妻の近況

昨日、帰宅すると妻がPCを立ち上げていた。私と妻が加入している健保組合のHPを見ていたようで、保養施設の9月の空き状況をチェックしていた。
「パパ、箱根と日光が空いているけど、とらない」
今月の二回の小旅行のせいか、すっかりお出かけモードに入っているようだ。それでなくても毎週、土日はやれどこかへ連れていけ、買い物に行きたいを連発している。病気になる前は超がつくほどの出不精で、家でごろごろ寝ているか、テレビ見ているかの人だったのが。
まあ、家族三人で買い物に行ったり、それこそ近場へドライブとかしても、失敗らしい失敗も少なくなってきている。本人も家族もいろんな意味で学習をしている。お出かけや旅行も生活訓練の一つと考えればとも思う。
妻のように脳をやられた患者さんでは、様々なことでのモチベーションの低下、行動意欲が減退するという例も多いと聞く。そんなことを考えると妻のお出かけ症候群は、逆に有難いことなのかもしれないとも思う。でも、しょっちゅう彼女を連れていくのは、けっこう疲れる部分も多々ある。それこそ急いでの移動が端から無理なわけだし、30分ですむ買い物が1時間以上にということもある。移動の迅速化を考えて彼女を車椅子に乗せると、それこそスーパーだと、じゃあ誰がカートを押すみたいなこともある。4点杖は車椅子を押している時はじゃまだしとか。
それでも妻の回復ぶりは、自宅生活への適応とも相まって、うまくいっているのだろうとは思う。受け答えだってだいぶんまともになってきたし、ゆっくりではあるけれど4点杖での歩行も安定している。歩行距離とかもずいぶんとのびてきた。うまくするとあと1年もすれば職場復帰も夢ではないかななどとも思う。でもそのことを話すと、妻は即座に「無理よ」と一言だ。彼女にとって仕事への障害は、まず片麻痺の問題であり、通勤の問題ということになるらしい。確かに左上肢、左下肢の機能全廃という現実はあまりにも高すぎるハードルなのかもしれない。
国リハの主治医と退院間際に話をした時に、家族の希望として妻が何らかの社会復帰を目指すという目標設定のうえで、可能性の範疇として職場復帰のことも聞いてみた。でも、医師からは、当面の最終目標は、家事を少しづつでもやっていけるくらいに考えたほうが良いでしょうとたしなめられたのを思い出してしまう。医師の内心としては、脳梗塞巣の大きさからして、職場復帰は難しいだろう。今の回復でも奇跡に近いのだからみたいな考えがあるのが透けてみえるような話ぶりだった。
保養所の件については、日光よりも箱根がいいだろうと妻に言った。毎月配られる健保の会報に箱根では、高齢者用介護施設が設けられているという記事を読んだ記憶があったからだ。たぶん介護用の道具とかも常備されている可能性もあるだろうと思った。
会社で暇を見つけて健保に電話してみると妻に言うと、自分で電話してみるという。なんとなく半分どうでもいいやとも思い、よろしくと答えた。
そして今日はいつもの昼時の定期電話で、予約をとったとのことだった。それから、3回、4回と連続して電話をしてきた。こっちはもう仕事時間になっていたのに。要件は、支払いはどうしようか、お風呂の介護椅子とかは用意しているらしい、などなど。健保とのやり取りを思い出しては電話をかけ、みたいな感じだった。最後には、ちょっと怒ったような口調で、こっちは仕事中なんだから、こっちのことも考えて。そうやって頻繁に電話してくるのも、注意障害の一種だよ。旅行のことで頭がいっぱいになって、他のことが全然考えられていないんじゃないのとたしためた。
まだまだ回復途中なのである。