西洋美術館巡り雑感3

 
 西洋美術館の「北斎ジャポニスム展」ではロートレックの「ムーランルージュのポスター」を、東京都美術館の「ゴッホ展」ではゴッホの「アルルの寝室」を観た。それぞれ画家の代表する名画の一つである。そしてそのいずれも高階秀爾の名著『続名画を見る眼』で解説されている作品だ。「アルルの寝室」は同じものが何作かあるようで、展示してあったのはファン・ゴッホ美術館所蔵のものだ。
 本の中ではそれぞれの絵について細部にわたるまでの解説があり、それぞれの絵を通して画家の特性が理解されるようになっている。惜しむらくはこの名著の図版はモノクロなのである。なので色調についての解説もまったく理解しずらいものになっている。もともと1971年に出たロングセラーであるだけに、当時としてはカラー印刷はコスト的にも難しかったのかもしれない。新書という廉価な教養書にあってはなおさらだ。
 しかし出版の技術革新も進んでいる。今では比較的安いコストでカラー印刷も可能になっている。随分前から岩波新書の『名画を見る眼』『続名画を見る眼』の2点については、いつか図版をカラー化した新版が出ればいいとずっと思っていた。
 金がかかるので難しいのだとは、出版社から声が聞こえてきそうでもある。とはいえつい最近も同じ高階秀爾のこれも名著、ロングセラーである『近代絵画史』上下巻がオールカラー版として刊行されている。『応仁の乱』が異例のベストセラーとなるなど好調な儲かっている中央公論だから出来ることかもしれないのだが、やれば出来るのである。
 高階秀爾のこれらのロングセラーはまだまだ商品価値は尽きることなく、絵画好きの入門書として、また学生たちの教科書として息長く売れ続けていくのだろうと思う。それを思うとロングセラー本を今の技術に基づいてリニューアルするのは出版社の使命なのではないかと、そんなことを思う。『名画を見る眼』正続二冊の新装版オールカラー強く願うばかりだ。