角川武蔵野ミュージアム

f:id:tomzt:20201204154611j:plain
f:id:tomzt:20201204154551j:plain

 角川武蔵野ミュージアムなるものに行ってきた。

 午後、友人と最寄り駅の東所沢で待ち合わせということになっていたのだが、東武東上線が倒木の影響でストップしていて復旧は4時とか。友人には、とにかくなんらかの手段で行くからと電話した。それからまずバスで本川越まで出て、西武新宿線で所沢まで行く。そこで西武池袋線に乗り換えて秋津まで。そこから5分ほど歩いて武蔵野線新秋津駅から一駅の東所沢まで。当初、2時の約束のところ着いたのは3時半過ぎというなんとも埼玉小旅行をしてしまった。

 さてとこの角川武蔵野ミュージアムであるが、KADOKAWAと所沢市が共同で進めている街づくりプロジェクト「クールジャパンフォレスト構想」の拠点施設サクラタウン内にある図書館、美術館、博物館を融合した文化複合施設なのだとか。なんかプレス資料とかを読んでるだけでちょっと恥ずかしい。いまさらクール・ジャパンもないものだと思ったりもする。そしてその4階部分が本棚劇場という名の図書館になっていて、さらに5階は武蔵野ギャラリーという武蔵野界隈の本を集めたフリースペースになっている。

 この4階、5階部分を見学するのに1400円の入場料が必要となり、さらに3階のアニメミュージアムについては別料金となっている。4階の蔵書については角川文化振興財団のおそらく資料室に蔵書していた書誌を中心にして、新たに荒俣宏松岡正剛らによる選書とユニークな選書によってジャンル分けと棚づくりがなされているという。

f:id:tomzt:20201204155053j:plain
f:id:tomzt:20201204155338j:plain

 そして本棚劇場と称して8メートルの高層書架を設置し、時間によってプロジェクション・マッピングも行っている。まあちょっと圧倒されるような書架ではある。

f:id:tomzt:20201204160442j:plain
f:id:tomzt:20201204161848j:plain
f:id:tomzt:20201204161844j:plain

 しかしその上層部分の本を手にすることは不可能で、完全に本はディスプレイと化している。これってTSUTAYA図書館の例のハリボテと同じ。こっちはリアルな本なのでより罪深いかなとも思った。さらにこの高層書架に映し出されるプロジェクション・マッピングが昔懐かしい角川映画の予告編で、『人間の証明』のあの「母さん、僕の帽子~」という西城八十の詩を松田優作がモノローグするのとか、『野生の証明』の薬師丸ひろ子の走る姿とかが映し出される。

 正直、これほど低レベルのプロジェクション・マッピングは以前見た岩下新生姜ミュージアム以来だったかもしれない。もっともあっちはチープ感を狙ってやってる節があるんだけど。

 ちょっとげんなりする部分が多かった。普通に手に取れる本については懐かしいものとか興味をそそるものとかも多数あるので、それなりに本好きにはたまらないかもしれないと思わないでもない。

 試しにほぼ全巻置いてあった岩波の『日本古典文学大系』を何冊か取り出してみると、なんと中にはスリップが挟み込まれたままで、ほとんど開かれた形跡がない。多分、角川の文化振興財団か角川書店の資料室にあった本だとすると、誰も資料として使わなかったのかな勝手に想像してみたりする。スリップについては普通、納入された段階で抜き取るはずなのにそれがされていない。ちょっとルーズだけど、奥付みると初版本なので昭和30年代の出来事なんで、事情は知る由もない。友人とはこれって万引きでもしてきたんかと軽口を言い合った。

 以前、興味もあったので海老名のTSUTAYA図書館を1~2回訪れたことがある。そのときに思ったのは、やはり図書館は蔵書が命で、それはまず質と量、つまり選書される書籍の質であり、何より圧倒的な蔵書冊数で図書館の価値は決まるのではないかということ。なので見映えがするとか、ちょっとお洒落な棚とか、そういうのは邪道としか思えなかった。なので本をデコレーションの道具、素材として利用したディスプレイ的な書架というのはやっぱり邪道、本筋から外れ過ぎているというのが率直な感想だった。

 そしてその思いをこの角川武蔵野ミュージアムでも強く感じた。隈研吾による異形なオブジェや通路を設けないディスプレイとしての8メートルの書架は本当に必要なのか。同じ金をかけるなら、もっと実用的な器と蔵書冊数に重きをおくべきではなかったのか。本を一つの道具として、いかにも「文化でござい」という商業施設を作りましたというのが角川と所沢が考える文化ミュージアムなのかと思うと、ちょっと、いやだいぶ引くような思いではあった。

 ミュージアムに隣接する商業施設内には書店やショップ、レストラン、ホテルも入っている。さらにオフィススペースにはKADOKAWAのオフィスも入ってるほか、書籍製造・物流施設もあるという。遠目から見た限りでも、書籍を仕分けるソーターが確認できたので物流もここで行うのかもしれない。物流施設と商業施設を同じ建物内でというのはちょっと面白いと思いつつ、裏側にトラックをつけるパースとかあるのかなどとちょっと想像してみた。

f:id:tomzt:20201204172031j:plain