『福島第一原発収束作業日記』

福島第一原発収束作業日記: 3.11からの700日間

福島第一原発収束作業日記: 3.11からの700日間

  • 作者:ハッピー
  • 発売日: 2013/10/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
年末に読んだまま感想を書こう書こうと思っていながら、つい忙しさにかまけて失念していた。Twitterで話題となっていた福島第一原発作業員ハッピー氏の日々の所感的ツィートをまとめたものだ。
ツィートを書籍化したものには、それこそまんまツィートを文字起こししたようなスカスカのものがあるのだが、本書は連投ツィートにさらに加筆されているようで内容的には相当に濃いものになっている。ハッピー氏の原発に対する知見の深さ、広さによるところが大なのだが、それと同時に編集者の力量も感じさせる書籍だと思った。あとがきに編集者の言葉が著者からこう紹介されている。
「ただの”ツィッター本”にはしたくなくて、将来読んでも価値のある歴史の1ページになるような本として出版したい。ツイッターをみてない多くの人たちにも読んでもらいたい」
この編集者の意気込みがかなりの部分で体現されているとも思った。
本書はイチエフのまさしく現場レポートであり、それはマスコミ報道では伝えられない多くの事柄にあふれている。さらにいえば少なくとも一般の人たちよりは多少とも原発関連の書籍に触れる機会を多くしてきた自分にとっても(たぶん少なくとも20〜30冊は読んでいるとは思う)、初めて知ることもあった。いろいろと細かく感想を述べていきたいところだが、とりあえず本書のエピローグが私自身のイチエフの事故とそれによって引き起こされた様々なことへの認識を新たなものにする記述にあふれていた。それをメモとして引用させてもらう。

収束作業は東電から切り離して
やっぱ1F(イチエフ)の収束作業は、東電から切り離して、コスト度外視で新たな組織でやるしかないと思う。1Fを東電から切り離さない限り、いくら国税を投入しても、東電はコスト削減を徹底的に行う。1Fの収束作業は、そもそも民間企業がやる事業ではないと思うんだ。新たな時限立法でもいいから「1F廃炉法」みたいな法律を作り、国や東電はじめ、各メーカー、ゼネコン、学者、あと規制委員会のメンバーが一つにまとまり構成されるような組織を作るべきだと思うんだ。
今のままじゃ40年後の廃炉とか、絶対に不可能だよ。国や東電は、早くて2020年からメルトダウンした核燃料を取り出そうと計画してるけど、いまだに炉内の状況はwかあっていないし、取り出すには格納容器内に水を貯めなきゃいけないんだけど、どこから漏れてるかさえわかっていないんだ。漏れてる場所を見つけて補修するまですら、いったい何年かかるかわからないし・・・・・。

結局のところ、原賠法の仕組みが問題なんだということなのだろう。原子力発電所は一度過酷事故を起こしたら事業者だけでどうこうでき代物ではないのだ。それを原発安全神話の元でとりあえず、事故の収束は事業者でという立て付けにしてしまった。それが1Fの事故収束混乱の総てなのだろう。
原発が過酷事故を起こしたら、まず最初に事業者=電力会社を国有化する。そのうえで事故については国が全面に出て対応にあたる。それしかないのである。なのに現実には東電を破綻処理もさせず、国有化もしない。そのうえで東電には血税が果てしなく投入される。東電は東電で破綻しないための取り繕いに終始し事故対応についても抜本的対策を行うことなく、その場しのぎの対応だけをしている。さらにコストカットを徹底的に行うため、下請けや原発作業員にその皺寄せが集中するという構図だ。

作業員の確保が心配
あと、今後心配なのは作業員の確保なんだ。今の流れで順次全国の原発が再稼動して、原発作業員の従事する場所が増えれば、わざわざ短期間で年間の被曝限度に達するような1Fになかなか人は集まらなくなるよ。しかも、海外に日本のメーカーが原発を建設するとなれば、当然、日本人技術者やベテラン作業員はそっちにも流れていくだろうし、ゼネコンだって、自民党政権の政策で大幅に公共事業が増えれば、わざわざ危険やリスクの高い1Fには入札しなくなるかもしれない。
もしそうなった場合、メーカーやゼネコンは国や東電から強力な依頼をされるだろうけど、実際に作業員を集めるのは元請けじゃなく、全て下請けの会社なんだ。つまり、下請けの会社が1Fで仕事をするメリットがなければ、作業員は集まらなくなる。でも、現在の1Fは、予算カットの影響で、作業員がもらう金額は一般の工事とほとんど変わらない。だから、1Fの収束作業より除染作業を選択する作業員が多いし、東電から賠償金を貰って生活が成り立ってる人は、作業依頼の声を掛けてもわざわざ1Fに来る人がいないのが現状。何とかしないと、今後ますます差魚員を集めるのは困難になると思う。
それでなくても、収束作業が3年目になって、1Fでずっとやってきたベテラン作業員や技術者はみんな線量がいっぱいになってるんだ(5年で100ミリシーベルトの限度が近づいている)。オイラもそうだけど、4年目5年目なんてみんな線量残っていないと思う。それなのに、全国の原発が再稼動して、普通に定検の仕事なんかあるようになったら、誰が1Fで働くんだろう、オイラ、本当に心配でし。

