資本主義はどこへ〜ケインズなら、ドラッカーなら

政府の財政出動、公共事業を増やすという処方箋が現在でも有効なのかどうかを考えるのにタイムリーな記事が朝日の1月11日7面オピニオン蘭にほぼ1面を使って展開されていた。現在の経済状況に対してもしケインズドラッカーがいたらどんな分析や提言を行ったか。それを国内でケインズ研究、ドラッカー研究の第一人者である伊東光晴氏と上田惇生にインタビューしてまとめた記事である。
記事はこんな風に始まる。

資本主義はどこへ
もし今、この2人が生きていたら。大恐慌下の73年前、その後の経済学を変える「一般理論」を書いた経済学者のケインズと、同じく恐慌を経験し「マネジメントを発明した男」と呼ばれる経営思想家のドラッカー。経済政策に企業経営に、どのように分析と提言をするだろうか。詳しい2人に聞いた。
資本主義に基づく経済や社会はどう変化するのか。

財政出動や公共事業投資の有効性を考えていくため主に伊東氏のケインズ的な言説を主に引用してみる。

Q.・・・・・ケインズなら現在の不況をどう見ますか。
A.着目するのは、市場中心主義が生んだ投機の弊害です。投機が順調な経済の流れに乗った泡なら害はない。しかし大きな渦を巻き、経済社会を飲み込みだしたら、手に負えないものになる。『一般理論』でそう書いています。今回の事態はまさに『手に負えない事態』を生みました。1929年の恐慌の発端は株式市場のバブル、今回の発端は不動産市場のバブルです。
Q.どんな不況対策を提言しますか。財政出動は。
A.日本では欧米のように金融機関への資本投入は必要ありません。財政出動は、不況の緩和策にはなるでしょう。しかしケインズは『大型財政で景気を回復させる』とか『不況を脱する』などとは言いません。これだけ大きな不況は、すぐに手に負えるものではない。アメリカの不良債権による損失が、公共投資で補えますか。
Q.事態は深刻です。日本でも企業が次々と大幅減益や人員削減を発表しました。
A.この状態で、あたかも何かできるかのように言うのは間違いです。確かに財政支出を増やせば、その分だけ一時的に生産水準が上がります。しかし、その効果は減衰します。景気を回復させるために民間投資が誘発されなければいけません。リストラ中の企業が、そんな投資をするでしょうか。

一方ドラッカー的な言説はどうなるのか。同じ政府の財政支出について上田氏はこう語る。

Q.政府の役割は。
A.政府は景気を動かせません。『不況に対して財政支出を増やせという処方は、(病気の男の子に)女の子と付き合えば元気になるよ、と言うのに等しい』と書いています。一律の対策などというものはありません。政策も、きめ細かく、一つ一つです。

そうなのである。結局今の世界金融危機に端を発した大不況に対して、政府の財政投融資は有効なカンフル剤になりそうにないのである。ようは即効性のある処方箋はなにもないということなのだろう。そのうえで何が必要なのか、ドラッカー的にいえば大企業は「利潤追求を最大の目的」とするのではなく、社会的モラルを再認識する。そのうえで例えば安易な派遣切りといった雇用収縮ではなく、内部留保を放出してでも雇用を維持する使命を果たすべきという経営倫理論めいた方向性を唱えることになる。
一方ケインジアン的な方策としては、かってのアメリカのニューディール政策が作り出したような修正資本主義の道、「中産階級社会への復帰」がモデルになるという。ようは「低賃金の引き上げと高額所得者への累進課税による『大圧縮政策』の再現ということらしい。
結局のところ落としどころは極めて平板なところに落ち着くのだろう。ようは市場の暴走によって恐慌が起きる。市場経済に規制を加えて再分配型の社会を作りだしていくということか。なにかいつか来た道と言う感じもしないでもない。
いずれにしろ即効性のある経済施策などはなにもないのである。歴史に学ぶという意味でいえば、今回の不況はたぶん10年程度のスパンで続いていく可能性が大だと思う。失われた10年の後にバブルがやってきてまた歴史は繰り返されていくということなんだろうか。