引き続きガトー祭りが続いている。このアルバムは1971年作、フライング・ダッチマン・レーベルでの2作目。
1973年にリリースされた名盤『アンダー・ファイア』も録音されたのは1971年なので、この年のガトーは快進撃という感じだけど、ガトー・バルビエリは1932年生まれでこの年39歳。ジャズ・プレイヤーとしてはもう円熟味を増す時期。自分も70年代に彼のアルバム聴き始めているんだけど、もっと若い人、20代のミュージシャンみたいなイメージだった。まあフリー系の人はみんな若いっていうイメージがあった。
ウィキペディアによると50年代に同じアルゼンチン人の作曲家兼ジャズ・ピアニスト、ラロ・シフリンのオーケストラに加入したあたりからキャリアをスタートさせたとある。あのラロ・シフリンである。『ブリット』『ダーティー・ハリー』『燃えよドラゴン』のラロ・シフリンだ。70年代、カッコいいアレンジの映画音楽といえばラロ・シフリンかクィンシー・ジョーンズみたいなイメージがあった。
ウィキペディアで確認すると、ラロ・シフリンは長いキャリアがあるのにアカデミー賞取ってないんだ。最終的に名誉賞を取っているようだけど、あれだけヒット曲があるのになんでというような感じがする。まあどちらかというとB級アクション系が多く、いわゆる大作、名作がないということもあるのかもしれない。ラロ・シフリンもガトーと同じ1932年生まれで88歳、まだ存命のようだ。
ガトー・バルビエリと同世代のサックス奏者というと、例えばウエィン・ショーターが1933年生まれで1つ下。ハンク・モブレーが1930年生まれで3つ上、ティナ・ブルックスが同じ1932年生まれ、スタンリー・タレンタインが1934年生まれで2つ下となる。そういう意味じゃアルゼンチン出身ということを差し引くと、かなりキャリアの長い人だったことがわかる。
ちなみにコルトレーンは1926年生まれでマイルスと同い年、ロリンズは1930年生まれ、我らが渡辺貞夫は1933年生まれである。そういう意味じゃ20年代に生まれたトレーンやマイルスは別にしていえばみんな30年代生まれの同世代ということになる。まあほとんどが物故者になってしまったけど、みんなジャズ・ジャイアントということになるんだと、改めて思う。
『フェニックス』に戻る。
〇 パーソナルは以下のとおり。
ガトー・バルビエリ (Gato Barbieri) - テナーサックス
ロニー・リストン・スミス (Lonnie Liston Smith) - ピアノ、エレクトリックピアノ
ジョー・ベック (Joe Beck) - エレクトリック・ギター (トラック 1)
ロン・カーター (Ron Carter) - エレクトリックベース
レニー・ホワイト (Lenny White) - ドラム
ジーン・ゴールデン (Gene Golden) - コンガ、ボンゴ
ナナ・ヴァスコンセロス (Naná Vasconcelos) - ビリンバウ、ボンゴ
〇 ソングリスト
1曲目はアップテンポのラテンリズムにのせて朗々と歌うようなガトーのサックスだ。エモーショナルにしてクールな感じ。2曲目の「カルナバリート」はこのアルバムの中でも異彩を放つもっともフリーな方向に振った作品。ラテンというよりもアフロ・ビート、どことなくポリリズムを想起するような断続的なリズムの中で、ガトーのサックスが咆哮する。この曲はその後もライブ等でも何度も演奏され、それこそ灼熱の疾走みたいな感じだ。
そこから3曲目の「ファルサ・バイアーナ」は一転してソフトなボサノバ風の演奏。80年代から90年代にかけてのメローな雰囲気のいわゆる売れ線的なガトー・バルビエリの発端はこのへんにあるか。
当時ガトーは39歳。60年代はフリージャズまっしぐらだったところに、自らの出自ともいうべきラテン・ビートを取り込んで独自のスタイルを形成したのがこのフライング・ダッチマン・レーベル時代だ。様々なスタイルでの演奏を行ってきているだけに、フリーっぽいものから、イージー・リスニングまでなんでもこいというところだったのかもしれない。
個人的にはしばらくガトー祭りが続きそうな感じだ。70年代のガトー、80年代のガトーを行きつ戻りつしていくことになりそうだ。