冷却配管地震で破損か

asahi.com(朝日新聞社):3号機の冷却配管、地震で破損か 津波前に - 東日本大震災
メルトダウンの件にせよ、最近になって東電からこうした後だしジャンケンのごとくに不都合な事実が出てくる。いずれも事故当時、そうした点をすべて否定してきていた事柄である。
今回の配管の損傷は、これまでの東電、通産省、政府の発表にあるように、福島原発地震での損傷はなかった。高い耐震基準を満たしている原発は、過酷な地震の揺れにも耐え抜いた。しかし想定外の津波により電源が喪失して炉心冷却の術がなくなったと。まあそうした説明がある意味公式的な見解だったはずなのだが。
朝日の記事にもあるが、配管の損傷は津波によるものではなく、地震によるものである。そうなると原発設備の耐震設定にも問題があったのではないかという疑念がでてくる。そもそも絶対安全なはずな原発であったはずなのにと。
しかしこのへんの話も原発震災の初期の段階から実は専門家、特に反原発の側に立つ方の間からいくらでも出ていたようにも思う。東電、通産省情報隠蔽、その他もろもろの中で小出しされる情報だけを分析しながら、メルトダウンや配管損傷の可能性が論じられていた。ある意味、専門家からすれば、今東電が後だししてきた公表したものは、それこそ既知の事実なのかもしれない。
私が最初に配管損傷についての記事を読んだのは、おそらく『世界5月号』の田中三彦氏の「福島第一原発事故はけっして”想定外”ではない」だったと思う。以前この号の特集記事等については紹介したことがある。
世界5月号 - トムジィの日常雑記
発売が5月上旬だったから、この記事を田中氏が書かれたのは本当に事故発生から一週間程度のことだったはずだ。
いくつか印象的な箇所を引用する。

ここで誤解なきよう付け加えるなら、現在進行中の福島第一原発事故の原因として多くの人が言及する大津波電源喪失も、私がこの先述べようとしている冷却材喪失事故とは関係がない。つまり、私が思っていることは、配管が地震時に激しく揺れて破損し、その破損箇所から高温高圧の冷却材(水または水蒸気)が猛烈に噴出したのではないかということ。電源喪失という事態がこの冷却喪失事故と関係しはじめるのは、あくまで”噴出後”である。
P135

論理的に矛盾しない答えを見いだすのはそう難しくない。強い地震動にさらされたために、原子炉圧力容器を出入りしている管のうちのいずれかが---たとえば、かねがね地震時の健全性が問題にされてきた再循環系配管が---破損(または破断)し、そこから冷却材が大量かつ継続的に噴出する冷却材喪失事故が起こり、そのために格納容器の圧力がどんどん上昇し、設計圧力の二倍にまで達した、というのがその答えである。
P139

田中氏の推論はもっぱら1号機についての言及である。今回東電が発表したのは3号機であり、そのまま田中氏の推論が適用できるわけはないのかもしれない。しかし、1号機も2号機、3号機もほぼ同じ道程をたどったのではないかと考えてもなにも問題はないのでと私などは思う。
ようは電源喪失だけでなく、地震により原発が損傷を受けた可能性が、出されるデータからも高いということなのだ。そしてそれを当事者である東電が2ヶ月もしてから、その一部認めたということなのである。
『世界』の著者略歴によると田中三彦氏は元々は原発の技術者であり、福島第一原発4号機の原子炉圧力容器設計にも携わった方だという。こうした人が原子力村から離れて、様々な著作を通じて反原発の論を唱えている。反原発論者は非現実的な<運動家>であり、ある種の感情論から非科学的に原発を否定しているだけという、原発推進論者がいかにも貼りそうなレッテルからは一番遠いところにいる方だと思う。
政府が立ち上げようとしている「事故調査・検証委員会」には、こうした方をぜひ入れて欲しいと思う。ただし原発推進の元締めでもある経産省がこうした委員会も主導していくだろうから、反原発の立場の人間が入ることはほとんど難しいのだろうけれど。