『スノーピアサー』

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スノーピアサー | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

映画『スノーピアサー』公式サイト

 ポン・ジュノの旧作を遡行している。これもまたNetflixで観た。

 2013年の作品で、クリス・エヴァンスティルダ・スウィントンエド・ハリスオクタヴィア・スペンサーなどスター俳優を揃えた米、仏、韓の共同制作作品でポン・ジュノのハリウッドデビュー作品だ。

 ストリー(公式サイトから引用)。

2014年7月1日、年々深刻化となる地球温暖化を防ぐため79カ国によって人工冷却物質が散布された。その結果、地球は新たな氷河期に突入。地球を1年かけて一周する列車「スノーピアサー」に乗り込んだ者だけが生き残った。それから17年後の2031年。氷に覆われた地球上では、永久不滅のエンジンを有する「スノーピアサー」だけが人類にとって唯一の生存場所だ。だが、最後の人類を乗せたこの「ノアの箱舟」は、富裕層と貧困層とに分けられ、無賃車両である最後尾車両は、スラム街さながらにみすぼらしく汚れ、飢えた人々で溢れている。その一方、豪華クルーズ船のような前方車両の乗客たちは氷河期以前の地球上での生活と変わらない日常を送っている。列車が走り始めて17年間、この列車の主、ウィルフォード産業によって虐げられてきた歴史を変え平等な世界を取り戻すべく、カーティスは仲間と共に革命を企て、ウィルフォードがいる先頭車両を目指すが――。 

  この作品はエンターテイメント的にも、SF近未来物語としても傑作の部類に入ると思う。とにかくダレ場がない。お話自体にはリアリティがない。地球が氷河期に突入し、地球上を永久機関によって走り続ける列車の乗客だけが生存者。しかも列車内は先頭車両をヒエラルキーの頂点に、最後尾車両を最下層とする並列的な階級社会が構成されている。永久機関、列車内の階級社会、まずありえない設定でありながら、それをリアリスティックに描くところは、ポン・ジュノの脚本力、演出力である。

 ポン・ジュノは、『スノーピアサー』、『オクジャ』とキャリアを重ねて、その先に『パラサイト』の成功、アカデミー賞4冠(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)があるということがうなずける。

 『オクジャ』では宮崎駿作品を想起させるような部分があり、ポン・ジュノもそれをインタビュー等で話している。韓国の山奥での巨大生物と少女の交流が、『となりのトトロ』の雰囲気に似ているとはよく話題になる。これに対して『スノーピアサー』はなんだろう。

 列車を舞台にしたアクションやサスペンス、スター級俳優が多数共演、しかも雪原を疾走し雪崩に襲われるとなると、思い出されるのは『アバランチ・エクスプレス』だ。

アバランチエクスプレス - Wikipedia

 『スノーピアサー』はもともとフランスのグラフィックノベルが原作だということだが、映像化に際して『アバランチ・エクスプレス』がポン・ジュノは意識した部分はあるだろうか。

 さらに列車内の階級社会、その中でのグロテスクな近未来ディストピアという世界観は、自分にはどことなくテリーギリアムの映画を思い出させる。『未来世紀ブラジル』や『12モンキー』のような未来なのに、どこか前近代的な雰囲気が漂うディストピア世界。醜悪でグロテスク、そして悪趣味。『スノーピアサー』で最後尾の貧民たちに支給される食料、ようかんあるいはういろうのようなあの食べ物の原料をみた時、あっ、これはテリー・ギリアムモンティー・パイソンだなと直感した。悪趣味の極みだもん。

 たぶんポン・ジュノは様々な映画を観て、それを消化してきた映画少年だったのだろう。かってのヌーベルバーグの監督たちが、あるいはスピルバーグら現代の巨匠が、みんなかっては映画少年であり、その作品は先人たちのオマージュともいうべきものがちりばめられている。ポン・ジュノの作品にも当然そういうものがあるのだろうと思う。

 『オクジャ』を観て思ったが、ポン・ジュノティルダ・スウィントンを高く評価しているのだとは思う。しかしその使い方はというと悪趣味というかなんというか。多分にティルダ・スウィントンの冷たい美しさ、スマートな立ち居振る舞いの中に、どこか異常なものを感じとったのかもしれない。

 自分も実は彼女の異常性を『バーン・アフター・リーディング』を観て感じた。あの時の彼女は確か、ヒステリックかつサディスティックな小児科医を演じていた。子どもが泣こうが騒ごうが、冷静かつサディスティックに治療を続ける。正直、こんな医師、小児科医は嫌だと思ったもんだ。ポン・ジュノは彼女のクールな表情の中に、ある種の変態性、異常性を見つけたのではないか。それが今回の映画の中ではこういうキャラクターになったということだ。

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 とりあえずもうしばらく、ポン・ジュノ過去作品の周遊を続けようかと思っている。次は『母なる証明』とか『殺人の追憶』あたりか。

 『スノーピアサー』は2020年からアメリカでテレビドラマ化され、今年からはシーズン2も開始されている。ポン・ジュノは製作総指揮をとっており、日本ではNetflixで配信されている。とりあえずこっちについては今のところ観る予定はないかな。