越生の大学病院へ

 兄の付き添いで越生の大学病院へ行く。

 ここは駅からほど近い山の斜面に建て増し、建て増しで病棟と学舎を建てていったようなところ。車で行くと受付のある建物からさらに上の方まで行ってから駐車場に車を止める。そこからまた長い距離を下って戻る。

 以前、カミさんをここの病院にかからせるべく連れて行ったのだが、運悪く障害者用の駐車場ば満車のため、やむなくこの病院にかかるのを断念した記憶がある。

 超高齢化社会で障害者だけでなく、高齢者も車椅子利用者が増えている状況で、この病院のバリアフリー度はかなり低い。同じ系列の病院は日高と川越にあるが、そちらはもっと駐車場が充実していてアクセスしやすいのだが。まあ埼玉県にある医大系の病院はほぼこの大学だけなので、ほおっておいても患者は集まってくる。多少アクセスが悪くても問題なしというスタンスなんだろうか。まあ山の斜面に建て増しだから、これはもうどうしようもないということか。

 兄がこの病院にかかるようになったのは一月少し前だという。白癬菌の感染で足の親指に剥離がありそれが悪化したのだというのだ。さらにその部分が壊死し始めているうえに、下肢に動脈硬化があり、そのため自然治癒は難しい状態なのだとか。普段、人工透析で通っている病院からきちんと大学病院で診てもらうようにということで、紹介状を書いてもらって通い始めたという。

 今回、自分が付き添うことになったのは、手術の場合、入院となるため、家族としてきちんと医師からの説明を受ける必要があるからということだった。なんかすでにその話を電話で聞いただけで暗くなってくる。去年の暮に転倒事故を起こして入院したときのことを思い出している。また入院費は全部自分がみなくてはいけない。

 9月末で失職してわずかなばかり支給される年金だけの生活に入る身にとっては、兄の存在はかなり負担になる。そういうことを考えるとなおさら暗雲垂れ込める思いだ。

 医師から聞いた病状は、足の親指は腐骨といって骨が腐ったで、病状は骨髄炎というのだ。処置としては親指の部分を切除、ようは切断することになるという。ただし、兄は糖尿や人口透析の影響もあり、血流が悪く、閉塞性動脈硬化症の初期段階にあるのだという。これが悪化すると足をまず膝から下を切断みたいなことになるのだという。ただし、現段階では軽症の部類なので、まずはカテーテルを通して血流を良くする処置を行うのだとか。

 しかしカテーテルについてはこの病院には旧式の装置しかないので、最新式の装置のある栗橋病院でやってもらうことになるかもしれないという。なんだか大掛かりな話だ。しかし最悪、膝下を切断となると兄は今の生活を維持するのは難しくなる。

 今住んでいるのは5階建ての公団住宅の5階である。10年前に失職し、借金と病気を抱えた兄のために急遽購入したところだ。よもやその時には透析を受けるなんて思いもよらなかった。正直なとことをいえば、高血圧、糖尿病で腎臓に問題があるということでいえば、10年のスパンで兄のことを考えてはいなかったかもしれない。

 こっちも障害のある妻を抱え、子どももまだ小学生だった。兄を当時住んでいた横浜から移す必要があったし、すぐに動いて格安物件を探して即購入し引っ越させた。そういう事情だから兄が今後、上層階での生活が困難になるかもなんてことは考えにくかった。しかし今、それが現実となっている。

 医師からは今後、1~2回通院して検査を行い、状態が良ければすぐに親指切除の手術。もし状態が悪ければカテーテルによる血行再建術を行い、それから手術ということになる。

 親指を切除して満足に歩けるのかどうかも一応聞いてみた。医師は問題ないとは言っていたが正直気がかりでもある。昔、観た映画『俺たちに明日はない』で主人公、ウォーレン・ベイティが演じたギャング、クライドは、刑務所に入っているとき苦役を逃れるために、斧で自らの足の親指を切断したという話があった。なのでクライドは足を引きずりながら歩いていた。あのイメージがあるので、高齢な兄が足の親指を切除して今までどおり歩くことが出来るのかどうか、本当に気がかりだ。

 診察を終えてからは、兄に昼食をご馳走してあげてから家まで送った。それから家に戻って車を置いてから都内まで出かけることにした。