『太陽の蓋』を観る

 昨晩遅くDVDで『太陽の蓋』を観た。これ観るのは2回目になる。DVDが出てすぐにTSUTAYAで借りてきた。

太陽の蓋 [DVD]

太陽の蓋 [DVD]

  • 出版社/メーカー: オデッサ・エンタテインメント
  • 発売日: 2017/03/02
  • メディア: DVD
 

  3.11原発震災時の政府の対応を内側から描いた社会派ドラマである。菅直人総理、枝野官房長官、福山官房副長官、寺田学総理補佐官など、現在も政治家として活躍する人々が実名で登場する。しかし東電は東日と変わっているように、これは事実に基づいたフィクションという形になっている。

 内容的には当時の情報がまったくあがってこない中で悪戦苦闘する政府中枢の姿が描かれている。となると情報をあげることが出来ない東電や経産相官僚たちが悪く描かれることになる。なのでそのへんは実名を使うことを避けたということなのだろう。

 この映画のレビューを見ると、何人かの方がこれは民主党寄りの映画、もっと悪様に民主党政権のプロバガンダといった論調もあるにはある。確かに菅元首相にしろ、福山官房副長官にしろ、よく描かれ過ぎている部分もなきにしもかもしれない。

 しかし自分も3.11関連の本は何十冊も読んでいる。特に原発事故については事故調の報告書も含めて読んでいる。そのうえで言えば、この映画に描かれているのはほぼほぼ事実に即しているといっていい。

 原発震災を巡っては事故対応の不手際の総てを当時の民主党政権に全部おっ被せたという印象が強い。これは当時の野党自民党経産相を中心とした官、さらにマスコミが先頭にたった反民主党政権キャンペーンだったと記憶している。

 なので誰彼となく怒鳴り散らし、現場に介入する無能な菅直人というイメージ、適切な対応策を出せない民主党政権というレッテル貼りが功を奏して、国民の意識に情けない民主党政権が刷り込まれてしまっている。その結果が、自分などからすればより無能な安倍自民党政権の長期化した現在の姿に繋がっている。

 あのとき、全電源喪失により暴走した原発への対応を現場は本当によくやった。しかしその結果は1号機、3号機の爆発、2号機の圧力容器の破壊による大量放射性物質の大気への放出だ。暴走した原発に対して現場はまったく無力だったのだ。

 この映画でも描かれる事故の最悪のシナリオは、東日本の全滅である。それが避けられたのは偶然の賜物なのだ。あの時、たまたま4号機内に核燃料プールに水が入り込み、保管されていた核燃料の溶融が避けられたのだ。水が入り込まなければ燃料は暴走を続け、場合によっては大爆発を起こし大量の放射性物質がばら撒かれた。それによりイチエフから250キロ圏内は人が住めない状態になる。そこには首都東京も含まれていた。

 そうした状態でほとんど竹槍でB29と撃ち落とすような試みを続けていたのがイチエフの作業員たちだったのだ。それに対して東電本店はというと、機能不全をおこした大会社よろしく撤退のための稟議書作成などという悪しきお役所主義に陥っていた。

 そして原発政策の元締めたる経産相とその下部機関である保安院は、もう何をしていいのかまったくわからない状況に陥っていた。さらに原発推進を進めてきた科学者たちも無責任な物言いばかりである。

 適切な情報、適切な科学的アドバイスのない中で、政府中枢はただただ暗中模索的空回りを続けたのだ。それがあの時の状況であり、この映画で描かれた総てだ。

 事故が2年してから、この映画の狂言回しとなる新聞記者が福山元官房副長官にインタビューをするシーンがある。そこで福山は当時まったく情報があがってこなかったことを力説する。すると記者は、情報が上がってきたら適切な対応がとれるのかと問う。福山はそこで絶句する。

 そうなのだ、事故を起こしいったん暴走した原発に対して、人類は適切な対応などとることができないのだ。それが実はこの映画が一番伝えたかったことかもしれない。そしてもし最悪のシナリオが現実化して東日本がダメになった時、人々は西へ逃げる。しかし西日本にも福井の原発銀座を中心として原発が目白押し状態だ。この国はさながら原発列島であり、原発事故から逃げとおすことなどできないのである。

 この映画にいくつかのスピンオフドラマがあり、DVDの特典映像として観ることができるほか、YouTubeでも観れる。その中には稚拙で青臭い展開もあるが、原発事故の本質がより鮮明にダイレクトに描かれてもいる。

 『太陽の蓋』は原発に囲まれて暮らす日本国民が絶対に観なくていけない映画だと思う。自分的にはこの国で制作された原発を題材にした映画、どれもそれらは秀逸な作品が多いのだが、『太陽を盗んだ男』『東京原発』と共に長く観続けられていくべきだと思う。

映画『太陽の蓋』上映後のトーク(菅直人氏、福山哲郎氏、橘民義氏ほか) | IWJ Independent Web Journal

【 【映画「太陽の蓋」について率直な感想】 】寺田学のオフィシャルウェブサイト マナブドットジェーピー [ Manabu.jp ]

超映画批評「太陽の蓋」65点(100点満点中)

「太陽の蓋」のネタバレあらすじと、民主党との関係を調べてみた


原発事故の惨劇を描く/映画『太陽の蓋』スピンオフ映像1


原発事故の惨劇を描く/映画『太陽の蓋』スピンオフ映像2


映画『太陽の蓋』スピンオフ第3話 最悪のシナリオ