原発再稼動論者は再稼動しないと電気料金があがり、日本の産業界に大きな影響を与えるなどという。しかし原発労働者の実態には目を塞いでいるということだ。原発は被曝労働によって成立している。今、全国の原発はいちおう停止している。冷温停止中であっても原発労働はあるのだが、これが総て再稼動となった場合には、原発労働者の絶対数は確保できるというのだろうか。
これまでも定検となれば別の原発に労働者は移動する。原発ジプシーという言葉もあったようにも思う。一定の労働者が全国を流れる。これに地元からの労働供給も加わる。まずそんなところだろう。しかし一方で1Fの収束作業というこれまで経験したことのない作業がプラスになってしまったのだ。被曝量も通常の原発労働とは比較にならないほど多くなる。さらにこれまで経験したことのないような事故によって溶け落ちた核燃料を撤去を中心とした廃炉作業である。他の原発が再稼動して仕事があれば、誰が1Fの危険な廃炉作業に従事しようと思うか。ましてや原発作業員の多くは雇用の安定がない二次、三次、四次〜という下請け労働者たちばかりなのである。

1Fは”運が良かった”事も
それに、1Fは運が良かったと思える事がたくさんあったんだ。
3.11事故の時、1Fではちょうど定検と大きな工事をやってたから、8000人くらいの人が従事してた。たくさんの企業や作業員がたまたまいたからこそ事故対応が出来たし、定期検査工事で準備したケーブル材料なんかも、たまたま大量にあったからこそ直ぐに対応出来たと思うんだ。あれが、もし通常の定検中だったら1000人もいないし、まして、定検じゃない時なんか作業員はほとんどいない。1Fでは地震の3時間後には、1号機ではメルトダウンが始まっている。他の電力会社は、そんなすぐに作業員を集める自信あるのかなぁ?

そう、1Fの事故は様々な偶然の積み重ねによって最悪の事態にならなかった。1号機爆発、3号機爆発の時の風向きによっては首都圏により多くの放射性物質が飛来していた可能性もあったがそうはならなかった。3号機からの水素の流入で爆発した4号機はもっと燃料プールの甚大な損傷に繋がる可能性があった。もしそうなっていたら・・・・・・。

人間の手に負える代物じゃない
やっぱりあの時に現場にいた総ての従事した人に話しを聞いて、全貌を全国の人や世界の人に誌ってもらいたいなぁ。この原発事故がいかに凄い物だったか、どれほどたまたま運が良かっただけで東日本が、いや日本が助かったか・・・。それを知れば、このような原発事故が決して二度とあってはいけない事を、もっともっと真剣に考えてくれるはずなのに。
あの時現場にいた全ての人が「原発事故はどんなに対策やマニュアルがあっても、こりゃ人間がコントロール出来る代物じゃない、事故の次元が違いすぎるよ」って思ったはずなんだ。あの大爆発が目の前や頭の上で起きたら、誰もが原発はダメだよって思うはずだよ。本当に今でも、「よくオイラたち死ななかったよなぁ・・・」って思うもん。

これが現場の原発を熟知したプロの知見だ。原発は過酷事故が起きたら人間の手で負える代物じゃない。その証拠に溶け落ちた1〜3号機の核燃料が今どこにあり、それがどんな状態かを東電、経産省、規制委員会はまったく把握できていない。高線量のため人間はもちろんロボットでさえ近づけないのである。
そして建屋に毎日莫大な量が流入する地下水は当然高線量の汚染水を毎日膨大な量となっている。どこぞのアホ首相が汚染水は完全に管理化にあるとかぬかしたらしいが、それが事実ではないことは少しでも原発についての知見があれば明らかなことだ。それを原子力ムラに支配されたマスコミが捻じ曲げて報道する(あるいは報道しない)ことによって、大多数の国民は原発事故の状況がどうなっているのかさえわからないまま、あの事故から3年の歳月を過ごしてきているだけなのである。
原発に関しては事実や真実の多義性など存在しない。1Fの過酷事故を現場で目の当たりにし、その収束のための場当たり的な作業に日々従事してきたハッピー氏の感想こそ一義的な事実を提示していると私は思う。
原発はいったん過酷事故を起こした瞬間から、とてもじゃないが人間の手に負える代物じゃない怪物となってしまうということだ。