ジョニ・ミッチェル〜ドンファンのじゃじゃ馬娘

ドンファンのじゃじゃ馬娘(紙ジャケット仕様)

ドンファンのじゃじゃ馬娘(紙ジャケット仕様)

 

 ここのところジョニ・ミッチェルにまたハマり出している。70年代後半からそれ以降を集中して聴こうと思っているのだが、このアルバム探しても見つからない。早速ポチってみた。

 1977年の作品で二枚組、実験的な作品とか難解と称されることの多いアルバム。「Hejira」と「ミンガス」の間の作品で、ジョニがジャズに傾倒していた時期といわれる。が、改めて聴いてみるとこれはジャズやフュージョンとは別種のジャンル、そうジョニ・ミッチェルというジャンルが形成されつつある作品といえる。かってフォークと同様にオープン・チューニングによるアコースティック・ギターをフィーチャーしたオルタナティブサウンドだ。

 60年代から70年代初頭のサウンドと異なるのはなにか。当時新進気鋭のベースシストだったジャコ・パストリスが全面的にフィーチャーリングされていることだ。前作「Hejira」では数曲に参加しただけのジャコがこのアルバムではほとんどすべての曲でフィーチャーされている。このアルバムはある意味、ジョニとジャコのコラボアルバムといってもいい。

 ジャコ・パストリアスのうねるようなベースとジョニのオープンチューニングによるアコースティック・ギター。前作で「コヨーテ」、「ブラック・クロウ」で展開されたフォークロックとジャズのコラボレーションがより深化している印象だ。アンプラグドなサウンドが70年代後半の時期に、ここまで展開されているのだ。この頃のジョニ・ミッチェルは多分、時代のだいぶ先をいっているような気がする。

 アコースティック・ギターとベース、パーカッションというシンプルな構成、多分オーバーダビングでサウンドを重層的に積み重ねている。コーラスのほとんど場合、ジョニによる多重録音だ。ある意味でこのアルバムは彼女のプライベートアルバムの色彩が濃い。この頃、ジャコ・パストリアスは公私共にジョニのパートナーだったという点も含め、親密な雰囲気のレコーディングだ。

 とはいえ、ジョニ・ミッチェルのスタンスは甘美なものとは別だ。この人は恋愛を続けていても、自己をどこかで突き放して見つめているような部分がある。甘いロマンティシズムとは無縁。そう彼女の世界はどこかハードボイルドな様相を帯びているといったら言い過ぎだろうか。


Joni Mitchell - Talk To Me

 この曲はまさに前作「Hejira」のコヨーテの延長上にある。彼女のアコースティック・ギターと寄り添うジャコのベース。

 さらにそうした曲調の頂点を迎えたともいえるのがアルバム表題作だ。


Joni Mitchell- Don Juan's Reckless Daughter (Album Version)

 ギターはもちろんジョニのオープン・チューニングだ。そこにベースとパーカッションだけで展開される。コードはC、F、Gの循環で時にB♭やAが挿入される。

 ネットでググるとジョニのオープン・チューニングについて解説しているのがあったりする。

Joni Mitchell - Notation

 そしてタブ譜もあったりする。マニアックな人もいるようだ。

https://jonimitchell.com/music/guitarfiles/17.pdf

 さらに曲を聴きながらコードを追えるサイトまである。楽しい。

 このアルバムが1977年製作であることを考えると、改めてジョニ・ミッチェルの先駆性を考えてしまう。この後、スタジオ録音の「ミンガス」、さらにジャズ・フュージョンを抱合したサウンドの集大成といえるライブ盤「シャドウズ・アンド・ライト」を1980年に発表。80年代はよりポップでロックな方向へと舵をとる。同時にジャコ・パストリアスとも決別する。

 当時、ジョニは34~37歳くらい。女性としても、ミュージシャンとしても円熟期にある。ジャコ・パストリアスは8つくらい下になるのだろうか。やや皮相な言い方をすれば若い才能を吸収し、次なるステージへと進むということか。彼女はプライベートでもウェットとドライの二面性を有しているのだろう。

 何かのサイトで読んだが、彼女はプライベートで家事とかにほとんど興味がないしい。それらは彼女の秘書がやる。彼女は日常のすべてをクリエイティブな部分に注ぎ込んでいる。絵画と音楽だ。みたいなことが書いてあった。

 彼女に子どもがいるのか、育児や母性の部分はどうなのか。これは有名な話ではあるが、彼女は22歳の時に私生児の娘を出産している。しかし子どもを育てることができず、すぐに里子に出す。その娘と再会するのは1997年のことらしい。ジョニは54歳、子どもは32歳のことだった。 

 若くして出産し、子どもを手放したことは、ジョニにとっては大きな喪失感となって、彼女の歌詞にも反映されているという。母性と喪失感、しかし彼女はそれに浸り続けることはなく、自分を見つめ直す強さをも持っているように感じる。彼女は抒情的な歌詞もつづる。しかし彼女の本質は多分、タフ、ドライ、クールにあるのではないかと思ったりもするし、それがまた人を惹きつけるところなのかと思ったりもする。

 まあ適当な想像みたいなものではあるけれど。