「嵐の時代、乗り切ろう」森永卓郎〜私の視点

1月10日の朝日16面に載っていた経済アナリスト森永卓郎の「私の視点・今年の『家計』嵐の時代、乗り切ろう」なる記事が、今の経済状況の分析としてまことに的を得ているように思った。たぶんインタビューをまとめた記事なんだとは思うが。要点とかまとめるのがほとほと苦手なのだが、たぶんこんなことが書かれているのではと引用風にメモにしてみる。

・昨年の日本経済を失速させた原油穀物の資源価格高は急速に消滅しつつある。
・原材料価格の下落はコスト低減を通じて企業の業績回復に寄与するので、本来ならば賃金が上昇し雇用も安定するはずであるが、そういう展開になっていない。それは国内の消費者心理が悪化し先行き不安が予想以上に拡大しているためである。
・さらに政府は金融危機に適切な対応をとっていない。まず景気対策の規模が小さいことや2次補正予算案を臨時国会に提出することすらできていない。スイスやアメリカがゼロ金利に踏み切っているのに、日銀はいまだに金融緩和を嫌がっている。
・企業は景気がいいときにため込んだ内部留保があるのに、雇用と賃金を真っ先に切り捨てている。
・この状態を放置すると間違いなくデフレスパイラルが再来する。
・消費者はいつクビになるかわからない不安におびえて消費を控えるため需給が緩和していき、流通業は値下げをせざるを得なくなる。するとメーカーも大手流通から値引きを迫られていく。
・結果として企業収益が悪化していくためリストラが強化され賃金が抑制される。結果として消費者はさらに消費を控えるようになる。
・これはまさしく10年前に我々が経験したことである。
デフレスパイラルに突き進んでいくと一度職を失った正社員の再就職は困難を極めることになる。結果として真面目に働いてきた人がホームレスになってしまい、街に失業者があふれる恐れがでてくる。

こうしたハードな時代を乗り切るために森永氏が個々人に対して提示するのがいかのような方策でる。

・まずできることは「超節約」である。電気の契約アンペアを減らす。パンの耳をかじってでも貯金をすること。年収200万でも100万貯めた人もいる。
・株価が上がるタイミングを待つのもいい。不当に安い株価は必ず戻る。
・収入の足しにするためネットオークションやアルバイトをする。

現状分析はいい、ほぼ的確だと思う。しかしそれに対する処方箋の提示がこれである。節約の勧めだけなのである。なんともトホホな御託である。ちょっと残念だ。どんなに節約しても出るものは出て行く。入るものはどんどん減っていく。でもそれも低収入があってこそなのである。運悪くリストラされたらそこでハイお仕舞いなのである。後は最近派遣村とかでマスコミに露出する機会の多い湯浅誠が『反貧困』の中で定義した「溜め」がどれくらいあるかということだけだ。
反貧困』や湯浅の活動や意見、さらには現在の貧困論については別の機会にでも考えを少しまとめたいとは思っている。ここで私が使う「溜め」の概念は有形、無形の蓄え、単純にお金の蓄え=貯金であり、人間関係や親族等の頼れるストックであり、さらに自分の自信につながるキャリアとか資格とかそういう諸々である。より即物的な住む家とかそういうものもある。逆に負の溜めとしての借金とかそういうものもあるかもしれない。そういう「溜め」が少ない場合、あるいはまったくない場合は、リストラされて職を失う、定収入の道が絶たれると、あっという間に最下層へと転落していく。今、さかんに取り上げられている派遣切りとかの事象はまさしくこういうことなんだろう。
話は森永卓郎の論に戻す。森永氏は一応経済政策についても論じている。

・徹底した節約は消費を悪化させるだけなので、本来的には政府や日銀が徹底した財政出動を行う、金融緩和で国内需要を作り出して消費者のサイフのヒモを緩めるようにしなければいけない。
定額給付金についても1世帯数万円程度ではなく、少なくとも1人10万、1世帯4人で40万くらい配らなくては消費に影響が出ない。
・さらに公共施設の耐震強化や無駄なダムを壊すなど必要な公共事業を大幅に増やす必要がある。ようは「チマチマ」やっていても効果がでない。
・財源は埋蔵菌だけでなく、例えば相続税の課税対象になっていない遺産相続だけでも試算すれば数十兆円ある。また富裕層の所得課税を強化する。アメリカやイギリスでもそうした方針が打ち出されているが、ようは「困ったときは、金持ちとあぶく銭から取る」というのが基本。
・さらに日銀が動かないのであれば政府が日銀券とは別に「政府紙幣」を発行して資金供給を増やせば急速な円高にもストップがかかるはずである。
・いますぐ「強くて大胆な政策」を進める必要がある。

まあこんなところだろうか。ようは政府による財政出動であり、公共事業を増やして国内需要を増やしていくと、結局のところはオールドなケインズ的発想に収斂されてしまうような印象だった。まあ今の経済状況にあってはだいたい皆さん口を揃えてそのようなことをおっしゃっているので、目新しさはなにもないと思った。
ようはきちんと現状は分析できる。でもそれに対する対策はというと、やっぱり月並みなものしかないと。で、それが今の現状に対する適切な処方箋たりうるのかどうかというと、大いに??なのである。でも今の状況は実は、十分な議論をして何が適切なのかを探るような段階では実はないのではないかとも思う。とにかくなんでもいいからやっている、もはやそういう状況にきつつあるのかもしれない。