総選挙雑感

 予想通りというか、残念を通り越して絶望的な落胆を隠せないというか、日曜日に行われた衆院議員総選挙は自公の圧勝に終わった。森友加計問題で安倍内閣への疑惑、不信感が高まっていたというのに、とてつもない圧勝である。安倍一強内閣による理不尽な横行にやっと国民も気がついてきたはずなのに。
 正直、現実から目を背け趣味的世界に没頭したいところだ。もうさほど長くない人生の中で、これから5年の長きに渡って自民党の横暴を目にし続けなくてはならないのである。これは老身にあっては正直きつい。思いついたことを脈絡なく書くことにする。
 今回の解散はまったく大義のない解散である。後付け的に北朝鮮のミサイル脅威や、消費税の使い道を子育て支援に振り替える点などを安倍が強調したのだが、解散以前にそんな話はまったく出てきていない。マスコミ等が論じたように解散に至ったのは、野党にまったく準備が出来ていなかったこと、特に野党第1党の民進党が組織的に弱体化し、離党者が相次いだ状況にあったことが最大の理由である。
 解散の際には、解散権は総理大臣の専権事項という話が喧伝されたが、そんなことは憲法上まったく規定がない。唯一、解散が天皇に国事行為であり、それを内閣の助言の元に行うということを拡大解釈しているだけのことだ。この拡大解釈は戦後すぐの混乱期に、吉田茂が党利党略のために行った。
 安倍もまた野党が弱体化しているタイミングでの解散という、まさに党利党略の暴挙を行った。そこに、安倍が解散を宣言したその日の午後に、東京都知事小池百合子が新党、希望の党の立ち上げを発表した。すると都議会選挙でも小池の私党ともいうべき都民ファーストが圧勝し、惨敗した民進党は浮き足立ち、代表である前原は小池との会談ののちに、民進党希望の党に合流させると宣言する。野党第1党が立ち上がったばかりの新党にすべて合流するという前代未聞の状況となる。
 当初、民進党の議員はすべて希望の党から立候補するはずだったが、狡猾な小池百合子憲法改正や安保法への賛意という踏み絵設定し、民進党のリベラル派を排除する意向を示した。これによってすべては混乱した。排除されることが濃厚となったリベラル系議員は、ある者は無所属で出馬を余儀なくされた。そして民進党の代表選で前原に破れた枝野がリベラル系議員が寄って立てるように立憲民主党を立ち上げて。
 結果として野党第1党は三つに分裂し、巨大与党である自民党公明党への対抗軸としては弱いものになってしまった。さらに当初、自民党への対抗軸となるはずであった小池新党希望の党は、小池百合子排除の論理発言から失速した。結果的には野党は惨敗し、旗色鮮明となった枝野の立憲民主党が50数議席でありながら、野党第1党となり、希望の党はわずかの差で第2党となった。本来、自公や民進党など既成政党に飽き足らない層の受け皿であったはずの共産党へ行く票は立憲民主党に向かい、共産党もまた議席を減らすことになった。
 すべては解散を強行した安倍自民党の思い通りということになった。安倍の解散と小池の新党の立ち上げ、それに呼応するように分裂した民進党、それらは偶然的に軌を一にしたのか、あるいは野党分裂と安倍自民党政権の一強体制を継続するために、周到に仕組まれたものなのかどうか、そのへんは多分何十年とかけて、資料や証言により歴史家に読み砕いてもらうしかないかもしれない。しかし仕組まれたものであるとすれば、腑に落ちる点も多々あることだけはわかる。
 さらに投票日に日本列島を襲来した台風もまた与党に加担した。本来、安倍自民党に嫌気がさし、今回はお灸を据えるかと思っていた無党派層は多分、台風の中投票所に向かうことなどはありえない。雨が降ろうが義務感にかられ投票所へやってくるのは創価学会を中心とした組織票の人々だ。案の定、投票率は過去最低となった。
 この選挙の結果から導きだされるのはただ一つ。戦後日本を戦争の危機からずっと守ってきた憲法がいよいよ改正されることが確実となった。戦力保持を禁止し、世界に対する理想を高らかに宣言した憲法9条は改竄され、自衛隊が軍隊として憲法に規定されることになる。戦後が終焉し、おそらく、おそらくだが、戦後といわれた我々の生きる歴史は、戦間期と呼ばれることになるのだろうということだ。
 強権的な与党による一党支配は、この国についぞ民主主義が定着しなかったことの証でもある。敗戦の結果ではあったが、東アジアにあってもっとも民主的であるはずだった日本は、軍事的な負担を負うことなく、それらを経済に向けることで繁栄してきた。しかしその繁栄もまた巨大国家中国の後塵をはいして久しく、民主制においても韓国や台湾が先行し始めている。政治的にも経済的にも一等国となることなく、明治以後の永続的な普請を繰り返していた国は、いつのまにか老朽化してしまったようだ。
 この国に未来はないのかもしれない。少子高齢化により衰退し、アメリカの意のままに民意を塞ぎ強権的な政府が経済的富裕層と一体となって、わずかな富を独占する国となる。戦後に生まれ、一度も戦争を経験することなく人生を謳歌してきたはずの我々の世代は、ひょっとしたら人生の最後に戦争を経験することになるのかもしれない。
 絶望に打ちひしがれる、そういう諸々がのしかかる選挙結果である。