病院坂の首縊りの家

 懐かしい角川映画金田一耕助シリーズである。これもまたBSプレミアムであるが、アマゾンプライムで観ることができる。

病院坂の首縊りの家

病院坂の首縊りの家

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 ウィキペディアによると金田一耕助シーズの最終作なのだとある。

病院坂の首縊りの家 (1979年の映画) - Wikipedia

 この映画ほとんど覚えていないのだが、だんだんと観ているうちに一回くらいは観ているような気がしてきた。主演の佐久間良子が慮辱されるシーンだけが妙に艶めかしくも凄惨で記憶に残っていた。

 しかし筋書も人物模様もよくわからない映画である。映画がそうというよりも原作自体がすでに破綻しているという話もある。横溝正史としてはキャリアの末期の作品であるらしく、例のオドロオドロシイ雰囲気だけの作品といっていいかもしれない。

 多分、シリーズはこれで最後ということが暗黙のうちに判っていたのだろうか、セルフパロディめいたシーンもけっこうあったりする。それ以前にプロローグとエピローグに横溝正史自身が出演し、プロローグではそこに石坂扮する金田一耕助が訪問するというシーンとなっている。金田一耕助セルフパロディ大林宣彦の『金田一耕助の冒険』があるが、これはあくまで市川、石坂による金田一もののフィナーレ作品という趣だ。

 この映画にしろ、他の金田一ものにしろ、筋立てはあまり意味をなしていない。ただただオドロオドロシく、因縁めいていて、最後に金田一耕助がみんなの前で犯罪の全貌を明らかにし、その間にだいたいのところ主犯の美しいヒロインが自殺するというものなんで、まあそういうものだと思っていればいい。しかし、横溝正史はそういう度黒いシチュエーションのモチーフとしてとにかく近親相関とかそういうモチーフを持ち込むけど、もうそういうのポリコレ的にも難しいのではないかと思ったりもする。

 地方、田舎の因習、悪しき血縁により因縁、その中で翻弄される女性たち。まあだいたいこの手のパターンである。それでも犬神、八墓、本陣とかにはなんとなくロマンめいたものもあり、小説的にもけっこう面白く読んだりもしたし、映画もけっして嫌いではないのだが、こうもパターン化されてくるとそれもゲンナリするところもある。

 なので良いところを探すとすれば、やっぱり市川崑の美学というか、映像は美しい。そして女優陣をきちんとその役どころにあわせて美しく撮っている。怪しげな雰囲気とともにイメージショット的な映像を楽しめればそれでいいかもしれない。市川金田一シリーズは中年の美しい婦人というメインのヒロインとは別に、運命に翻弄される若き美少女という役柄が配置される。ほとんど覚えていなかったのだが、今回その役は桜田淳子が演じている。彼女はデビューから6~7年目、多分20代前半なのだけど、これがまたけっこう好演している。普通に美しいし、これは市川崑のの力業かもしれない。

 桜田淳子はデビュー以来けっこう見ている。普通に好きだったかもしれない。多分、花の中三トリオの中では一番好きだったかも。初主演映画の『スプーン一杯の幸福』も劇場で観た記憶がある。アハハ。歌も演技力もキャリアを重ねるごとに増していたから、カルト宗教というファクターがなければ大成したのではないかと思ったりもする。まあこれも歴史のIFかもしれない。映画というのは役者さんの一番華があるときを永遠に記録できるメディアだから、こうして若くて美しい人の姿が記憶に残っているのはそれはそれでいいことかもしれないと思う。

 あとはこの映画に関して何か・・・・・、ないな。

 しいていえば、この映画では石坂金田一耕助と掛け合いみたいな形で金田一の助手役を草刈正雄が演じている。これがけっこういい味だしていたりもするのだが、ひょっとしたら角川春樹と市川には、石坂金田一耕助とは別に草刈をメインにした探偵モノの企画でもあったのではと思ったりもする。

 カドカワ映画、小説と映画のメディアミックスによる相乗効果を狙った商売は70年代に大成功を収めた。もう忘れられた存在だった横溝正史に目をつけ、金田一耕助シリーズで売り出した。そして新進気鋭のミステリー作家だった森村誠一を売り出した『人間の証明』などなど。

 カドカワ映画、プロデューサーたる角川書店の二代目社長角川春樹はまれにみる才能にたけた編集者だったと思う。そして裏方であるべき編集者がプロデューサーとして全面に出てくるという点でもこれは初だったのだと思う。

 それ以前の名編集者といえば坂本龍一の父親でも河出書房の坂本一亀、文芸春秋池島信平、岩波の小林勇といったオールドネームが思い浮かぶ。それら作家との交流から出た編集者とはまったく位相が異なる形で出現したのが角川春樹だったと思う。彼といえばカドカワ映画、メディアミックスで一時代を築くも、映画、出版いずれでも失敗し、覚醒剤で逮捕され、さらには実弟角川歴彦にとって代わられて角川書店を追放された。

 しかし、若き日の角川春樹は目利きのきく編集者であった。映画公開前後に版権をとり出版された『ある愛の歌』はベストセラーとなったし、スウェーデンの警察小説マルティン・ベック・シリーズを売り出したのも彼だ。そう、70年代前期、角川は翻訳小説の世界に新しい風を吹き込んだ。それまで翻訳ミステリーは早川と東京創元の独壇場だったが、そこに参入したのが角川春樹だったように記憶している。なので、自分にとって角川春樹は派手な映画プロデューサーというよりも秀逸な編集者というイメージがつ強い。彼の編集としての目利きはひょっとすると、彼のフォロワーでもあった幻冬舎見城徹なんかよりはるかに上だったのではと思ったりもする。

 まあいいか。『病院坂の首縊りの家』は古き良きカドカワ映画、市川、石坂金田一耕助シリーズのフィナーレ作品といえる。ただただそれだけの作品でもあるし、それだけで十分観る価値ある映画だとは思っている。