恋愛小説家

恋愛小説家 [DVD]

恋愛小説家 [DVD]

  • 発売日: 2007/05/30
  • メディア: DVD
なにかここんところ映画ばかり観ているな、ほんと。暇かといえば、さほどそうでもないのだが。
昨晩はあと1日で休みだと思い、よせばいいのに12時過ぎからごそごそとDVDを引っ張り出した。
この映画は以前から評判だけは聞いていたけど未見だった。予備知識としては、ジャック・ニコルソンが自身三度目のオスカーを獲得した映画というくらいか。先日観た「ツイスター」の主演、ヘレン・ハントがこの映画に出ていること、しかもオスカー主演女優賞をとっていることなどを知り、がぜん観てみたいなと思ったりもしていた。考えてみれば、1本の映画で主演男優女優を同時受賞した作品なわけである。
これって凄いことなのかもしれないなと思い、さっそく調べてみる。

・第7回 「或る夜の出来事」
 主演男優賞:クラーク・ゲイブル
 主演女優賞:クローデット・コルベール

・第48回 「カッコーの巣の上で」
 主演男優賞:ジャック・ニコルソン
 主演女優賞:ルイーズ・フレッチャー

・第49回 「ネットワーク」
 主演男優賞:ピーター・フィンチ
 主演女優賞:フェイ・ダナウェイ

・第51回 「帰郷」
 主演男優賞:ジョン・ヴォイト
 主演女優賞:ジェーン・フォンダ

・第54回 「黄昏」
 主演男優賞:ヘンリー・フォンダ
 主演女優賞:キャサリン・ヘプバーン

・第64回 「羊たちの沈黙」
 主演男優賞:アンソニー・ホプキンス
 主演女優賞:ジョディ・フォスター

・第70回 「恋愛小説家」
 主演男優賞:ジャック・ニコルソン
 主演女優賞:ヘレン・ハント

けっこうあるものだね。でも、明らかに片一方は主演じゃないだろうとみょうにつっこみたくなるものもある。「カッコーの巣の上で」のルイーズ・フレッチャー、あの冷酷な看護士さんの役。あれは絶対助演女優だと思う。
他にも「ネットワーク」の本番中に自殺しちゃうアンカーマンを演じたピーター・フィンチも助演。「羊たちの沈黙」のレクター博士アンソニー・ホプキンスも衝撃的というか、まあ恐れ入っちゃうくらいの怪演技ではあるけれど、あれも助演だろうと思ったりもする。
これでホプキンスが主演男優ならば、例えば「ノーカントリー」のハビエル・バルデムだって十分主演男優だろうとも思うが、こっちは助演での受賞だったりもする。
そういう意味じゃオスカーの主演、助演の定義もけっこういい加減なのかもしれないなとも思ったりもする。一番いい例が1967年製作の「夜の大捜査線」。この映画は作品賞、主演男優賞他5部門でオスカーを受賞しているが、主演男優はなぜかロッド・スタイガーである。どこからどう見ても主役張っているのはシドニー・ポワチエのはずなのにである。
そうやって見てみると、男優、女優とも同列で見事な演技合戦の末の受賞、誰もがそれを認めるみたいな映画はといえば、「或る夜の出来事」と「黄昏」くらいかなとも思ったりもする。もはや2作とも古典の域に入ってしまう名作。
話は大幅にずれた、「恋愛小説家」についてだ。この映画での男優、女優の同時受賞はどうか。この映画はある意味ジャック・ニコルソンのワンマン映画みたいなものだと思う。いちおうヘレン・ハントはヒロインではあるけれど、ニコルソンの前ではやっぱり少々影が薄くなる。いい味だしているし、たいへん魅力的ではあるのだけど。
まあそのくらいニコルソンの怪演ぶりなのである。いつものことではあるのだけれど、ニコルソンの演技、存在感の前では、たいていの相手役は存在が薄くなる。まあしょうがないのかな。最近じゃ「最高の人生の見つけ方」でモーガン・フリーマンが競演していたが、さすがフリーマンは丁々発止とニコルソンと対峙するくらいの存在感を示してはいたけど、まああれは設定やら、役とかで得をしていた部分もあるのではとも思う。
そうやってみるとジャック・ニコルソンの役者としての存在感、偉大さが、なんかとてつもなく強調されるようだが、実は私、あんまりこの人評価していない。正直にいうと、たいへんあくの強い役者だとは思うが、なんかイメージ、役作り、その他もろもろがどうにも一辺倒だ。
だからどんな役を演じても、ある意味同じキャラ。役柄がどうのではなく、どんな映画に出てもジャック・ニコルソンでしかないのである。そして共演者を光らせるみたいな控えめな演技も実はあんまり出来ないのではとさえ思える部分もなきにしもなのである。
そんな彼が今回演じたのは中年の独身売れっ子恋愛小説家。でも実人生では、潔癖症で毒舌家の嫌われ者でおまけに少々神経症という変人である。そんな彼がレストランの子持ちウェイトレスに恋して・・・・、というのがお話。
しかしその変人ぶりがある意味常軌を逸している。歩道を歩いていても、石張りの継ぎ目はけっして踏まないようにして、ひょこひょこ歩き、通行人にぶつかってばかりとか。またその毒舌も、あまりにも自己中心的でうんざり。こんなやつ普通いないだろう、あるいは市民社会から完全にスポイルされちゃうんじゃないかとさえ思えるくらいに凄いのである。
映画的に戯画化している部分もあるのだろうが、ここまで変人だと、しかもそれを思い切りあくの強いニコルソンが演じると、まったく感情移入できない、正直うんざりキャラである。だから彼のシングル・マザーのヘレン・ハントに対する純愛みたいなものが、全然伝わってこない。
またハントもじょじょに心を開いて、ニコルソンを受け入れ、理解していくみたいな設定も、どうにも納得できなかったりもする。普通、どんなに金銭的に援助されたり、真摯な愛情を寄せられたとしても、あそこまで変人、毒舌では許せんだろうと、まあそう思ってしまうわけ。
そういう意味じゃ、この映画は個人的にはブー。ようはジャック・ニコルソンが小粋なニューヨーカーして、小粋に恋愛なんかしちゃいけないということかな。やっぱり彼は無精ひげ生やして、鉞かついでドア叩き割っていてくれなくてはと。
そうそうヘレン・ハントは。彼女はいいよ。いい演技してたし、たいそう魅力的。こういうどこにでもいそうな、ちょっと魅力的なおねえさんキャラがたまらないという感じである。