫りになった。
 ふじみ野市教委はこれまで、昨年10月の合併前は毎日、合併後は2日に1回の割合で、職員がプールの巡回点検を行っていたと説明していた。
 ところが、旧大井町教委で1994年からプールの運営・管理を担当した元職員は、読売新聞の取材に対し、「プールへの巡回は料金の回収が趣旨だと思っていた」と証言した。プール管理棟にある事務所からその日の売上金を回収し、プールサイドに行かずに帰る職員も多かったという。
 また、元職員は、巡回の際に使う吸水口などの安全点検マニュアルや点検設備リストは「記憶にない」とし、存在しなかったことを認めた。
 一方、99年から当時の大井町教委に勤務した元幹部によると、「部下から巡回、点検の報告を受けたことはない」という。ふじみ野市教委の吉野英明教育長は「旧大井町の職員の業務は料金回収だけでなく毎日、点検も実施していたと報告を受けている。料金回収だけが仕事だったとの認識はない」と話している。

この記事の元職員の証言はほぼ報告書内容と一致している。しかし、指定管理ではなくあくまで一部管理の実態としては大いなる矛盾をはらんでいるのに、委員会はあまりにも無自覚なまま記述している。

Ⅰ 市教育委員会
 市教育委員会(体育課)は、大井プールの開業後の管理事務は、次のとおり行っていた。
① 受託業者が、当日の管理業務報告書(日誌を含む。)及びプール使用料報告書並びに現金を整理する。
   ↓
② 受託業者は、翌日に前日の関係書類及び現金を総合体育館に勤務する市教育委員会体育課職員に手渡す。
   ↓
③ 体育課職員は、受託業者から関係書類及び現金を受領し、保管する。
   ↓
④ 体育課職員は、プールに出向いた後、総合体育館に保管している関係書類及び現金 を受領するために、館に出向き、確認をして、支所に持ち帰り、必要な事務処理    を行う。
(P42)

これこそが大井プールの管理業務の市の直接管理による一部管理の委託の実態なわけだ。そして管理業務の実態把握のための確認は「受託業者が、適正に管理を行っているとの認識から」不十分であったことが問題であると指摘するにとどめているだけ。

かくして報告書は、報道を事実関係を列挙していながら、様々な問題点にまともに答えることもなく、市に都合の悪い事実については、「わからない」の一言で事実認定すらこばんでいるかに見える。そういう類の報告書なのだ。
報道によると市長はこの報告書を被害女児の遺族に提出するという話だが、よしたほうがいいと思う。つき返されるか、あるいは「馬鹿にするな」と一喝されるか、たぶんにそうした類のものだと思う。こんな報告書にも税金がつかわれているということには、一住民として、一納税者としてどうにも納得がいかない部分も多い。
ただしこの報告書によって整理された疑問点、問題点は、これから今回のプール事件の本当の原因追求を行っていくうえでの端緒にはなるだろうとは思う。市独自の調査はおよそ信頼性がおけない。だからこそ、第三者機関や議会による徹底した原因及び責任追及が行われなくてはいけない。この報告書の意義がたった一つあるとしたら、そのためのたたき台の一つとして、資料の一つになりえるということだろう。
鈴木市議はこの報告書についてこう語っている。「この報告書はあくまでも議論の端緒として、ここから始めていきたいと考えています」
44名とふくれあがったふじみ野市議のみなさんが、みんなそういう気持ちで議会でこの報告書をとりあげていただくことを、半分は皮肉をこめて、半分は真摯に熱望する。報告書を幕引きに使うのではなく、これが議論のための幕開であればと思う。
報告書の最後の一文だけは私も大いに賛同しているのであえて引用する。

子どもたちが楽しく明るい夏休みを過ごせるよう、今度こそ「二度とこのようなことは起こさない、また、今回の事故を風化させない」ことを肝に銘じ、安全・安心なプールの運営を行って頂きたいことを念願するものである。
ふじみ野市は、平成18年7月31日の出来事を決して忘れてはならない。

本当にそのとおりなのだ。ただし、たぶんこれからの長き将来にあってもふじみ野市に市民プールは開設されることはなさそうでもあるのだけど。